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ドイツが第三次大戦中に極秘で創設した『国際特別情報局』は、これまでにない事件に頭を抱えていた。
情報局長はミリ担当のパスカルを呼び出し、状況説明を洗いなおしていた。
パスカルは優秀な局員。
敵対関係にある仏国と独国の混血児なのだが、周りの予想をいつも裏切ってきた。
だからこそ情報局長は彼をミリ担当に推したのだ。
全面ガラス張りの会議室からは、情報局内の指令室の中央モニターに現研究施設が中継で映し出されていた。
会議室に入ってきたパスカルは疲労の色は見えたが、まだ目は生きている。
彼の言葉によると、
本国侵入は予想範囲内の出来事で、特化特別遺伝子体たちの暴走を阻止するには、組織脱出・本国脱出にかかっていると言う。
彼の言うことは筋が通っており、情報局長を納得させる内容だった、
……が。
今回はそれだけが問題ではない。
その特化特別遺伝子体に関与している、第三者の行動が問題だった。
パスカルの報告から主犯格が、元研究所所長ツァン・イー博士ということ。
今や情報システム操作強化の為に各国へ補填された元研究職員たちが、ツァン・イー博士、特化特別遺伝子体の本国侵入時に一斉に姿を消したこと。
この報告を聞いた際に、情報局はようやく騙されたことに気づいたのだ。
『研究職員は研究を中断した博士に失望し、彼を研究所から追放した』という歴史は……嘘だったと。
パスカルでさえ、そんな過去の些事を気にも留めていなかった。
本国に忠誠を誓っていると思われた元研究職員は、だからこそ各国の情報重要ポストに移されたのだ。
そして先ほどの報告。
全ての作業を地下で行っている現研究施設。
そのたった一つの入口には、二枚の特殊装甲壁があり、それは生半可な衝撃では傷一つつかない。
現研究施設に侵入する際に、本軍の基地へジャックし、弾道ミサイルの爆撃を使って施設内に強行突破したという。
軍の情報機器を乗っ取られたとなれば、他国へ攻撃をすることも、市街に爆撃を開始することも容易い。
それは絶対に阻止しなければならない事だったために、仕方なく事態を終結させるまで基地を一時閉鎖した。
それで終るかと思いきや、ロシアン共和国の核爆弾の主砲軌道経路計算システムが勝手に稼働し、本国の経路方向でセットされたという。
これも言うまでもなく、博士の仕業だろう。
そして姿を消した元研究職員も関わっているはずだ。
今やドイツ国は世界中から狙われていると言ってもいい。
情報局長は危険視し始めた…今まで軽視していた元研究所員の情報操作の腕を。
彼らは電子大国であった元中国大陸の出身。
さらにそこから選び抜かれた研究員なのだ。
一人では非力だが、四十もいた彼らの仲間全員が全力で行動すれば…
焦る情報局長を尻目に、パスカルは必死に打開策を練っていた。
彼らの居場所さえ分からないが、彼らとミリたちは何らかの形で接触をはかるはず。
そこから彼らの居場所をつかみ、博士たちのバックアップを無効化してしまえば。
ミリとキロは元々こちらで保管していた生物なのだから、再び制御することは可能だろう。
パスカル、情報局長。
二人の思考はそれぞれのまま、共に情報局内の中央モニターを見つめていた。
モニターには、半壊した現研究施設と対応に追われている現場隊員が映し出されている。
『状況報告!
ミリ・キロ、両名の所在は不明!
GPSのノイズがひどく、おそらくハッキングをかけられていると思われます!
研究施設内からの探査を重ねて所在を見つけ次第、報告します!』
現場隊員の報告を聞きながら、パスカルは『今、ミリたちは地下に向かっているんだろうな』と考えていた。
現研究職員と試験体、および実験作業はすべて地下の研究室で行われている。
そしてキロ対策の為の『相殺遺伝子炉』は、最下層の第三研究室で稼働している。
まず脱出の為に、その相殺遺伝子炉の破壊をしなければ、破壊の申し子であるキロの力で内部破壊・同時脱出は不可能だろう。
現研究施設へは、地上からの電子ネットワークの繋がりが一切無い、独立施設なのだ。
いかに電子ハッキングの天才である博士でも、侵入するためには直接施設内へ入らなければならない。
パスカルは汗ばんだシャツを着替えるために、黙って会議室を出ていく。
勝負は、これから。




