06.『光星人の伝説』は消滅した?
それでは今から、『光星人の伝説』の主人公になり損なった星野ソラの話をしよう。
語り手は、『光星人の伝説』の守護神を解雇され、貧乏神に成り下がった吾である。
いつまで、吾と言えるのやら……。
詳しい吾の説明は、前回の『05.プロローグ その②』を読んで頂きたい。
☆ ☆ ☆ ☆
何故、宇宙はこんなに美しいのだろう。
星は輝き、神秘的で、ワクワクドキドキさせてくれる。
それは宇宙が生きているからに違いない。
太陽は常に暖かな光を発してくれるし、ブラックホールはいろんなものを吸い込む。
どこかで星同士の衝突があったかと思うと、新しい星も誕生する。
生きるとは、感動に値するのかもしれない。
自宅の天体望遠鏡で夜空を見ながら、星野ソラはそんなことを考えていた。
中学校から帰宅したソラは、自分の部屋にも寄らず、屋上へ上がり、天体観測をしている。
ソラの家は郊外にある2階建ての一軒家。
広いとは言えないが、屋上は全面使用可能で、小さな小屋が建っている。
揃って、天文学者の両親が建築会社に特注した、天体観測用の小屋だった。
ここの望遠鏡で見上げる夜空が、
「一番好きだ」
と、ソラはしみじみ思う。
研究者の両親は忙しく、ソラはひとりぼっちのときが多かった。
それでも寂しいと思ったことがないのは、いつも星空が一緒にいてくれたお陰だろう。
ソラは時間も忘れるほど、神秘的な宇宙に魅せられていた。
ソラの身長は1m50cm、体重は42kg。
女子の平均より小柄だ。
視力も悪いから、丸い眼鏡をかけている。
見るからにオタク。
でも、ソラは恥ずかしいなんて思わない。
壮大な宇宙のオタクだから、逆に自慢なくらいだった。
当然のように、地球人以外の生命体も信じている。
大人しく、人見知りのソラでも、こと宇宙や異星人のことになると熱弁を振るったものだ。
その度に、周りのクラスメイトは面白がって、よくからかったり、異星人をバカにしたりするようになった。
ソラにとって自分の悪口は仕方ないと思っているが、異星人をバカにすることだけは絶対に許せなかった。
「宇宙は信じられないほど広いんだ。地球人以外の生命体がいないと思う方こそ無理がある」
と、歯止めがきかなくなってしまう。
だから、ソラはいじめられたりもしたが、星空が全てを忘れさせてくれたものだった。
今日も天体望遠鏡を覗いているときだった。
「あれ……?」
と、ソラは素っ頓狂な声を発した。
流れ星……?
小さい頃から空を見続けてきたソラにとって、今更流れ星を珍しいとは思わない。
なのに、今回に限って思わず 独り言を呟いたのには、ソラなりの理由がある。
いつもの流れ星ではないと思ったからだ。
周りの状況証拠から考えて、近距離のはず。
精度の高い望遠鏡で見てもあれほど小さいということは、実物は掌に乗るぐらいの大きさに違いない。
それでも見えたということは、光が強すぎるのだ。
本体の何百倍、何千倍の光を放っているはず。
ま、珍しい隕石ならありえるけど 、まっすぐ落ちてきたようには見えなかった。
まるで生き物のように、あっちに行っては、
「あ、違う。違こっちだ」
というように、自分の意志で方向を変えているように思えてならない。
「もしかして、宇宙生命体?」
とソラは呟いたものの、違うことは自覚していた。
あまりに小さすぎるし、それに光っていたからだ。
どちらかというと、火の玉の方が近いだろう。
「あれ? どこに行ったんだ?」
どうしても気になったソラは、どれくらいの時間探していただろう?
突然、覗いていた望遠鏡のレンズが真っ暗になった。
覗き口から視線を外したソラが望遠鏡の先を見ると、ある男が掌でレンズの外側を覆い隠していた。
「あ、野崎さん……どうしたの?」
ソラもよく知る両親の職場の後輩で、頭の回転が早く、冗談好きな男だった。
まだ、結婚していない野崎は、ソラを弟のように可愛がっていたものだ。
「相変わらず、宇宙が好きなんだな、君は。何度も呼んだんだよ」
野崎は微笑んだが、ソラはなにかおかしいと察した。
(今日の言葉は歯切れが悪い。
いつも最初からジョークを飛ばすのに、今日はどうしたんだろう……?)
両親がいない時にやってくるのも初めてだった。
いつも電話で確認してくるのに……。
「今日はどうしたの?」
ソラが訊くと、野崎は宇宙の写真集を差し出した。
それはソラが以前から、両親に欲しいとねだっていたものだった。
その本にはお祝いのリボンがついていた。
「ん……?」
ソラは野崎の意図がわからなかった。
いつもと違い、野崎があっさりと答える。
「15歳の誕生日おめでとう」
「……あ、忘れてた。ありがとう」
この数時間、ソラは自分の誕生日さえすっかり忘れていた。
望遠鏡を覗いているときはいつもそうだ。
宇宙のことで頭がいっぱいになり、他のことは忘れてしまう。
「それから……」
野崎は大きめのバッグをソラの前に差し出した。
「何……?」
「両親からのプレゼント……」
そう口にした野崎は、悔しそうに唇をかんだ。
「?」
とソラは野崎を見た。
野崎は何かを話したい、いや話さなければならないが、どう切り出していいのかわからないようだった。
苦渋の表情ってやつだ。
「落ち着いて聞いてほしい、と言っても無理だろうが……なんてどうでもいいや。いや、よくない……けど……あぁぁぁぁぉ……」
野崎は思わず髪を掻き回した。
「どう見ても、いつもの野崎ではない。まさか……」
と吾が思った途端、ソラが口を開いた。
「あ父さんとお母さんに何かあったの?」
一瞬にして、野崎の動きが止まった。
ストップモーションのあと、ゆっくり大きく息を吐く。
「ハァァァァァ……」
そして、ソラの顔を見つめた。
「君のお父さんとお母さんは、 さっき交通事故で亡くなった……」
ソラは正真正銘15歳になったばかりだ。
死の意味を理解できないほど子供ではないが、その後自分がどうなるか決められるほど大人でもない。
自分の将来を想像できないということは、不安でたまらないのだ。
ソラは今一番気になることを訊きたかった。
「僕はどうなるの?」
でも、訊けなかった。
怖すぎるから。
そんなソラの気持ちを察してか、野崎は話しだした。
「実はずっと前から君のお父さんとお母さんから頼まれていることがあってね。もし自分たちに何かあったら伝えてほしいって」
ソラにはさっきから気になっていることがある。
違和感というか、むず痒い感じが……。
野崎はいつも名前で、“ソラ君”と呼んでいたのに、今日は“君”としか呼んでいないこと。
その距離感が不安を駆り立てた。
「君の両親は二人とも天涯孤独だって話だったよね。でも本当はお父さんのお父さん、つまり君のおじいさんが生きているんだよ。もし自分たちに何かあったら、君をおじいさんに合わせて欲しいと頼まれていたんだけど、会ってみるかい?」
ソラは既に、自分に他の選択肢がないことを察していた。
それよりも、今のソラには、野崎が名前で呼んでくれないことの方が悲しかった。




