おかまいなしの楽観者
突然のセンチの告白に時が止まり、そして何事もなかったのかのように時は再び動き出した。
「ま、なにかあったらこちらを訪ねるといい。
すぐ近くだからの」
「はい、お休みのところ失礼しました」
じゃ、といって玄関をくぐる私。
ようやくセンチは待ったをかけた。
「突然の告白だからな、驚くのもわかる。
でも、俺は絶対に逃がさないからな!」
センチの真剣な言葉に少し驚くが、ミリは愛想笑いを浮かべ、軽く頭を下げて家を後にした。
ため息をつきながらアパートに戻る。
とりあえず段ボールの掃除を始めた。
作業の合間に思い出すのは、今日の出来事。
「キロを見つけて、博士も……
…それに、会っていきなり告白か…」
くすと笑う私。
人から告白されたことなんてなかった。
そもそもミリは人として扱われることが少なかったから、センチの突然の告白が少し嬉しかっのだ。
嬉しかったが、
……今はなんとしてでもキロを取り戻さなければ。
ミリ一人の体でも限界がある。
被害は飛び火してしまうかもしれないのだ。
それほど、キロの遺伝子は強力。
通信が入る。
支給されているスマホの画面には、ミリの担当官で自称日本通のパスカルからの電話。
『――キロに接触?
予想外の展開だな、ツイてるじゃないか。
ニホンはやはり素晴らしいね』
パスカルは嬉しそうに口笛を吹く。
ミリは一応センチのことは伏せておいたが、監視隊から報告が近いうちに入ってもおかしくはない。
キロが乗った車のナンバーを告げて、明後日にでも使用者の住所近くに越したいと希望を出すミリ。
『じゃ、こちらもお願いがあるんだけど?』
パスカルはニホンの『ウチワ』に惚れこんでいるらしく、十種類ほど集めてくれれば手を打つと言ってきた。
これにはミリも苦笑する。
私用でそんなことを頼むとは。
監査部に報告が入らなければいいけれどと通信を切る。
「とりあえず、やり過ごせそうね…」
辺りが明るくなってきた。
どうやら朝までずっと作業をしていたらしい。
荷物自体は少ないのだが、慣れない作業に手間取ってしまったようだ。
汚くなった雑巾を洗っていると、インターホンが鳴る。
郵便局かな、と思うミリだが、のぞき穴から見えたのは、
満面の笑みで立っている青年。
「ミリ〜!
朝ごはん持ってきたぞ〜!
一緒に食おうぜ〜!」
ミリは頭を抱える。
もう監査部に報告がいっているかもしれない…こんな能天気な行動をしているのだから。
とりあえず入って、と部屋に招き入れると、センチはサンドイッチを抱えていた。
「どーもどーも!
お近づきのしるし、俺お手製サンドイッチどーぞ!」
文句すら受け付けないセンチの笑顔に圧されて、ミリは仕方なく食べる。
と、おいしくて顔がほころんでしまっていた。
「おいしいだろ!?」
「うん…。おいしい」
暖かい時間。
誰かと、こんな風にご飯を楽しむなんて…まるで小説みたい。
ミリにとっては、初めての出来事だった。
「俺、無い頭で一生懸命考えたんだけど、
俺たち二人で組めばいい感じになるんじゃないかって思うんだよ。
ミリが危ない目にあってもさ、俺の運の良さで何とかカバーできるじゃん。
それに俺の運の良さで人探ししたらすぐ見つかるしさ、
イイことづくしなんだよ。
結構体丈夫だし、度胸もあるし。
ミリの為なら俺、頑張れるからさ、
弟さん探しだけでも付き合わせてくんないかな」
ハムサンドに夢中になっていたミリは、頬張ったまま固まってしまう。
困った、という気持ち以上にうれしかった。
実は願ってもない申し出だった。
一人では探せない人探しに、センチが賛同してくれることは非常に助かる。
だが、博士やセンチ自身の身の補償はできない。
そんな言葉にも、センチは大丈夫だよ。と言うだけだった。
「じゃ、決まりー。
この仲間の証の書類、書いてくれるよな!」
さっと出した書類とボールペンを差し出すセンチ。
「ここと、ここにサインくれるだけでいいからさ!」
「……これ、結婚届の書類でしょ」




