決心
銭湯のある健康ランドから帰った後に、ミリはセンチの家にお邪魔した。
センチが『かれー』なるものを食べさせてくれるという。
それにも興味があったし、…ミリは博士と話がしたかった。
センチが台所に立っている間、ちゃぶ台でお茶を飲んでいる博士へ思いの丈をぶつけた。
過去にキロが受けてきた施設での過剰な管理。
ミリを育ててくれた研究施設への気持ち、
揺らぎつつある、それらへの忠誠。
「あの女の子が、自由を欲していたことに
私、すごく驚いたんです。
そういう考え方ってあるんだ、って。
でも、それって普通のことなんですよね、多分」
そこで気づいた、自分の特異性。
「今更、ですけどね」
人類が受ける被害を未然に、全体被害ではなく、各個人被害の物として一身に引き受ける。
究極的な被害者体質の特化遺伝子体…それが、彼女のすべてだった。
異常な環境、異常な誕生、異常な自分の意味。
「気付いて、悲しくなったけれど、もうかなり過ごしてしまった…『人類の楯』として」
でも、弟のキロは逃げ出そうとしている。
究極的な加害者体質の特化遺伝子体…すべての災厄を一身に引き起こす、『きっかけ』を造り出す存在。
キロは自分の能力に怯えてた、いつも笑顔でごまかしていたけれど。
「自分の体質が人類を全滅させることだって出来てしまう体だってことに…怖かったと思う。
心はただの子供だもの…」
博士は黙って聞いていた。
ミリがうつむいて言葉を詰まらせていると、静かにその口を開いた。
「…行くのだね、ドイツに」
野菜を炒める音。
ミリは頷く。
「…人間は、だから強い」
博士はお茶をすすりながら、静かに微笑んだ。




