二
能力者との戦闘は、イーグル1から放たれたミサイルにより中断、視界が悪くなったところを見逃さずにユウ・アカサキはその場から撤退していた。
A級能力者が”たかがミサイル1発で死ぬはずが無いのだから”。
彼が所属している軍団の前線基地として使用している、先ほどの戦場から2km程離れた街へと帰還を果していた。
「流石だよ、ユウ。A級相手に単独で時間を稼いだ上に現場指揮権を行使した上でA級にミサイルを打ち込むとはな」
そして今、司令室へと出頭したユウを待って居たのは、此処メッシーナ第2軍団総司令官であるケイン・シュバイナー中将だった。
「恐縮であります」
敬礼と共に全身に緊張感を漲らせるユウは、それでも自然体を忘れてはいない。
「相変わらず固いな。今は私しか居らん。その上あと5分で業務も終わりだというのに」
そう言って笑う中将に、ユウは少しの笑顔を見せながらも、緊張感を解くことはしていない。
「後5分間は業務のうちですよ、おじさん」
その返答は、ここ数年変わる事は無い。ユウとケインに血縁関係は無い物の、ユウにとっては第二の父親同然の関係だった。
そして同様に、ケインにとっては我が子も同然とでも言うように、ユウへと接していた。
「固い、固い…だからその歳で女の一人も居ないのか」
そう言いながらも、ケインの顔には笑みが浮かんでいた。
先ほどの戦場での戦果ととある報告が彼どころか軍全体の雰囲気を良い物に変えているのが原因だった。
昔から度々起こる戦争において、A級以上が出張った戦場には、死体すら残る事は少ない。
突然のシュクレンティアからの宣戦布告と進軍が同時だった為に、国境付近の街が2つも占拠され、そのうちの1つの奪還作戦遂行中に起きた、突然の高能力者の出現。
そんな中で能力者も居ない状態だったにも関わらず、小隊が3つ程の犠牲で無事に撤退を完了出来た事。
そして、此処十年程研究され続けていた武装が、去年のユウからの助言によって今になり実用段階に至った事。
そしてこの後の本格的な作戦に向けての増援によって、先ほどの敗戦等取るに足らないと思わせる程彼らには効果的だった。
「その話はまた後日」
少しバツの悪そうに後頭部へと手をやり、苦笑を滲ませたユウを見てケインが笑い、十秒程でその雰囲気が一気に変わった。
「しかし…気核弾頭か…”ブラッド”が居る現状で、効果はどうなのだ?」
先ほど戦闘した紫の炎使い。その名を”ブラッド”。メッシーナ軍の中でもその名は知れ渡って居る程度には有名な能力者だった。
実はユウも過去に1度遭遇し、交戦した事があった為に今回単独で足止めを成功させたのだった。
その名と共に机の上に取り出されたのは、弾頭部が”青”と”水色”、”黄色”の三種に染まったそれぞれの弾丸だった。
「アイツ相手にはまだ多少不足はあります」
気核弾頭とはユウの助言によって完成した”無能力者用の弾丸”だった。
ユウはそれの一つを手に取り、ゆっくりと思考を重ねながら言葉を紡ぐ。
「しかし、コレがあれば倒す事は不可能でしょうが、時間稼ぎならば出来ます」
ユウは自信を持ってそう答えた。
「ふむ。それでは、三日後の作戦では期待しているよ。明日には”彼ら”も到着するしな」
自信に満ちたユウの顔を満足気に眺めた後にケインはそう言うのと業務時間が終わったのは同時だった。
「という訳で、呑むか」
その直後には、満面の笑みを浮かべて机の下から酒の入った瓶を取り出す始末。
ケインにとってユウと呑む酒は別格なのであった。
「全く。仕方ありませんね。と言いたいところなのですが」
その様子を予想していたユウは、それでも予想を裏切らない彼を見て笑みが零れたが、それを辞退していた。
「念の為これからメディカルチェックが残っておりますので失礼致します」
言うと共に敬礼。ユウは基地内に知れ渡る程度には堅物だった。
「明日は付き合いますよ」
ケインの残念そうな顔を見て、多少の罪悪感を覚えたのか、ユウは去り際に一言だけ残し、司令室を後にしたのだった。
---三日後 メルレシブの街奪還作戦当日
早朝には、彼らメッシーナ第二軍団のうちの師団にして二つ。約四万ほどの一般の兵士と二個大隊約千名の能力者、そして増援として二日前に到着したメッシーナ唯一の能力者のみで構成される特殊部隊”アイオン”の小隊が先日戦闘を繰り広げた場所に展開していた。
その中には当然、ユウの指揮するスカイ小隊も混ざっている。
アイオンの小隊の人数は僅か三名。本来ならば分隊とも言えない人数なのだが、その存在感は際立っていた。
先頭に立っているのは、隊長であるミルツ・ワグナーだった。青い髪を肩程まで伸ばし、その体躯は軍人からすれば細いとまで言えるが、弱いというよりも無駄を極限まで排除したという印象を受ける彼の26歳という若さでSS級にまで上り詰めたその能力は、メッシーナ内随一。
その後ろに居るのはユイナス・コウキンと呼ばれていた女性だった。赤い髪を肩よりも更に短く切りそろえ、その長身と整った顔の中でもその切れ目からは冷たい印象を受けるが、特に目を引くのはそのプロポーションだった。男ならば、目のやり所に困る程のその体は、その場に居た兵士達の視線を釘付けにしていた。その能力に関しての説明は、ユウは受けていない。
最後尾に居るのはアキラ・クサナギと呼ばれた青年だ。黒髪を適当に切り、特に手を加えたところは無いソレは、眠そうな表情と共にやる気が全く感じられない彼は、空気を扱うA級能力者らしい。
そんな三名を眺め、ユウは彼らの実力に内心舌を巻いていた。
「(ユイナスさんも、アキラさんも気核弾頭があっても、勝てないどころか相手にすらならないか)」
ユイナスはS級だが、アキラはブラッドと同様にA級だ。勝てないまでも善戦出来てもおかしくは無いのだが、敵対したと過程した場合にユウには勝機が見出せなかった。
それほどまでの力を彼らは持っている。
「(隊長さんは別格過ぎてもう良くわからない)」
二人の実力は肌で感じ取れた物の、ミルツに関してはそれすら不可能だった。
脳内でシュミレートをする事さえも、出来ない。過去にSS級と対峙したことが無いせいもあるが…そんな情報以前に、対等な…勝負の場に立てる気さえも、しない。
そんなユウが感じたのは、焦燥でも苛立ちでも無かった。
「(ノイも、あんな感じだったな…)」
ミルツの圧倒的なまでの気配を感じて思い浮かべたのは、彼がまだ能力者育成学院に通っていた時…否。それ以前の、ケインに助けられて直ぐから彼女が死ぬその時まで一緒だった女の子の事だった。
そして彼女を思い出す…否。常に頭の中で思い描いているが、改めて意識した時に同時に表面に浮かんでくる二人の事へと思考がズレていく。
「(レンとハルは…嫌、俺が考える事じゃないか)」
ノイ…エンノイアが死んだ数日後。レンとハルファイアというノイと同じ幼馴染二人と袂を分かつ様にして軍事学校へと編入したユウは、一人苦笑していた。
「少尉、出発だぞ」
ユウのすぐ後ろに居たはずのアグインが彼の肩を叩き、装甲車へと搭乗していくのを見て、ユウも乗り込んだ。思考に耽っている間に、既に作戦は開始されていたのだった。
「あの三人がアイオンねぇ。バックアップにも一人居るらしいが、あんな少人数で良いのかね」
アグインが先ほどの三人を見た素直な感想を漏らしていた。
ユウとアグインのこの差は、経験だった。対能力者戦闘など、一兵士では経験した者などほとんど居ない。
経験した者は、生きては戻らないのだから。
「ブラッド相手に一人で倒せる様な実力者だぞ?見た目だけで判断するなよ?」
そう嗜められながらも、アグインにそれが理解出来る事はない。
ユウの様に過去に能力者育成学院に通っており、且つ実際に”幾度と無く”能力者を相手取っていなければ初見での戦闘能力を測るなど、出来るはずもない。
その話は終わりだと、運転席から注意が飛んだのと、前方にて爆発が起きたのは、同時だった。
メルレシブ奪還作戦が、幕を開ける。




