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第二話 約束された真実 

首相が去った後、事務所には重厚な沈黙と、彼が吸っていた高級葉巻の香りが残された。


「……1万メール、ですか。断る理由はありませんね」


秘書が手帳を閉じながら淡々と言う。


「あぁ。だが、額がデカすぎる。これは単なる犯人捜しじゃない。『都合のいい真実』を買い取ろうとしている証拠だ」


私はコートを羽織り、現場となったスラム街へと向かった。


国立銀行総裁が死んでいたのは、華やかな大通りから数本外れた、悪臭の漂う路地裏だ。

警官隊による規制はすでに解かれている。

彼らは「物盗りの犯行」として処理したいようだが、現場に残された不自然な点は、私の目を誤魔化せなかった。


地面に這いつくばり、石畳の隙間を調べる。


「……あったぞ」


見つけたのは、小さな銀色の破片。

それは銀行総裁が身に着けるような装飾品の一部ではない。

むしろ、軍人が儀礼用に用いる「飾緒しょくじょ」の金具だ。


「総裁はここで誰かと待ち合わせていた。それも、信頼の置ける『制服の人物』とだ」


軍部との関係、アリか。


そんなことを思っていると、背後に気配を感じ、私は振り返る。

そこには、先ほどまでのクールな表情を崩し、微かに眉をひそめた秘書が立っていた。

彼女の手には、一通の封筒がある。


「所長、これを。事務所のポストに投げ込まれていました。宛名はあなたですが、差出人はありません」


封を切ると、中には一枚の紙片と、どす黒く変色した「阿芙蓉アヘン」の塊が同封されていた。


紙に記されていたのは、簡潔な一言だった。


『これ以上踏み込めば、次はこの国の血が止まる』


脅迫。

それも、単なる暗殺者からではない。

国家の「止まりかけた血流」を無理やり動かそうとしている、巨大な意志からの警告だ。


暗殺された総裁は、実はアヘン密輸に反対していた正義漢だったのか、それとも利権争いに敗れたのか?


「面白い。どうやら俺たちが追っているのは、犯人ではなく、この国の『心臓』そのものらしいな」


私はアヘンの塊を指で弄びながら、スラムの濁った空を見上げた。

8時30分の依頼からわずか数時間。

事態は一気に、一探偵の手には負えない「国家転覆」のシナリオへと加速し始めていた。

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