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07.遂に噂のマリア登場。しかし……

 夕方より少し前、野崎が自家用車を出してくれて、星野ソラは祖父に会いに行くことになった。


「不安は早く取り除いた方がいい」


 野崎の勧めで、両親の交通事故の翌日だった。

 ふたりを乗せた車は、都心の中でも中心地と思えるほど華やかな街に着いた。

 野崎は有料駐車場に車を停め、ソラと一緒に広い車道沿いの歩道を歩き出す。

 いろんな色、音 、匂いが混ざり合い、その上人混みに酔ったソラは気持ち悪くなった。

 そんなことも気づかない野崎はスタスタと歩いていく。

 ソラはついていくだけで必死だった。


 突然、野崎の背中が右折した。

 慌てて、ソラも進路変更する。

 そこには、夜の街に一変した風景が現れた。

 薄暗く、人通りも少ない。

 しばらく歩くうちに、何かおかしいと思いながら、それが何なのか、そのときのソラにはわからなかった。

 野崎は3階建ての古いビルの前で立ち止まり、1階の店名を確認する。


「ボール星……ここだ」

 

 野崎が店のドアを開けると、ソラは大きな背中の横から部屋の中を覗いた。

 まっすぐ伸びる数メートルの薄暗く細い廊下がある。

 その奥が店になっているようで、ライトに照らされたテーブルと椅子が見えた。

 と同時に大音量の音楽と話し声、というより怒声が押し寄せてきた。

 しかし、人の姿は見えない。

 野崎が、


「すいませぇん…」


 と声をかけるが、誰も出てこない。

 どうやら音楽と怒声にかき消されたようだ。


「仕方ない。中に入ろう」


 先に、野崎が暗い廊下を歩き出し、ソラが後を追う。

 ソラはふと、廊下の両サイドの壁にかかっている、数枚の大きな写真に気づいた。

 それは、古代ピラミッドの中や洞窟などに描かれた、大昔の絵の写真だった。

 その写真を確認しながら、ソラは驚いた。

 1枚だけならまだしも、その全てがソラのコレクション希望だった。

 ソラがその写真に興味を持った理由は、その絵が宇宙人を描いたものではないかと言われていたからである。

 ソラはワクワクしてきた。

 ここにも宇宙人を信じている、というより愛している人がいる。

 そう思ったソラは、期待を込めて野崎の後を追う。

 と、突然、野崎が立ち止まった。

 予想外のことに、ソラの体は止まることができず、野崎の背中にぶつかった。

 そのことに気づいていないのか、野崎が一歩後ずさり、その(かかと)がソラのつま先を踏んでしまった。


「あッ……」


 やっと気づいた野崎が振り返る。

 その表情は明らかに青ざめていた。

 不思議に思ったソラが前を見てやっと、若い女性に気づいた。


「まだ準備中なんだけどぉ、あなたなら大歓迎よぉぉん」


 その声を聞いて、野崎が青ざめている理由が、ソラにもピンときた。

 ピンクのロングドレスを着ているが、背が高い。

 声は低いだみ声。

 化粧でごまかしてはいるが、うっすらと残っている髭剃り跡。

 そして、立派に出ている喉仏。

 女性ではない。

 更に、一斉に振り向く女性たち、というか、男性たち……? 

 誰もが派手な服を着ている。

 ドレス姿もいれば和服もいる。

 中にはコントのような服を着ている人もいる。

 厚化粧にバカ長いツケマツゲ。

 あっという間に、ソラと野崎は女装した人たちに囲まれていた。


「もしかしてぇ、マリアさんのお孫さぁん」

「キャ~ン、可愛いぃ」


 ソラは、抱かれるし、頬ずりされるし、キスされそうになるしで大変だった。

 隙をみて、野崎に抱きつく者もいる。

 本人たちは大歓迎しているつもりらしいが、ソラと野崎にとっては予想外の展開で、頭の中はパニック状態。

 結局、されるがままだった。

 そのとき、野太い声が怒鳴った。


「お止めなさい! お客さんが困っているじゃないの!」


 ボスらしい人の一喝で、その場はシーン。

 和服を着ているボスが一変し、ソラに笑顔を向けてきた。

 更に緊張するソラ。


「一応、わたしがここのママのお京よ。と言っても雇われだけどね。よろしくね。皆も自己紹介しなさい」


 ボスが指示を出す。

 ある意味、ハードボイルドだ。


「わたしはアニーよ。よろしく」


 とウインクしたのが、さっき最初に声をかけてきた人。

 よく見ても、背が高く筋肉質で、肩幅が広い。

 厚化粧との違和感があるというより、男だとバレバレだ。


 次は……。


「わたしはウィッキーウィッキーウィッキーよ。仲良くしよッ」


 肌が黒い。

 でも、首から下は白い。

 ということは顔を黒く塗っているのだろう。

 外国人キャラ? 

 鼻と口の間にちょび髭を生やし、両頬に真っ赤な円を描き、バカ長いつけまつげをしている。

 太っていて、長くない髪の頂上を無理やり輪ゴムで結んでいる。

 派手な浴衣の上に大きく『金』と赤マジックペンで書かれたエプロンをつけている。

 金太郎キャラで、お笑い担当らしい。


「わたしはリリィ。よろしくね」


『ん?』


 と、ソラは心の中で(うな)った。

 この人も男……?

 年齢は20代前半に見える。

 どう見ても女性だ。

 しかも、その中でも特別美人の方だろう。


「リリィもオネェなのよ。驚いたでしょう」


 ウィッキーが教えてきた。


『とても信じられない。』


 ソラはいろんな意味でショックを受けた。


「今はこれで全員なのよ」


 ボスが従業員自己紹介の修了を宣言した。

 その隙間を逃してなるものかと、野崎が話し始める。

 目一杯の早口で。


「あの昨夜電話した者です。この子が電話で話した星野ソラ君。つまりマリアさんのお孫さんです。昨日15歳になったばかりの中学3年生。私は彼の両親が働いてる会社の後輩です」


 明らかに、自分の名前や会社名など、固有名詞を言いたくないのが見え見えだ。

 素早く野崎の視線がソラに向く。


「おじいさんが見つかって良かったじゃないか。幸せにね」


 と言いながら、野崎の視線がお京に戻る。


「明日の仕事が早いので、わたしはこれで失礼します」


 頭を下げるのと同時に右足を一歩下げ、上半身を上げながら回れ右し、そそくさと帰っていく野崎。

 ソラはまだ一言も話していない。


「あの人、厄介払いができてホッとしてるんじゃない」


 アニィが口を滑らす。

 ボスの視線がソラを気にする。


「アニィ、余計なことを言わないの。あんた、1週間トイレ掃除の罰よ」

「だってぇ、わたしは本当のことを……」


 と言いかけて、アニィもソラを見る。


「あ、そうか。ごめんなさいね」


 と謝った。


「あんたって子は本当に……」 


 と、ボスが視線で一喝したあと、リリィを見た。


「マリアさんを呼んできて」

「はい」


 リリィが奥の部屋に姿を消して直ぐだった。

 リリィの叫び声が聞こえた。


「ちょっと、マリアさん、待って!」 


 それから直ぐ、奥から別のオネェが走って出てきた。

 厚化粧でも深い皺を隠しきれていないということは、肌に馴染んでいない証拠だ。

 はっきり言って、年寄り。

 オネェと言うよりオバァ、じゃなくて、オジィ……て、面倒くさい。


「今日はわたしの誕生日。やっとボール星のララが迎えにきてくれたのねぇぇぇン」


 オジィはそう叫びながら、入り口の反対側にある窓を開けた。

 そして、空に向かって叫ぶ。


「ララ、マリアはここよぉぉぉン。今飛んでいくわぁぁぁン」


 素早く窓台に乗ったオジイは、両腕を伸ばし飛び上がった。

 ……つもりらしいが、直ぐに路地裏の道にうつ伏せ状態で落下した。


「ギャー 」


 と、店内外で響く雄叫び。

 みんな、慌てて窓辺に集まり、外の裏路地を見下す。

 そこで、うつ伏せ(しかも、大の字)状態で倒れているオジィ。

 (ケツ)がピクピクと引きつっている。


「あぁあぁあ……」


 とアニィの呆れ声。


「ホント、ボケちゃってもぉッ」


 すかさず、ボスの叱り声。


「若いからって威張るんじゃないの!」


 ソラは全てが夢のような気がしてならなかった。

 両親の死も、祖父の存在も……。

 嘘であって欲しいと願っていたのかもしれない。


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