第80話 戦場掃除
「アンタ等に多少の同情はするが、行動は早くすべきだぞ。こんな小さなことでクヨクヨしていたら寝首を掻かれかねん」
そんな慶君の声が洞窟内に響く。確かに言わんとすることは私にも分かる。
けれど、こればっかりは親族や大切な人間を失った経験がある人間にしかわからない。そんな簡単に未来へと進むことができる人間ばかりじゃない。
「どう……? 行けそう?」
私がリリアナの顔を覗き込みながら声を掛けると彼女はこくりと頷く。ウェイドの方も涙を流していたんだろう。目元が少し赤くなっている。2人が抱える問題は互いに一緒であるようで、対になる関係性ゆえに話がまるでと言って良いほど進まない。
もう、こうなったら私が引っ張るしかない。
「とりあえず、王城に向かおう。この証拠があれば王様からの勅命を貰えるはず。そうでしょう? ウェイド」
「あぁ、そうだな……。この証言があればきっと――」
「はっ! ウェイド様!」
エリックさんが突然、横っ飛びでウェイドを押し倒す。
その刹那、数本の矢じりが飛んできて壁に突き刺さった。
「襲撃っ!? 一体、誰が――」
「我々はジルパート公爵の私兵である!」
「ジルバートの兵がなんで……!」
「ウェイド・ルグラス公爵に警告する! 貴殿は国家反逆罪で有罪となった! 大人しく投降せよ! さもなければ抵抗ありと判断し、我ら500人が実力を持って貴様を排除する!」
あまりに突然すぎる兵の登場に言葉を失う。さらに恐怖心をあおるように王家の紋章が押された巻物がこちらに放って寄こされる。それは正にバッドエンドの進行を見ているような気分になり、全員の顔が青ざめる。しかし、慶君だけは平然とした顔で壁へと身を寄せて冷静に分析するように語り出す。
「大方、俺たちは泳がされていたんだろうさ。でなかったら、こうも都合よく兵士は出て来ないからな? 手元には公爵断罪の招待状まであるときた。さぁ、どうするよ? 公爵さん?」
「っ……考えてもラチがあくものか。邪魔をするなら突破するまでだ」
「ウェイド様! ダメです。ここは一本道なんですよ!? いくら腕に自信があっても多勢無勢。勝ち目はありません!」
剣を持って歩き出すウェイドをエリックさんが止めるが、それをも突破する。
そんな彼の前に慶君が割って入り、肩に手を当ててウェイドを止める。
「冷静になれよ。この状況でアンタに居なくなられたら絵里香は死ぬぞ」
「大丈夫だ。エリックが居る」
「ったぁ……やけくそかよ。そういう問題じゃないだろう。公爵であるお前に死なれたら俺たちは後ろ盾を失うことになる。そうなれば、どうなるかは分かるだろう?」
「じゃあ、どうしろっていうんだ!!」
ウェイドはそう声を荒げる。
その勢いに気圧されてか、慶君はゆったりと語る。
「お前に『俺を守るだけの度胸』と『世界を改変してしまうかもしれない可能性』を飲み込む心があるなら――俺を使え。公爵として俺にこの盤面を突破しろと命令しろ」
「それはつまり、突破できると言いたいのか?」
「当然だ。元魔王だぞ?」
そう言い切った慶君はウェイドに対して凄む。
その表情には一切の嘘は感じられなかった。それにウェイドにとってはそれ以外に取れる選択肢は無いに等しい。
「分かった……。ウェイド・ルグラスの名において貴殿に公爵家としてオーダーを発令する。この状況を打破できるなら打破してくれ」
「ふっ、「しろ」じゃなくて、「してくれ」か……。嫌いじゃないね、そういうの。んじゃあ、いっちょやってやろう、かねっ!――<地を統べる聖霊よ・我が行く手に・壁を成せ>」
ゴゴッと音を立てて大きな壁が一気に出来上がる。天井から地面までを一気にふさぎ込んだ壁は完全に洞窟の一角を遮断する。
「我ながらよくできたが……たいまつとか、ランタンとか壁の向こう側に置いちまったな……なんも見えねぇな、お~い、だれか~ランタンっ!」
「お前は一体、何をやって――」
「(んっ、もう! 慶君は何をしたいの!?)」
私は手探りながらもランタンに火を入れて明かりをともす。
「お~、サンキュー~サンキュー!」
「いや、別に良いけど、敵を倒すんじゃないの? 明らかに兵が外からこじ開けようとしていると思うんだけど!?」
カンカンとか、ガンガンと音を立てて多くの兵が洞窟内にできた人工的な壁を破壊しようと躍起になっているような音が響き渡る。
「あ~大丈夫、ダイジョウブ!」
「どこがよぉ!?」
「ん? だって、今からお掃除すんかんねぇ~!」
子どもをあやすような、馬鹿にしたような喋り口調でグルグルッと手を回して思いっきり、壁の中に鉄拳を打ち込む。そして、これ見よがしに息を思いっきり吸い込む。
「スゥ――<礼流の理・聖水の渦となりて・濁流となせ!>」
その刹那、その場にとてつもない地響きが起こり、壁の外ではとんでもない悲鳴が響き渡る。
「ぅん? このくらいでいいでちゅかねぇ? よっと!」
バンッと慶君が壁を蹴ると土壁の如く、ほろほろと覆っていた壁が崩れ去る。その向こうには兵士たちの姿が一人も見えなくなっていた。
「まぁ……ざっとこんなもんよ」
「慶君、アンタ……チート過ぎじゃない?」
「いや、だってよ? 魔王だぞ? どんなRPGゲーでも魔王は悪役であり、ラスボスだろ? ヤバすぎな力を持っているくらいが丁度いいんだよ」
「くぅっ……。否定できないっ……」
「妬みやひがみは結構だが、さっさとこんな洞窟から出ちまうぞ?」
私が言い淀む中、全員で洞窟の外へと出る。
すると、一面が水浸しになっており多少、村に水が侵食しているようにも見えた。
「慶君、これ……さすがにやり過ぎたんじゃない?」
「う~ん~? けぃ君は洞窟が綺麗になったから満足かなぁ?」
「話を逸らさないで! てか、その幼児語やめなさいよ!」
そんな私の突込みにリリアナとグーファは苦笑いを浮かべる。
「まぁ……私たちの前に敵が居ないだけで、まだマシか。とにかく王城を目指そう。王様に合わないと話は付かないからね」
「ああ、そうだな。先を急ごう」
ウェイドが先導する形で私たちはフレストの王城へと向かい始めた。だが、これまた妙なモノで襲い掛かってくる敵は全く現れない。しかも、あろうことか城内への門番も完全にウェイドを顔パスで通してしまう。
「何が起こっているの? ここまであっさりしていると逆に怖いんだけど」
「俺に言われてもな? まるっきり分からん。普通、罷免されたら顔パスなんて出来ないと思うんだけどな?」
「ってことは……つまり、《《そういうこと》》なんじゃないか?」
「ジルバートの自作自演ってこと?」
「あぁ、恐らくだけどな」
慶君は確信を突く様にそう言う。例え、それが本当だったのなら、ジルバート公爵にとって今の状況は首の皮一枚が繋がっているような状況のはずだ。
「(なんだろう、無性に嫌な予感がする)」
私たちはそう感じながらも王様への謁見の為に城内を進むのだった。




