第87話 みんなの気遣い
「は~い! おはようございますっ~! デート予定があるエ・リ・カさまっ!」
「ふぇ? ぁぁああ!?」
私の眠気は一瞬にして飛び去って、最悪の目覚めを迎えた。
目を擦ってみればそこにはセリーヌさんがいつも以上に『気合入ってます』と言わんばかりに仁王立ちして立っていた。
「お、おはよう。……ていうか、なんで……私の予定を知ってる訳?」
「そ、それはええっとぉ……? 色々とグーファ様から相談を受けたから……ですけど、何か?」
「いやいや、セリーヌさんが開き直ってどうすんのよ……やきもちか、冷やかしのつもり?」
「まさか! 昨日の敵は今日の友! エリカ様のことだからいろんなことを気にして寝不足になっている事だろうと思ったので、お節介ながら屋敷に使えるメイドとして、お助けに来ましたっ!」
いや、まぁ確かに図星だし、助かるのだけれどもなぜ、そこまでセリーヌさんが楽しそうなのか意味が分からない。その手には紙袋が握られており、セリーヌさんは『私に任せんしゃい』と胸を張る。
「手始めにドレスコードを用意してみました。時間がありませんから早く起きてください? 合わせますよ!」
「ちょ、ちょっと――!」
そこから半ば、強引に試着会が始まる。
綺麗なワンピースやカジュアルな洋服、キューティクルな洋服まで様々な洋服を着せられてはセリーヌさんが悩む表情をする。
「うーん……困りましたね。どれも似合っている気がします。ただ……条件はフレストでの観光――なら、これに致しましょう。ね? これで良いですよね!?」
「えぇ……これ、本当に私が着て似合う?」
「大丈夫ですよ! 腐っても素質は良いんですから。でも、この事は黙っておくこと! サプライズにするんですから!」
昨日、私にやられた反撃とばかりにセリーヌさんはピシッと指を差してくる。
「うーん……そこまでする必要……あるのかな?」
「ありますっ! 男の子はこういうのに弱いんですから!」
私は押し切られるように普段着に着せ替えられ、食堂へと赴くと中ではグーファやリリアナ、ミミが食事を始めていた。真っ先に声を上げたのはミミだった。
「おはようなのっ!」
「うん、おはよう! ミミ」
「もう傷は大丈夫?」
ミミはあいさつに嬉しそうにしつつも、私の方をまじまじと見る。
でも、ロイドさんが以前、言っていたように私の体は傷を早めに直す体質のようで、ほとんど傷自体が見当たらなくなっていた。
「うん、すっかり元通り! さすがミミ先生だね」
「えへへ」
そんな恥ずかしそうに笑うミミに対して意味ありげな視線を向けてくるリリアナと少し目線を合わせずら層にしているグーファが居る。何となく、この雰囲気からしてリリアナは何か言いたそうだ。なんかデジャヴを感じる。
「リリアナ? さっきから私の方を変な目で見ているけど、どうかした?」
「ん? いや、何も?」
そ知らぬふりでリリアナに話を振ると彼女は明後日の方向を向く。これは明らかにリリアナは昨日の事を知っているに違いない。一瞬、掘り返されれるものだと警戒するが、それに反してリリアナは素早く椅子から立ち上がった。
「さてと! 朝食は頂いたし、私は少しルグラス家に行ってきたいんだけど……エリカ、いいかしら?」
「え? でも、本調子じゃないでしょう?」
「まぁ……それはそうだけど、ベッドでずっと寝てる方が苦痛なのよね。散歩がてら久々にルグラス邸を見てみたいのよ。ダメかしら?」
リリアナはいたずらっぽく少し笑う。その雰囲気で私は大よそを察した。
彼女は私たちの邪魔をしないために席を外そうとしているのだ。
「(それに……。リリアナ、あなた……もしかして私たちとウェイドを繋ぎなおすためにも動こうとしているんじゃないの? 私にはそんな風にしか見えないよ)」
少なからず、私の理想は『私たちの理想』でもある。
優しい性格でありながら頭が切れるお姉さん肌のリリアナならそういう考えに至っておかしくない。
「わかった。でも、誰かと一緒に行って? でないと途中で動けなくなったら大変だから」
「ありがとう。なら……セリーヌさん。付いてきてくれるかしら?」
「わ、私ですか!?」
「嫌なら……ミミに頼むから別に良いけど?」
リリアナはニタニタしながらアワアワするセリーヌさんを見る。
「……わ、わかりましたっ! 馬車を手配しますね! 少しだけすこしだけおまちくださいっ!」
セリーヌさんは少しキョロキョロとしながらもすぐに即決してバタバタと動き始める。そんな傍らリリアナは食堂を出て行くが、私の耳元でこうささやく。
「ルグラスの事は任せて今日は楽しんで――ただ、ルグラス家はしつこいからね。気を付けて」
「っ……(やっぱり、知っていたし、思っていた通りじゃない)」
そう言いつつ、肩に手を置いて去って行く。既にほんのり顔が赤くなっていたであろうに今の一言で一気に顔が熱くなった気がする。目線を上げればタイミングを計ろうとするグーファが居て余計に緊張が走る。
「ん? どうしたの? 二人とも顔が赤いの。まさか熱?」
「違うぞ。ミミちゃん。これはな、惚気ているだけだ」
「慶お兄ちゃん……ノロケルってなにぃ?」
「まだ、ミミちゃんには早いな! はははっ……っと、睨むな? 鈴谷絵里香」
後ろから現れた慶君に対して鋭い眼光を向けると手でバリアを作るような恰好をして見せる慶君が立っていた。
「じゃあ、人をフルネームで呼ぶんじゃないわよ」
「あぁ? なんだってぇ? アニメの主人公ばりなキッスをしたって? ぶははっ! まさかアンタみたいなやつがキスをするなんて思わなかったよ」
「ううっ……」
グーファがここぞとばかりに立ち上がろうとするが、慶君はそれを手で制止して先に言葉を放る。
「まぁ、でも……こんな世界だ。楽しんだっていいんじゃないか? いっそのことはじけちまえ。それが一番だと思うぞ。俺もこれから『元魔王、素性隠して最強冒険者になる』っていうラノベストーリーを始めるつもりだからよ」
「本気で言ってる?」
「あぁ、本気だともこれからフレストの冒険者ギルドに行くしな!」
私は苦笑しながらも、慶君の言葉で『異世界だ』と改めて認識する。
最初から手が届かない。そう思っていた物が目の前にあってできることが無限にあるのだ。それをやらない理由はない。
「そう……だね! 慶君のおかげで大事にしていた物を思い出したよ」
「そうか。んじゃあ、グーファ少年っ! あとのエスコートは頼んだぞっと!」
「はっ! 私もロイドお兄ちゃんの所に行くのっ!」
慶君はそっと朝食の皿にパンを乗っけて、ミミもその波に乗るように去って行く。
必然的にお膳立てをさせられたグーファは少し照れた顔をしながら笑顔を見せる。
「エリカ、今日は楽しみましょう……!」
「うんっ! よろしくね」
「はいっ、こちらこそ」
それから私たちは2人でテーブルを挟みながら朝食を口に運びつつ、話に花を咲かせるのだった。




