パスカル
ドイツ、某所、国際特別情報局。
任務のためにキーを叩いているパスカルに、一通のメールが届く。
他の操作を中断し、メールを開くと同僚からだった。
パスカルは異国の血が混じる、ハーフ。
根っからのドイツ人ではない。
『変わり者の血筋』という扱いは慣れてきたが、気軽に接してくれる友人は少なかった。
『二体の未確認特化特別遺伝子体、発見』
メールには業務報告のように一言だけ。
パスカルは続いて添付ファイルも開いてみる。
それは監視カメラの写真だった。
どこかの駐車場に、ヘリに乗っている少女と少年。
ヘリを見上げている二人の人間。
写真が白黒で見にくいので、独自のソフトにかけて画像を見やすいように処理していく。
解析度を上げていくうちに、パスカルは、はっと身を乗り出す。
「…これは…」
その人間の片割れはミリだった。
ミリの横にいる男にチェックマークが付けられている。
そして、そのチェックマークはヘリの少女にもつけられていた。
そしてさらに驚いたのは、少女が手をつないでいるのは、目下捜査中のキロだったのだ。
目撃された日付の業務報告書には、報告は上がっていない。
「wie lächerlich (そんなばかな)…!
…ミリが隠ぺいしていたなんて…」
パスカルはただ驚いていた。
ミリを小さな頃から知っている彼にとって、この裏切りは予想外だった。
組織に絶対服従し、不平不満を一つも漏らすことなく、素直に引き受けていたミリ。
しかしこれを見逃すわけにはいかない。
パスカルはすぐさま通信を開始する。
各国に散った仲間たちに命令を下すために。
『捜索対象はニホンに潜伏。
これより添付する人物も捕獲すること』
無機質に告げた後、すぐさまその添付ファイルを加工して全世界に配信する。
『第一未確認特化特別遺伝子体、第二未確認特化特別遺伝子体。ともに実験観察対象レベルに該当』
通信の後、すぐさまジャケットを持って、情報室を出るパスカル。
このまま現実験局長に発見した特化特別遺伝子体らの報告をしに行くのだ。
「人類の盾が、また確認された。
…glücklich」
かつかつと深夜の廊下に響く足音。
冷たく、耳に残る足音。
日本にいるミリは、
この事実を、まだ知らない。




