三
地上近くを飛び交うのは両軍から放たれる弾丸であり、宙を飛び交うのは球体や波、龍などを形どった能力だ。
球体の炎と龍の形をした稲妻が激突し、相殺しきれずに周囲に居た一般兵を敵味方関係なくなぎ払う。
水の球体と稲妻の波が激突し、球体を貫通した稲妻が敵陣を凪いだ上に、敵陣から放たれる炎が発生した瞬間、辺りに満ちた水素に引火し、爆発を起こす。
最前線に居た装甲車の真下より出でた無数の土の槍が貫通し、装甲車が爆発。その衝撃だけで小隊丸々一つが軽々と宙を舞い、飛び交う能力と激突してその身は弾け飛び腸を味方の頭上にぶちまける。
敵陣のバリケードとして複数の車体が道路を塞いで居たのは、会戦後数分間だけだ。
能力者部隊の中で空気を扱う者が車体を敵陣の真ん中程まで飛ばした直後に炎と雷の能力が炸裂してシュクレンティア軍の陣形は崩れていた。
そんな中にあっても尚。
シュクレンティア軍からはB級以下の低級能力者しか、出てきて居ない状態だった。
それに対してメッシーナ軍は、第二軍団が保有する能力者の半数を投入。
飛び交う能力の約七割は、メッシーナ軍の能力となっている。
多少の損害はあるものの、メルレシブ奪還作戦の滑り出しは怖い程に、順調だった。
「こちらの消耗を狙ってる…?いや、それにしても、おかしい」
ユウの周りには、左官を超える上官達が卓上の地図を中心に頭を悩ませていた。
「街の東側の役所を拠点としてると見てほぼ間違い無いでしょうな」
師団の指揮官は少将だ。この場には少将が2名、能力者部隊の指揮官である大佐が2名が居る。
彼ら四名の読みは、一致していた。
「であるならば、大通りを抜けるのが早い。が、当然仕掛けがあるでしょうな」
対車両用トラップ程度ならば、能力者数名が前線に居れば破壊する事は簡単だ。
だからこそ、悩む。
対能力者用に、何を仕掛けてくるのかを。
「発言、宜しいでしょうか」
そんな中に、響くのはユウの声だった。
今回、彼には気核弾頭の実戦テストを行う。という役割を持っていた為に、この場に尉官で立つのは彼のみ。
それだけ、今回の彼の役割は重要度が高いのだ。
「構わない。なんだね?」
スカイ小隊を纏めている少将がソレを許可するのは、当然だ。彼の動きに関して、政府と軍上層部より一定の自由度が与えられている。
それだけの特別待遇を快く思わない人間の方が多いのは事実だが、彼はその限りでは無い。
政府からの要請云々以前として、今回のユウの働き如何によっては、プレーロマの歴史を変える事すらも、視野に入るのだから。
「大通りにはB級からA級までの能力者が待ち伏せしていると思われますので、それと同等の戦力を前線に配置する事を進言致します。それと同時に、能力者大隊を北側より進軍。遊撃させたところに更に、自分達スカイ小隊が南側より敵陣を撹乱させる。というのは如何でしょうか」
自分よりも遥かに上官であり、年齢も倍を超える人達を前に、一切の淀みも無く伝えるのは、現状把握と同時に思考、数分で練り上げた作戦だった。
「北側は良いとしても、たかだか小隊規模で陽動にすらならんのではないか?」
それに異を唱えるのは、能力者の大佐だった。
当然だ。アイオン小隊ならばともかく、ただの無能力者の一個小隊程度で何が出来ようか。
普通ならばブラッドどころかB級能力者一人で壊滅に陥る。
だが、それは普通ならば。
「気核弾頭は自分のみですが、スカイ小隊ならばB級を五名程は引き付ける事は可能です」
そんな、A級能力者でもある大佐を前に、ユウは自信に満ちた表情で言い切った。
「A級能力者と合敵した場合でも、単独ならば陽動は十分可能です他複数だった場合は最低でも十分は足止めを行えます。無能力者小隊にてA級を足止め出来たとなれば十二分な戦果かと」
懐疑的な大佐を前に、ユウはこれで討論は終了とでも言う様に、周囲へ展開している部隊へと視線を移して続けた。
「後十分です。司令、ご決断を」
もはや、お前は何様だ。と怒鳴られても文句どころか処分扱いをされても不思議では無いユウの態度はしかし、少将達によって黙殺された。
「うむ。大佐は陽動部隊の編成を至急行ってくれ給え。少尉、行けるな?」
二人の大佐へと視線だけで退室を促した後のユウへの問いかけは、本当に出来るのかという物。
数回、能力者と戦闘して生き残っただけの少尉への、威圧を持った物だった。
「我らが神、プレパトール様に誓い必ずや」
その言葉に満足したのか、それ以上の追及は無かった。
ユウも内心では不安だった。
B級にも通用する兵器があろうとも、扱うのはただの無能力者だ。
能力者ならば、銃弾程度を無力化するのは訳も無いが自身達は違う。
攻撃手段はあろうとも、防御手段が無いのだ。
不安が無いはずも、ない。
「やってやるさ…アイツの、夢を叶える為ならば…何が来ようとも、何が起きようとも…必ずだ」
そう、無意識のうちに口に出ていた言葉は、前線の戦闘音によって掻き消されていた。
「少尉、作戦の方は?」
スカイ小隊の待機場所へと歩いてくるユウを見つけたアグインは、小走りになりつつも現状を問う。
それは、これからの死線に対して、何を思っての事か。ユウは頭を振ってそんな思考を排除した。
「予定通りだ。スカイ小隊は南通り沿いにある林を直進し、役所へ進軍する」
そう言って手早く装備を確認するユウを尻目に、アグインは頭を抱えていた。
「アンタって人は全く…わかりましたよっ。全員、三十秒で装備を整えろ!」
アグインの声に反応して小隊員達が大慌てで装備の確認をはじめたすぐにユウが確認を終えてアグインの傍へとしゃがみ込んだ。
「今回は俺が先頭に立つ。変則的だがお前が指揮を執ってくれ」
M-16とは別に、腰に下げているコルト・パイソンの状態確認を終えたアグインへと掛かる声に、一瞬の反応が遅れた。
「…。俺より先に、死ぬんじゃねぇぞ」
それは、階級という上下ではなく、人生の先輩としての、言葉だった。まだ若く、将来有望な少尉への言葉ではなく、一個人としてのユウ・アカサキへの言葉。
ユウはその一言に苦笑し、アグインの胸へとその拳を宛がった。
「何言ってんだ。まだ道の途中どころかスタートラインにようやく立てたところだぞ?」
そう言って笑うユウを見て、アグインは笑みを浮かべていた。
先ほど、戻ってきた時にあった不安は、消えたと。
それは本人ですらも、自覚出来るかどうかわからないほどに些細なものだった。
だが、アグインはその些細な不安を抱えたまま死んでいった軍人を何人も見てきたのだ。
それを一言で消し飛ばした上で、ユウの中にあった不安を自信に変えさせた。
「なら、俺もテメェのその道、しっか見させてもらうぞ」
二人は、軽く笑いあった後、小隊員を連れて南通りへと、装甲車を向かわせた。




