シャクの真実
地下へはエレベーターでいく。
僕はいつもと違うルートで向かっている。
僕は研究施設が嫌いだったから、あまり道を覚えていない。
でも姉さんはここで任務を積んで実践を積んでいたらしくて、僕よりもこの施設に詳しかった。
博士の『兄弟』と、昔のお芝居には驚かされたけれど、一番の驚きは国内の地下に隠れ家を掘っていたことだ。
あの降り立った森のすぐ下にそれはあって、すでに各国の元研究所員全員が僕たちを迎えてくれた。
もうみんな、おじいちゃんおばあちゃんみたいだったけど。
小さなパソコンをそれぞれ一人ずつ持っていて、車座になってパイプイスに座ってた。
まるで携帯ゲームでもやってるみたいだったけど。
それで軍の基地からミサイルを飛ばしたことから、普通のパソコンじゃないのかな。
僕らはそのあと博士と別れて、隠れ家の奥にある穴倉をずっと進んでいった。
強い衝撃の後、行き止まりだった壁が崩れて、地下行きのエレベーターが稼働して…
で、今に至る。
姉さんはエレベーターの電子カバーを外して、博士から預かった端末を繋いでいる。
そこから『スキャニング』っていうのをして、施設内の第一次警報システム――侵入者の所在を調べる監視カメラとか扉の鍵とかの警備システムを停めるらしい。
そんなことができるの?って姉さんに聞いたら、たぶんできるんじゃないかしらって笑ってた。
エレベーターの箱の中は静かで、蛍光灯の音だけが揺れていた。
エレベーターは勝手に動いている。
たぶん博士のほうで動かしているんだろうけど、
きっと実験生物収容区画に移動してるんじゃないかな、と思う。
そこに行けばシャクもいるだろうし、キロさんもいる。
まずは二人を見つけなくっちゃ。
相殺遺伝子炉を壊す前に人質になっちゃったら大変だし。
…待ってて、シャク。すぐに行くよ。
そっと姉さんを見る。
姉さんとは長い間離れていた時期もあったから、少し見慣れないかんじがする。
よく泣いてたのに、泣かなくなったんだなぁ。
僕がふっと笑うと、姉さんは不思議そうな顔をした。
ちん、と沈黙を破る音。
扉の向こうは真っ暗だった。
でも…僕たちはこの場所を知っている、僕たちはここで暮らしていたから。
記憶を頼りに体で空間を歩いていく。
少し歩いた地点で、鉄格子から声がかかった。
「ミリ?」
「センチ!!」
がしゃん、という鉄格子の音。
センチさんだった。
「いや、さっき急に格子の鍵が外れてさ。
よかった、無事だったんだな…ミリ」
目が暗闇に慣れてくる。
姉さんはセンチさんに平手打ちをしていた。
「心配させないでよ…びっくりしたんだから…!」
すすり泣く声、姉さんだった。
センチさんは優しい声で姉さんに謝っていた。
微笑ましい風景、でも僕にはまだ足りない。
「センチさん、シャクは…一緒に捕まった女の子は?」
「おお、君がミリの弟か。似てないなぁ。
これからはお兄さんって呼んでくれよ!」
豪快に笑うセンチさん。
暢気な人なんだなぁ。
こんな状況でなければ僕だって笑いたい。
「勝手に決めないでってば!
そうよ、センチ。あの女の子はどこ?」
センチさんは、頭をかしげながら唸る。
「それがなぁ…よく分からないんだ。
収容されたのは俺だけでさ…。
女の子は、知らねーおじさんに手を掴まれてどっか違う部屋に連れてかれてったよ。
なかなか可愛い大和撫子さんだったけど、
まさか研究所長さんがロリコンとはねー」
僕の頭の中は真っ白になった。
センチさんの言葉を真に受けたんじゃない。
シャクだけを特別扱いしていた理由に、心当たりがあるからだ。
今この研究施設内に広がっている、『相殺遺伝子』は、実質僕と姉さんしか効果がない。
僕が最後に研究施設で過ごしていた頃に、研究所長が話していたことを思い出したのだ。
≪…この研究施設内を独立の要塞にすることだってできるさ。
それは、まだ実験段階だが、
―――『全無効化遺伝子』を使えば、理論上は可能だ。
そう、『すべての影響を全く受けない』。
よくあるだろう、ゲームなどでいう…
『無敵状態』ってやつさ。≫
僕は証拠も何もないけど。
『それ』がシャクなのではないか、と声も出せずに立ち尽くす。
シャクは僕らとは違う製造過程だけれど、同じ特別特化遺伝子体なのではないかと…。
否定したいのに、すべてが頭の中でパズルみたいにはまっていく。
そしてそのパズルは僕の心を崩していく。
同時におなかの奥で、熱くてドロドロしたものが湧き上がってくる。
今までにない、僕の中で初めて感じた。
それは『怒り』というもの。




