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奪取

「できたぞー!

カレー食おうぜ!!」


センチの声が台所に響く。

スパイスの香りが鼻をつく。…異国のにおい。

ミリは立ち上がる、


―――が、すぐにその身が凍った。


台所の暖簾から見える足は、センチだけのものではなかった。

複数人、20はいた。

鉄が擦れる音。

スパイスにわずかに混じる、硝煙。


「…Vielen Dank für Ihre Mühen(お疲れ様)」


一人の男がのれんをくぐってミリに軽く手を振る。

長身で華奢、髪は金。

派手なサングラスが似合っている。

口元には、優しげでわざとらしい、笑み。


「パスカル…!」


「Wie geht es Ihnen?(ごきげんいかがかな)」


ひやりとした拳銃の銃口がこちらを向いている。

センチにも向けられる銃口。


『センチ!』


『ほう…sentiというのか、博士が付けそうな名だな。


――分かっているだろうが、所長が解体を楽しみにしている。

傷つけずに回収するから、安心しろ。

そこの老人も、近いうちにまたお会いすると伝えておけよ。

いつまでたってもドイツ語を覚えないのでな』


ちゃぶ台の前に座ったまま、博士は黙っている。

ミリはなすすべなく、中腰のまま、連行されていくセンチの足元を追った。


「センチ!」


ばたん、とドアが閉まる。

のれんをくぐり、ミリはドアを開ける。


夜の戸張が下りた、静かなアパートからの眺め。

彼らは姿を見せない隠密組織、

誰にも気づかれることなく一個人を拉致することなどたやすい。

ミリがおそれていたことは、とうとう現実のものとなった。


「センチ…!」


泣き崩れるミリ。自分のその行動に、

内心、驚きながら。


「ミリや、こちらに来なさい」


すすり泣くミリの背を抱く、博士。

ミリは逆上する、混乱した頭で。


「なによ!あなたが悪いのよ、

私たちを造るから!

センチみたいなヘンなのを造るから!


やっと…普通を望んだのに!」


なりふりかまわず、大声で叫ぶ。

ちゃぶ台から湯呑みが畳に落ちる。


「―――センチは試験体ではない、ただの人間じゃ」


「…え…?」


博士は湯呑を拾いながら、そうつぶやく。


「センチは…特化特別遺伝子操作の『試験体』じゃ…

造られた人間では、ないの…!?」


拾った湯呑には、小さなひびが入っていた。


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