09.ソラの決心
ん……?
マリア……?
そういえば、吾もどこかで聞いた記憶があるが……。
ん~、どうしても思い出せない。
ま、いいか。
いずれ、思い出せるだろう。
……ということで、話を『オカマバー•ボール星』に戻そう。
☆ ☆ ☆ ☆
『オカマバー・ボール星』の開店前、ボスこと、ママのお京とソラが店の椅子に座って話し中。
従業員のアニー、ウィッキー、リリィは開店準備をしながら聞き耳を立てている。
そこへ、奥の部屋から誰かの叫び声が聞こえてきた。
「ララ、どこにいるの? わたしはここよぉぉぉぉ。早く来てぇぇぇ」
マリアの声だ。
アニーが大きなため息をつく。
「ボケちゃって。年は取りたくないわよねぇ」
ボスがすかさず立ち上がり、アニーを睨んだ。
「若いからって威張るんじゃないの。どん底の時代にこの店が生き残ってこられたのも、マリアさんが頑張ってくれたお陰なのよ。今でこそ、少しはわたしたちの立場もわかってもらえるようになったけど、昔は冗談抜きで、化け物扱いされたんだから。マリアさんなんて、自分の親から釜で殺されそうになったのよ。俺たちがお前みたいな化け物を作ったから、俺たちの手で殺して、俺たちも死ぬってね」
思わず涙ぐむボス。
「冗談じゃなくて、本当にその釜がマリアさんの左腕に刺さったのよ。今もその傷が残っているわ。その釜が少しずれていたら心臓に刺さっていたかも……」
「初めて聞いたわ」
リリィの声は震えていた。
「それでもね、親のことを悪く言われるの、マリアさんが嫌がるから黙っていたのよ」
とボス。
「そんなひどい親なんか庇うことないのにッ」
と怒るアニー。
あ、ごめんなさい、と椅子に座り、再びソラに向くボス。
「あなたの両親が来たとき、マリアさんは今更会えるわけがないって言ったけど、わたしが無理やり会わせちゃったのよ。だってね、あなたのお父さんからお願いされたの。どうしてもマリアさんに奥さんを紹介したいって。それができたら、今度は息子も紹介したいって。そのとき、あー、この人は幸せなんだなって思ったの。だから、マリアさんも幸せにしてくれるんじゃないかって。そのときにね、お父さんとマリアさんの間で、ある約束がされたのよ。あなたが未成年の内に両親に何かあったら、マリアさんがあなたの力になるって」
ソラはどうしても納得できなかった。
というより、納得したくない気持ちの方が強い。
父を捨てた祖父は非道な人でいてほしかった。
中途半端ないい人なんて、認めたくない。
そんなソラの脳裏に、突然あるワードが甦った。
『トランスジェンダー』
いつ、どこで、誰から聞いたっけ……?
あ、そうだ、とソラは思い出した。
両親から聞いたんだ。
生まれながらの性別と望む性別が違う人がいるって。
確か、ソラが内気という自分の性格に悩んでいたときだった。
父が話してくれた。
「この世にいろんな人がいるのはソラも知っているよね。日本人もいれば外国人もいる。髪や肌や目の色もさまざまだ」
だから、内気な性格が悪いなんて嘆くことはない、と励ましてくれた。
その色んな人の中にトランスジェンダーの話も入っていた。
「だから、トランスジェンダーの人も皆同じだってこと。変に気を使う必要はないけどね。言葉の違う外国人とだって簡単に友達になれる時代だからさ。もったいないだろ」
そのことを思い出したソラは、祖父のマリアと住むことを決めた。
好きで選んだわけではない。
決して、父を捨てたマリアを許せるはずもない。
ソラ自身、それしかないとわかったからだ。
祖父のマリアは相変わらずボケているから、全ての処理はボスが仕切ってくれた。
両親の葬式から、実家の売却、遺産問題、ソラの転校の手続きまで。
ボスはボール星のママを始める前、法律事務所で働いていたらしい。
弁護士ではなく、司法書士という話だ。
『光星人の伝説』の元守護神で、今は貧乏神の吾には専門外で、よくわからないが……。
ボスは、
「必要なら、知り合いの弁護士も紹介するから遠慮なく言ってね」
と言っていた。
新たに通うことになった中学校は、オカマバー『ボール星』のある学区だ。
そのため、祖父のマリアのことを知っているクラスメートも多かった。
マリアの存在感に、改めてソラは呆れてしまった。
登校初日早々、ソラは教室で、いじられる対象となった。
「オカマの息子(本当は孫だが……)」
とか
「宇宙人の子孫なんだろ。なんかすごいことやってみせろよ」
とか。
それとは関係ないはずなのに、カバンを隠されたり、教科書に落書きをされたり。
ある日の放課後など、ソラが下校していると、数人のクラスメートの男子からカバンを取られ、歩道に中身をぶちまけられた。
慌てて、ソラが教科書やノートを拾っていると、突然女子の声が聞こえてきた。
「弱い者いじめするなら、あたしが相手になってやる。男子のあんたたちが、女子のあたしに負けたら、有名人になるわよ。いいのね 」
振り向くと、ルイだった。
空手の構えをしている。
ソラは、以前聞いたアニーの言葉を思い出した。
「ルイは強いから逆らわない方がいいわよ。小さい頃から空手と合気道を習っているから」
それは父親であるボスの教えらしい。
これからの女性は自分の身は自分で守らなければならない時代だって。
「それはわかるけど、どうして空手と合気道の両方とも習うわけ?」
ソラが質問すると、ウィッキーが教えてくれた。
「それもママの考えなのよ。空手の強さは派手だけど、相手を怪我させる危険性も高いんですって。空手の有段者の突きや蹴りは凶器扱いになるから、怪我でもさせたら、例え相手が悪くても自分が加害者になることもあるらしいのよ。だから、空手は本当に身の危険を感じたときだけで、脅すだけなら、合気道で充分だって。勿論、本気になったら合気道もすごいらしいけどね。やっぱりママも男なのよねぇ」
ルイの強さは学校でも有名らしく、
「わかったよ。 悪かったよ」
と男子たちが謝った。
「わかればいいの。但し、謝る必要はないわ。無視する方にも原因があるんだから」
いじめっ子たちが帰ったあと、ソラは釈然としないながらも、一応レイに感謝の言葉を伝えようとしたときだった。
先に、礼なんて言わないでよね、とレイの方から断られた。
「わたしが許せなかっただけだから。それに、どうせあんた、本当はどうして自分が礼を言わないといけないんだと思っているでしよ。そんな人に言われたくないわよ」
図星だった。
「マリアさんのことだってそうよ。あんた、憎んでいるでしょ?」
「当然だよ。お父さんを捨てたんだから」
「それ、自分でちゃんと確認したの?」
「だって……」
と、ソラは説明できなかった。
「まだ、偏見が強いときよ。マリアさんの奥さんとか、その両親がマリアさんを許すと思う? 子供がいじめられると心配しないと思う? マリアさんは泣く泣く別れさせられたのよ」
「……」
「自分の方から知ろうとしなきゃ、何もわからないんじゃない。それもしないで、誤解して恨むなんて、イジメと同じよ」
ルイの最後の一言で、ソラは目が覚めた思いだった。
なにも知ろうとしないくせに、何でもわかっているつもりの自分が、恥ずかしいと思った。
『これから、少しずつ変わっていこう。まずは、祖父のマリアのことを理解することからだ』
ソラは決心した。
☆ ☆ ☆ ☆
「あーーーーーーーッ」
遂に、吾は思い出した。
『マリア』から芋づる式に、『ボール星』⇨『青い星の伝説』⇨『守護神』⇨『ライトサン』そして、『ライトサンの居場所を教えて欲しい』
そうだ。
『青い星の伝説』の守護神から頼まれていたんだった。
とりあえず、ライトサンを探してみるか。
見つかるかどうか、自信はないけどな……。




