秘密の幕開け
キロはただひたすらに廊下を走っていった。
最初は無我夢中だったが、次第に落ち着いてきて、周囲に人が少なすぎることに気がつく。
ここは研究所の最下層地区。
主要の研究をこの上でやっているから研究職員が駐在していることは少ないとはいえ、この非常事態…。
誰かしがかが、キロの目の前の扉の前に張り付いていたっておかしくはない。
目の前には、『Ungültigkeit Gen Aufbahrungsort(無効化遺伝子安置所)』の文字。
扉を引こうとする前に、ふとセンチの姿が脳裏によぎる。
あの階段下は、キロが知っている上では建設途中だった部分…。
今は何ができているか分からない。
ぎゅっと目を閉じるキロ。
彼の前では多くの人の命が散っていった。
おおよその原因は、すべて彼によるもの。
十字架の重みで、キロの心はいつもへし折れてしまいそうだった。
そして今、彼が人生史上最も大切に思っている人がいる。
…今なら、まだ救える。
彼は、思いきり扉を開けた。
『…すべての人工遺伝子の発端は、第一号の誕生によるものなの』
誰もいないはずの無効化遺伝子炉の部屋には、ガウス現研究所長と、後ろ手に縛られて座らされているミリの姿。
そして取り囲むようにして銃を携帯している、何十人もの警備兵と白衣の研究職員たち。
ガウス所長は突然話の合間に入ってきたキロに気づくと、優しく微笑んで、右手で警備兵に指図をした。
一斉に降ろしていた銃口がキロに向けられる。
「キロ!!」
『珍しくちょうどいいわね。
今、ミリにこの遺伝子炉が何故建設されたのかという話を聞かせているの。
キロも聞きたいでしょ?
なにしろ君が興味を持っている『私』のシャクにも、関係する話だから。
まずは、第一号の君の話よ』
「Ich bitte Sie um Verzeihung(もう一度言って下さい)」
キロは震える声で立ち尽くしていた。
彼には伏せられていた、事実だった。
自分が、一番最初に製造された遺伝子体だということ。
ガウス所長はキロの反応など気にも留めない様子で、次々と研究の事実を話していく。
自分が失敗作だということも、そして…
『前研究所長が追放され、ようやく私がここに登場してくるの。
そして私は第一号であるキロの遺伝子に着目し、シャクの遺伝子を製造した。
ただの犠牲にしかならない、このミリ遺伝子とは違い、すべての影響を無効化する―――
それが、シャクの全事象無効化遺伝子なのよっ!』
満面の笑みを浮かべて、ガウス所長は両手を天に掲げる。
『wunderbar!(素晴らしい)
bahnbrechende Erfindung!(画期的な発明よ)
だがね、すべての奇跡は私一人のものではないの。
すべての物語は、すべての奇跡の始まりは…
erster(第一号)!
キロ、君の誕生によるものよ!!』
キロは打ちひしがれた顔で、膝をついた。
しかし所長はその熱い饒舌を止めない。
『君こそ奇跡なのっ!
前所長を私は越えることはできないわ。
そういう意味では彼を尊敬しているわね。
しかし私は屈しないっ!
その証として、私はここで新しい人類究極保護の最後の一歩を完成させるわ!!』
ガウス所長が近くの研究職員に指示すると、地響きとともに地中深くに埋まっていた遺伝子炉自体がせり上がっていった。
『見なさい!
これこそ――人類…いえ、この星を防御する究極装置、
Ewigkeit Galerie(永久回廊)よ!!』




