第74話 異なる者たち
「魔物の数が異常に多いわ。あんな数で突っ込んで来られたら、たまったもんじゃないわね」
「しかも、あの魔物たち陣形を組んで居やがる。どこまで知能が働くんだ?」
リリアナとグファ―は冷静に魔王城や魔物たちの動きを目で追う。
そう、私たちの前に鎮座するのは魔王城で間違いはなかった。
けれど、私にはそんなことより目がいったことがあった。彼らが抱えている旗だ。
「(うわぁ……あれってさ? 銭の紋章を模した柄の旗だ。これって確か、戦国ゲーで一度で見たことあるけどさ、織田軍の紋章じゃないっけ?)」
魔物たちが各々背負っている旗、それにはどこか見覚えのある家紋らしきものがちりばめられている。
「(あれは武田? あっちは島津じゃん! どうなってんの? 戦国大名が魔物になって異世界転生してきちゃったとか?)」
「よし、可能な限り半円状に取り囲めっ! 静かに、しずかにだ」
私が物思いに更けているとウェイドは静かに散開するように指示を出す。
その話が始まると同時にリリアナはウェイドの元に駆けていく。
「エリカ! 私はあっちに行くけど馬鹿な事だけはしないでよ」
「なっ……! しません!」
「どうだか? まぁ、万に一つもグーファがいるから大丈夫だとは思うけど」
リリアナはグーファへ向けてギッと視線を強める。
「わかってるよ。エリカが暴走しないように止めればいいんだろ?」
「っ、グーファまでそんなことを言う!?」
「とにかく、安全第一だからね? また一人で動き出したら容赦しないんだから」
そう言ってリリアナは私たちの元を離れていった。
元々、リリアナはこの戦いを行うにあたって『火鉄の柱』のクランリーダーであるアレスさんと共同で作戦を練っていた。魔術に関しての経験値や戦闘での経験は彼らとリリアナが軍を抜いてトップだ。
「(とはいえ、結局はなんやかんやウェイドが絡んで戦術顧問みたいな感じに二人をしただけで、実際はみんな考えた作戦だしね)」
私の頭の中にも作戦の概要は頭に入っている。
まずは包囲を完結させ、相手の動きを封じてから一気に魔術で叩き散らかす。討ち漏らしたり、突撃してくる場合には戦力として冒険者が中心となって対応するという単純なプランだ。
「ふぅ……んじゃあ、グーファとリオーナさんは攻撃の準備に」
「はいっ!」
「ミミとロイドさんは負傷者に備えて救護テントの用意を――というか、私が出さないといけないのか。……やります」
「お願いしますなの! あとお薬の方は準備とはロイドお兄ちゃんが処置するセットを広げないと」
「そうだね。ミミちゃんにも少し手伝ってもらうよ」
「はいなのっ!」
またデジャブを感じると思いながらも私はインベントリーの中からテントをはじき出す。やはり、戦場において救護場所は即興だから二人で準備していてもワタワタしている。
「防御用の結界を張らないとリリアナさん――って、ああそうか。今はあっちにいっているのか――」
「それは私の方でやりますよ? 手順だけ教えてください」
「エリカさんが? いや、しかし……戦闘に向けた準備は?」
「あぁ、それなら問題ないですよ。私たちの配置は目と鼻の先ですし、2人にはもう前に出て行ってもらっていますから」
私たちの配置はそこまで動く位置でもない為、手伝いを申し出る。今までも数回だが、防御結界が張られている様子を私は見ているだけあって自信があった。
ただ、その一方でロイドさんの目からは『本当にできるのだろうか』と心配そうな視線が向けられてくる。
「そ、そうですか。……では、この魔除け草を使ってコレと同じ魔術陣を書いてください。少しでも難しいと思ったら言ってくださいね?」
「ふむふむ……スクロールの時と同じような感じか」
手を動かしながらスラスラッと書いていく。
でも、そんな私の様子をロイドさんも、ミミも熱く見つめてくる。
「あの……そこまで見られていると緊張するんだけど……?」
「ああ、これは失敬。だけど……ね?」
「うん、これってそれなりに難しい魔術陣なの。それなのに書けるなんてエリカお姉ちゃん、すごい!」
「……? そうなの? 私は単純にリリアナがやっていた通りの真似をしているだけなんだけどね」
そんな回答に二人は示し合わせたかのように顔を見合わせる。
「ということは今まで一度もコレを作ったことはないんですか?」
「ええ、ありませんよ? ただ、スクロールの時もそうでしたけど、ある程度の造り方を見れば真似は出来ちゃうんですよ」
「やっぱり、エリカお姉ちゃんは天才さんなの!」
「ちょっ――ミミ! 急に抱きついたら危ないよ?」
ミミが私に抱きつく中、ロイドさんだけは化け物でも見るかのようにメガネをクイッとあげる。もしかして、ミミが抱きつく様子を見てやきもちをやかれているとかだろうか。
「(へっ、たまにはマスター様にだってミミの成分を補給させな!)」
ニシシと笑みを浮かべるとロイドさんから鋭い視線を食らう。
ああ、ヤバい。本当に逆鱗に触れたかもしれないと思った私は咳ばらいをして早々に魔術結界をテントの周りに配置し、グーファたちの元へと向かった。
「グーファ。どう、現状は?」
「うーん……奇妙な、というか不気味な感じですね。みてください。あれを――あんなにきれいに魔物が整列しているところなんて僕は見たことがありません」
その言葉に釣られ、私が魔王城の方を詳しく見てみると魔王城の周辺に固まった魔物たちが散在している。しかし、その配置は上から見ていると正しく『魚鱗の陣形』に見える。
「しかも、綺麗に山脈の間にある川を隔てて構えていると……。なんかいかにもって感じがするなぁ……」
「……? どういうことですか?」
「戦い馴れているとエリカ様は言いたいのだろう」
「うん……リオーナさんの言う通り、合戦馴れしている気がする。それに……随分と遠い地方の話なんだけどさ? こういう戦い方をする人たちを知っているんだよね、私……。思い越し苦労なら別にいいんだけど……」
そうこうしているうちに攻撃の準備が整い、一斉に全員がスクロールを魔王城に向け始め、私たちもそれに習ってスクロールを前に掲げる。
そして遂にウェイドの声が響く。
「総員、放てぇ!!」
その瞬間、まるで全員が同時に呪詛でも唱えているのかと思うほど、声が重なって詠唱が始まる。それと同じくして魔王軍サイドからも大音量が鳴り響く。
「ブォォー! ブォ、ブォォー!」
「――爆ぜて燃えよ!>(完全にホラ貝じゃないすか!?)」
私の突込みを他所に大きく、そして膨大な魔術が魔王城へ目がけて飛び始める。
さく裂する音と着弾する地鳴りが響きわたる。
「(バンバン打ち込んだれぇい!! ふぉふぉぉ~!!)」
テンションが上がる私を他所に数多の攻撃が魔王城に直撃する。
どうやら魔王軍は今までの狡猾さとは裏腹に、今回はアウトレンジからの攻撃など想定して居なかったのだろう。ものの一撃で天守とその下の階層が吹き飛び、あまつさえ突っ込んでくる魔物たちを阻むように魔術が何度も、何十回もさく裂する。
「(なんか、今までと比べたら凄くお粗末すぎるけど、これなら押し切れる!)」
みんなが血眼になって魔術を撃ち込む。その場に最早、『抵抗』などの文字を残す余地も与えないほどにメタメタにしていく。
「マナのポーションが切れたり、スクロールが切れたらすぐに後ろに下がれ! 後方の奴と詠唱を変わるんだ! 行け、いけぇ!!」
「右側に展開している部隊は打ち漏らしがないか適宜、報告を! ――そっちはモタモタしない! カバーを入れて!」
ウェイドとリリアナが部隊の動きを完全に掌握しながら動いていく。
合わせて、私が提案した『乱れ撃ちの手法』も相まって魔物たちは完全なキルゾーンから逃げることも、向かってくることも叶わない。
そして、この指揮官の二人はとにかく、世の中の厳しさを知っているから最後のさいごまで交戦の度合いを全く下げない。城が半壊しようが、全崩壊しようが全くもって攻撃を緩めない。
「最後まで残弾を余すことなく、撃ち切って!」
「(うわぁ……こんなの、完全なオーバーキルでしょう――ん!?)」
そんな中、魔王城から最後のあがきと言わんばかりに騎馬部隊が飛び出してくる。その鎧は正に武田軍を象徴するかのような赤で兜には金の角のようなモノが生えている。その瞬間、直感的に理解した。
――あれが魔王じゃないかと。なぜなら、あそこまで凝った装備を着ている魔物は何処にもいないからだ。
「(でも、なんで突貫!? この状況で馬鹿みたい)」
確かに武田騎馬隊と言えば日本史をある程度、勉強したことがある人間なら触れたことがある単語だ。でも、こんな異世界の地では魔術がアウトレンジにおいては最強だ。今更、歩兵戦術でどうにかなるモノでもないし、世界には銃の概念など存在しないのだから最早、勝ち目はない。
「(日本史――? なんだろう、ずっと心が何かモヤモヤする。うーん?)」
破れかぶれで突っ込んでくる魔王軍の騎馬隊はあっという間に魔術の面制圧の前にひれ伏されてしまう。それは先頭を走っていた魔王らしき武者も同様で。馬から転げ落ちて地面に激しく叩きつけられる。
その手には白い布が握られており、よくよく見れば『どこかで見たことのあるような白色と赤色のコントラスト』が見えた。
「あれって……もしかして――いや、もしかしなくても『日本国旗』じゃん!?」
私は背筋にゾッとした感覚を受けながら前へと踏み出したのだった。




