永久回廊
頭上高くせり上がった装置は、なんとも言い難い姿をしていた。
まるで巨木のような電気コードに護られた円球体の中心部に、扉のようなものがあった。
キロの目線を察したのか、ガウス所長は満足そうに、気になる?と笑った。
『そう、あれはまだ未完成。
あれを地球の核の中心部に埋め込み、軌道基準が安定して、いよいよ完成なのよ』
所長の後ろの床に穴が開き、機械音が鳴り響く。
せり上がってきたのは、強化ガラスの中で両手首に枷をはめられて、座り込んでいる―――シャクだった。
その顔はひどく青白く、目に隈ができている。
またあちこちに小さな針の後や、痣のようなものが散っていて、それを隠すような白い患者服もところどころ汚れている。
彼女の目には生気がなく、弱弱しく下を向いていた。
その姿を見れば、丁寧に扱われていないことくらいキロにだってすぐにわかった。
『おいおい一号、そんなに噛みつきそうな顔をしなくともいいだろう。
シャクは生きていればその遺伝子作用は正常なのだから、私たちとて希少な価値がある。
ちゃんと…死なない程度に、生かしてあるだろう?』
一号、という言葉に反応してか、シャクは強化ガラスの中で体を震わせる。
そっと彼女の眼が前に向けられていき…瞳にキロが映る。
キロにとっては、まるで時が止まったかのような一瞬だった。
シャクは泣きそうに微笑んだ。
嬉しさと恥ずかしさと情けなさと、…愛しさが、キロの体を巡り伝っていく。
『あそこにシャクを設置し、核に打ち込む。
あとは遺伝子作用と装置の外郭がマントルを突き破って、安定させるまで護ってくれるわ。
そして彼女は未来永劫生き続け、地球内部から生命体と星を護るの!!
もともとその為にいるから、感情だの言語だのの余計なモノは一切排除して、生かすために回路を直結させてある。
失敗はしないわ。
だから安心してね、みんな!』
慰めているのか、自分に酔っているのか。
ガウス所長は人差し指を力強く立てて見せた。
ミリは座らされた姿勢のまま、所長を睨みつける。
『…私たちは、どうなるのよ…』
『私に質問するとは、自分の立場を忘れたの?
でも機嫌が良いので答えようかな。
希少価値の高い一号は、おそらく戦争の切り札として利用されることが多くなるだろうけど、まぁ国の政治事程度にそうそう一号を使わせるわけにはいかない。
大きな大戦以外は研究所で安置する予定よ。
二号のお前は、遺伝子活用としては半端だし、能力も受身的だからね…。
隠密任務のほうが成功率が高いとパスカルから通達が届いているから、一介の諜報員と同様に任務を請け負わせてあげる。
あとは…目下行方不明中の第三号ね…』
ミリの眼が見開かれる。
『…ゆくえ、ふめい…!?
どういうこと、センチをどこにやったの!
キロ!!センチはどうしたの!?』
身を固まらせるキロ。
それを横目で観察しながら、ガウス所長は長い睫毛を静かに閉じる。
『うん、その様子だと死んだのかな。
じゃ、死体を捜させて血液サンプルと遺伝子データを見るとするかぁ』
ちょっと残念、といった具合に肩をすくませて、研究職員に指示をするガウス所長。
キロはひざをついたまま、俯く。
ミリの嗚咽が機械音で消える。
強化ガラスが外され、立つこともおぼつかないシャクを、職員が鎖で引っ張っていく。
キロはそれを見て、涙ぐむしかできない。
シャクはそんなキロを、弱弱しく見つめて瞳の端から涙を流した。
『さて、私の研究もいよいよ完成間近!
シャク、もう二度と地球に出なくていいように、私がしっかりと生体維持を支持するから安心してねっ!』
シャクはただされるがまま、俯き泣いていた。
枷を外され、職員にひきずられるようにして歩き、シャクの『永久回廊』への扉が開く。
そこには永久に自由のない未来が待っている。
誰もそれに抵抗する気力がなかった。
それを変えようとも思えなくなっていた。
ただ一人―――空気の読めない能天気な、彼を除いて。




