第77話 霊魂の光
「どうか安らかに、あなた達に女神のご慈悲がありますように」
翌日、私たちは屋敷から差ほど離れていない森の中で昨日の襲撃者たちを埋葬していた。ウェイドやエリックさんをはじめ、多くの人が手を貸してくれて式は粛々と進んだ。みんなから『エリカは遺体を見ない方がいい』と言われたが、私はその一人ひとりと向き合った。
「忘れない、わすれないよ。絶対に」
私の腕で最後に絶命した彼に、そして――この戦いで亡くなった全員にそう誓いを立てて立ち上がった。もう、私にできることは一つだけだ。
「必ず、『仇は討つ』から」
「すまん、俺の配慮が行き届いて居れば――」
「ううん、ウェイドはよくやったよ。それは私が一番よく分かってるからそこまで責めたような顔はしないで? もちろん、エリックさんもね」
ウェイドは魔王軍との戦闘で忙しい中、エリックさんを王城へと走らせて国王とコンタクトを取っていたのだ。
その内容は――『もし、私たちが魔王を打ち倒すことが出来たら、戦闘に参加した卑しい奴隷たちに恩赦を与えると国王から発言してほしい』というモノのだった。
そうして、エリックさんの働きもあり訴えの通り、国王はそのように宣言をした。
これにより、ジルバート公爵が仕掛けてくるであろう奴隷の動きを国王の権力で封じ込めることに成功。そして、私たちは無事に帰還するはずだった。
でも、現実は違った。
「――まさか、自分の手元に残っていた奴隷を使うなんて私だって予測できなかったし……」
「それだけ、俺たちが邪魔だったということだろう。それにジルバートにとっては奴隷を始末するいい機会を逃したわけだからな?」
「え? どういうこと?」
「表向き、ジルバートは真面目な顔をしているが、裏じゃ遺伝子実験に加担しているという噂がある。つまり、今回は奴隷たちの中に『そういう人間』をある程度、紛れさせて魔物に始末させようとしたんだろう。でも、それは叶わなかった。その腹いせもあるんだろう」
ウェイドは腕組みをしながら目を閉じる。
「まぁ、それに? 結果的にはアイツにとって得しかない話だったんだ。――魔王を倒すことができれば、「倒した兵は自分の奴隷だ!」と誇れるし、負けたとしても奴隷を始末できて、俺を追い込むことができる……。それに表面上、今回の件を立証できる証拠もない。恐らく、死んでいったこいつらの事もしらばっくれるだろうな? 『俺の奴隷だという証拠があるのか、私は王命に従っていただけだぞ』ってな――」
「っ……。そんな……見て見ぬふりなんて許さない……私は許したくない」
この子たちは、命令のままに私たちを襲っただけに過ぎない。
そして、これから長く生きれたかもしれない命を散らしていったのだ。
「何か、ジルバート公爵を追い詰められる証拠はないの? このままじゃ、この子たちが報われない――あうぅ……!?」
「どうした! エリカ大丈夫か!?」
「急に、手が――っ!!」
手に激痛が走り、思わず私は片膝を付く。すると突然、手の先からブルーエフェクトが顕現し、黒い闇のような気流が流れ出る。その直後、靄のようなモノが目の前に広がった。
「話は聞かせてもらった。……というか、いい加減出せよ? 鈴谷 絵里香」
「あっ……慶君!?」
「だ、誰だ? コイツは……しかも、『慶君』って」
ウェイドや周辺に居た全員が困惑の表情を極める。
「あーえっと……そのぉ……昨日の魔王なんだよね、アハッ、アハハハ……」
「チィース、元魔王の慶です」
「はぁぁあああ!? 魔王!?」
絶叫が木霊する中、私は慶君と同じ同郷の出身であることを伝えて理解を求めたが、全員が気にしていることは全く同じだった。
「いや、でも魔王ってあそこで死んだんじゃ?」
「あー実は私のユニークスキルの『インベントリー収納』で慶君を隠して死んだように隠蔽したんだよね~あはは……」
「隠蔽!?」
またしても全員の痛い目が突き刺さるが、エリックさんが独りで呆れつつ、苦笑する。
「いやはや……剣星の次は魔王ときましたか。まぁ、でも、魔王である彼にはどうやら交戦の意志はないようですし? 我々にとっては貴重な戦力になると思われますよ、ウェイド様?」
「いや、なぜそこで俺に話を振る!? 責任を俺に擦り付けるつもりだろ?」
「いえいえ、そんなことは決して? これから公爵家とのイザコザを強めようというウェイド様にとってはいい話かと。それに、これが表に出れば誰かさんの愛しのエリカさんはタダでは済みませんよ? それでもよろしいんですか?」
エリックさんがウェイドの逃げ道を悉く潰していく。
「あぁ」とか「うぅ」と悶えた挙句、ウェイドはしんみりと声を漏らす。
「わかった……わかったさ。俺は何も聞かなかったし、シラナイ。分かっているのはエリカと同郷の人間だってことだけだ。全員、そういうことにしとけ。いいな?」
否は認めないと言わんばかりに言いつつ、ウェイドはため息を吐く。
「はぁ、どうであれ……だ。あそこまでガードが堅い公爵とすぐに張り合うには手札がなさすぎる。もう少し尻尾を――」
「そんなもん、叩けば出てくるに決まってるだろう。どんな奴だって埃はでてくるもんだ」
慶君は馬鹿かと言わんばかりにそう吐き捨てる。
でも、ウェイドも負けてはいない。
「何を言うかと思えば……急に出てきた奴が何を言う? 叩けたら苦労はしないんだよ、こっちは」
「これだから……公爵ってやつは無能なんだ――」
「なんだと!?」
「はいはーい。落ち着いて!」
ウェイドが慶君の裾を掴みに行きそうになり、私は間に慌てて入る。
しかし、公爵としてプライドが許さないのか、ウェイドは怒り冷めやらぬ様子で声を上げる。
「そこまでの啖呵を切ると言うのなら、貴様には手立てがあるっていうのか!? あ!? どうなんだ!?」
そう問われた慶君は黒い瞳を前髪の間からのぞかせ、闇を滲みださせるように喋り始める。
「あのなぁ……手を立てるんじゃ意味がないんだよ。組み合わせて手にするんだ。要は調査をすればいい」
「調査? 調査って何を?」
「はぁ……んなことも分かんねぇのか? 全部だよ、ぜんぶ」
私の問いかけに対して慶君はサラッと答えたが、その言葉に全員があっけらかんとした表情になる。
「待った、待った! 全部って今回の件を一からって事?」
「違う。その子、リリアナの両親の件も含めて全部、再調査するんだ。洗いざらいすべてを調べ直す。猟犬のように徹底的に食らいつくんだ」
「(ん……? なんかこの言葉回し、どこかで触れたことがあるような……?)」
私は一瞬、某アニメを連想させるが、すぐに私は慶君に問いただす。
「というか……なんでリリアナの件を知っている訳? 私、慶君には話して居ないよね?」
「刑事としての勘――と言いたいところだが、インベントリーに入れられている間、勝手に記憶を覗かせてもらった」
「はぁああ!?」
「その、いろいろとアンタもあったんだな……ここで言うつもりは毛頭ないが」
その言葉のイントネーションで見られたくない物まで見られたという事は分かった。怒りがとめどなく込み上げてくるが、今はそんなことはどうでもいい。
「それで? 勝手に私の記憶を見て再捜査するって言ってるけど、勝算はあるわけ?」
「それに私の家――ヘルスティア家の関係者は全員、殺されていると思うわよ? あの公爵の事だから口封じもしているでしょうし」
私の意見に被せるようにリリアナも諦めるように声を漏らす。
その様子に慶君は呆れながらも目線を鋭くする。
「真実を知りたいとか言ってる奴がそんな事を言ったら元も子もないだろ……。そんなの、捜査してみなければわからんだろうが。百聞は一見に如かず。行動してから言えよ。……まぁ、やるかやらないかは俺が判断すべきことじゃない。アンタたちが判断すべきことだ」
事実、慶君の言う事にも一理ある。このままウェイドに任せきりではいつになってもジルバート公爵を追い詰めることは出来ないだろう。
「わかった。やろう」
「エリカ! お前、自分の言っていることが分かってんのか? 自ら死の鎌に捕まりに行くようなものだぞ」
「分かっているよ、ウェイド。でも、私たちの手であいつの悪行を止めないとまた犠牲者が出る。今はとにかく、時間が惜しいと私は思う」
「っ……。そうとなったら僕たちはリリアナの件から調べますか。僕らにとってそれが一番でしょうから」
「青二才まで……!」
そんな私の意見にグーファが賛同するように立ち上がり、リリアナの方を見やる。
リリアナは何とも言えない、悩むような表情をしていたが、やがてポツリと声を吐き出した。
「やってやろうじゃない……私だって本気よ。このままであの件を終わらせたくないもの」
「お前らなぁ……ったく、リリアナ・ヘルスティアが動くなら、ルグラスが動かんわけには行かんだろう? なぁ、エリック?」
「はぁ……そこは普通、俺に任せとけズバッと言うのがマナーというモノでしょうに――まぁ、私としてしてはウェイド様がやると仰るのなら、仰せのままに」
その他、目の前に居る全員に目線を合わせていくと一様に頷き返してくれる。
「じゃあ、私たちでジルバート公爵の皮を引っぺがしてやろう」
こうして私たちは報復と復讐、断罪を胸に動き始めたのだった。




