とりあえずみんな知り合いか
ミリはそのまま自分のアパートに帰ると言ったが、
センチはとりあえずウチに来いと言ってきかない。
「俺んとこのじーちゃん、医者やってるからさ。
とりあえず診てもらえよ。
トラックのタイヤにぶつかって無傷なんてありえねーんだから、大事を取ってさ」
普通の体じゃないから大丈夫、
とミリは言いたかったが、そうもいかない。
この体の秘密は国家間で固く禁じられている最高機密。
仕方なく医者だという『じーちゃん』のところに、ミリはセンチと二人で向かうことに。
「じ−ちゃーん!
ちょっと来れるかー!?」
ついた先は質素な日本家屋。
最近の日本に瓦と木材の家はないと聞いていたミリにとって、センチの家は小さな衝撃だった。
思わずきょろきょろとあたりを見回してしまう。
玄関から直結している居間に通されると、炊飯器が目に入った。
「やっぱり釜はないのね…」
一人納得するミリ。
窯を使っている日本人は絶滅したと聞かされていたのだ。
「あれーじーちゃん、寝てんのかな。
ごめん、ちょっと呼んでくるから、その辺にいてくれ」
センチは居間に座布団を出して、さらに奥の部屋に進んでいった。
ミリはその座布団が何のために出されたのか分からなかった。
「これは…なんで出したのかな…」
荷物を乗せるためだろうか?
いや、荷物持ってないから違うだろう。
行き着いた結論は『魔除け』、と納得。
日本のことを教えてくれた教育係は、『日本人の作法には、どこかしら魔除けの意味合いが込められていることが多い』
と言っていたのを思い出す。
そっとその座布団をまたいで、その先のちゃぶ台に目を向ける。
灰皿と一冊の本。
――題名は『近代生命科学応用』
あのセンチが読んでいるとは思えないので、『じーちゃん』のものなのだろう。
ミリはそっと手に取る。
分厚い本の中に、一枚の写真がしおりのように挟まれていた。
それは……
「待たせたなぁ、じーちゃんの小便て長くってよー。
…じーちゃん、こっちだよ!
トラックのタイヤに当たってっから心配でさ」
ミリの体が強ばる。
写真に写っている人物に、目を疑う。
「もしかしてツァン・イー…博士……?」
きょとん、とするセンチ。
遅れて入ってきた老人は、ミリの顔を見て固まる。
「あれー、知り合いか?
ミリ、じーちゃんの名前なんで知ってんの?」
その場の緊張感にそぐわない、センチのとぼけた声だけが二人の沈黙を打ち消した。
この老人こそが、ミリとキロ―――
二人の特化特別遺伝子操作実験体を生み出した
『天才科学者』ツァン・イー博士だった。




