いわゆるKY?
「ミリー!生きてるかー!」
まさに絶望諦めムードの中、その銃声は高らかに鳴り響いた。
サブマシンガンを抱えて、センチは遺伝子炉の扉を突入してきた。
警備兵は驚いて出遅れるが、すぐに体制を取り直し、負傷した兵を退けて携帯している銃を一斉にセンチに向ける。
サブマシンガン MP5を所持しているが、訓練を受けている警備兵には劣る。
形勢は不利、のはずだが―――センチは笑う。
「じーちゃん、連れてきたぜ!」
その言葉に反応してか、どこかで電子音が響く。
この遺伝子炉には侵入者対策として、頭上からの迎撃機関銃がぞろりと側面の壁に配置されている。
自動警備システム内の遺伝子炉保護装というシャッターが遺伝子炉を封鎖してから、それは放たれるようになっていた。
その迎撃機関銃が、次々と火を噴いていく。
倒れていくのは、警備兵たち。
驚くガウス所長だが、それは迎撃銃器への驚きではない。
『君が三号!?』
嬉々として、センチを指さすガウス所長。
倒れていく警備兵を盾にして、少しずつセンチとの距離を縮めていく。
『君は確か抑制不条理遺伝子だったっけ。
こちらに来なさい、三号!
さぁ、おいで!』
手を伸ばすガウス所長。
センチはサブマシンガンを構えたまま、首をかしげる。
「…ハロー?」
所長の両足を迎撃機関銃が打ち抜き、叫び声と共に倒れこむ。
センチは所長を無視して、ミリのいる警備兵につっこんだ。
が、すでに弾切れ。
ずっと乱射していたのが祟ったらしい。
仕方なく銃を放って、体当たりしようとしたとき、ミリが後ろから警備兵を蹴り倒す。
「遅いわよ、センチ!」
「そんなに会いたかったか、ミリ!」
迎撃機関銃のサポートを借りて、二人は警備兵と研究職員を倒していく。
その隙をついて、キロはシャクをそっと腕に抱えた。
彼女はすっかり軽くなっていた。
キロの背後から警備兵と研究職員が取り戻そうとするが、迎撃機関銃とミリの攻撃によって無事扉の外に逃げてこれた。
二人は思わず抱き合う。
「ごめん、シャク。
また傷つけた…僕のせいで…」
シャクの耳元で涙を噛みしめるように呻くキロ。
彼に言葉をかけようと、シャクは口を開けるが、キロはすぐに身を離す。
「これで全部、終わらせる」
涙目のまま、キロはシャクに背を向けた。
止めようとするが、シャクの手は虚しく空を掴んだ。
迎撃機関銃によって、剥き出しになっている上空の遺伝子炉に攻撃が行われていた。
ガウス所長は研究職員に抱えられながら、システムを正常化しろと命じるが、研究職員は額から弾の汗を流しながら首を振った。
『不可能です!
何者かがシステムのパス及び統率信号を十秒毎に書き換えています。
常人のスピードでは、この書き換えの乗っ取りを防ぐことなどできません!!』
『じゅ…十秒ですって…!?』
確かにその速さについてこれる人間はいない。
その言葉に、ガウス所長は元研究所長であるツァン博士だと確信し、同時に恐れはじめていた。
『側面銃器具により、遺伝子炉が停止!!
遺伝子能力者の発動確認指数が上昇していきます!!』
キロは扉を背に、歩き出す。
ここは研究室の地下の最下層部分。
……閉じ込められれば生き残れない。
ミリはキロの姿を確認し、すぐに腕の『遺伝子無効化装置』を作動させる。
それを確認しながらキロは叫んだ。
「姉さん、センチさんを連れて逃げて!
外でシャクが待ってるから一緒に!!」
「あなたはどうするの、キロ!」
早く!と叫び、キロは一歩ずつ前進していく。
キロの遺伝子能力は強力だ。
それは感情も起因して破壊度数も上昇していく。
ミリは仕方なく、首を傾げているセンチを連れて、扉から逃げていく。
ミリが逃げたのを確認して、キロは遺伝子炉の近くにいる所長と研究職員に近づいていく。
「fürchterlich?(僕が怖いか)」
不敵に笑うキロ。
キロの姿に、恐れおののいている職員たち。
失神している者もいるなか、ガウス所長だけは微笑んでいる。
「nein」
ミリたちは階段を駆け上っていた。
センチはシャクを背負って、ミリと上階の主要研究室内エレベーターを目指す。
エレベーターに乗ってしまえば、一気に地上へ出られる。
だがさっき後ろで起こった轟音で、この研究所内の電子回路が狂ったのか、あちこちの部屋で爆発が起こっている。
壁や床にはひびが入り、天井が崩れ始めている。
もはや地上に出られるかどうかも怪しい。
ようやく上階へ着き、主要研究室の扉を開けた。
そこには、十数体もの人間の形をしたものが溶液に浸かっていた。
おそらく失敗作か製造途中過程のモノなのだろう。
無造作に置いてある人体の一部や胎児の姿が、研究所内の至る所に捨ててあった。
ミリはこの異様な空間に吐き気を覚える。
ミリを支えているセンチの背中で、シャクはそれらを愛しそうに見つめていた。
震える指でミリはエレベーターを起動させるが、突然シャクが暴れ出した。
たまらず背中からおろすセンチ。
シャクは立てず、這いながらエレベーターの外に出ていく。
「どうしたの、もう行かないとこっちまで…」
「…わたしなら…キロ様をすくえるのです……つたえなければ…」
弱弱しく這っていくシャクの姿を見て、ミリは苛立ちを覚える。
「今更遅いわよ!
もうキロは、覚悟を決めたのよ!!」
「わたくしは、キロ様に…すくわれた…」
シャクの言葉に涙が混じる。
「キロ様とであわなければ、おもいをかわさなければ…わたくしは、ただのそうちだった…。
でも、キロ様は…
わたくしをえらんでくださったんです…
こんどは、わたくしが…キロ様をえらぶんです…」
シャクは今にも折れそうな腕で、床を這う。
必死の想いだった。
その想いの内を、その強さを、ミリは知っている。
ミリは唇を噛みしめて、彼女の肩を掴む。
「でも、貴方は今、行ける状態じゃない。
とにかくこっちに…」
突然、黙ってシャクの言葉を聞いていたセンチが降りて、シャクをエレベーターに押し込めた。
驚く二人。
「あんたの言い分はよく分かったよ。
ここは俺に任せて、とにかくいきなよ」
空気が止まる。
「任せてって…センチは?」
「ん?だから伝えに行くんだよ、弟君に」
爆音。それは近くまで響いている。
「じゃ、またな」
センチは外側から閉めるボタンを押した。
「センチ!?」
ミリは驚いたまま、へたり込む。
最後のセンチの明るい笑顔だけが、ミリに残された。
上昇していくエレベーター。
センチはそれを見送ってから、研究室内のテレビモニターに呼びかける。
すると音声だけが返ってきた。
『無茶をするな、センチ…。
キロとてもう生死は分からんのだぞ』
ツァン博士の声だった。
センチが階段から落下していったのち、すぐ下に落下防止ネットがあった。
それは建設され始めた地下での作業に伴って、『偶然にも』最近設置されたものだった。
そこからセンチは降りてきた警備兵の目を『運良く』かいくぐり、主要研究室に入った。
そこは『偶然にも』もぬけの殻で、すべての職員は遺伝子炉に集合していた。
そして、全乗っ取り完了した博士と『タイミング良く』ここで合流したのだ。
博士の心配そうな声に、センチは変わらず笑う。
『大丈夫だよ、俺は運が良いんだからさ』




