ピクニック
はらり、と桜が庭に散る。
枯山水に凝っている博士が、最近白石を敷き始めた。
お茶も習い出したミリも、その影響を受けているようだ。
ただシャクだけはまったく興味がない様子だが。
―――あの爆発後。
研究所は壊滅し、生存者はごく少数だった。
ドイツ政府はこの事件の対応に追われ、国連内でもこの事件をきっかけに、特化特別遺伝子体から手を引く動きが出てきている。
研究所壊滅後、しばらくミリたちはドイツ国内で軟禁状態となったが、元研究所所長とパスカルの力添えで、政府からの厳罰は免れた。
そして日本にようやく逃げ込めた頃には、一年が経っていた。
あれから一年…それでもセンチとキロの生存を信じている。
まだ研究所の地下の最下層まで救助隊がたどり着いていない。
地下最下層は深く、慎重な救助捜査が求められていたのだ。
博士のパソコンに度々送られてくるその詳細を、待ち望む毎日。
「ミリ様、サンドイッチのつくり方をごぞんじですか?」
シャクはあれから少しずつ言語能力をつけていた。
「どうして?」
「ピクニックといえばサンドイッチかな、とおもいまして」
だが、ミリは料理をしたことがなく、今ではシャクが家事を引き受けている。
今までの家事は、なんだかんだとセンチがやっていたのだ。
センチは料理が巧く、おいしかった。
生活の端々にまで彼の思い出は染みついていて、その度にミリは彼の無事を願わずにはいられなかった。
それに……特化遺伝子として人工的にこの世に生まれ、世に必要となくなり、二人は不安だった。
――生きていて、いいのかと。
その答えを模索しながら、ただひたすらに『生還』の言葉を待ちわびていた。
博士の家に移り住んでいるとはいえ、博士はドイツを行き来しているのでほとんど二人っきりだった。
ミリは気持ちが折れやすく、事あるごとに涙ぐんでしまう。
それを慰めていたのが、シャクだった。
彼女はキロを信じていて、まっすぐな心を持っている。
「わたくし、キロ様にミリ様がなきむしだってきいていたんです。
でもわたくしは、きもちがふくざつではないから、あなたをささえることができそうです」
ミリとシャクは次第に絆を深め、共に毎日を楽しむようになっていた。
どうやって生きていくのかは、これからゆっくりとかんがえればいい…。
二人は、そう思うようになっていた。
春が過ぎ、桜の葉が緑に伸び盛る頃。
……ようやく待ち望んだ、言葉が交わされた。
「おかえりなさい……!」
抱き合うキロとシャク。
そして。
「お待たせ、結婚しよっか!」
彼の言葉に、ミリは笑う。
「それより、サンドイッチ、食べにいきましょう」




