第73話 魔王城?
「はーい! じゃあ~ここに並んでください。可能な限り、均等に並んでくださいね~!」
「<ドロップ>っと!」
私とフレンシアさんは後片付けが終わった野営地の中心部でマラソン選手にドリンクを渡すように各種ポーションやスクロールを配布していく。
その一方、私たちから離れた前方ではウェイドが悪役公爵を演じていた。
「奴隷の諸君。分かっていると思うが、支給された品を我々、公爵家の軍や冒険者たちに使用した場合、命の保証は出来かねる。それから、この戦場から逃亡したとしても君らの雇用主であるジルバート公爵はそのような行動をとったものを慈悲もなく、自害へと導くだろう。浅はかな考えは決して起こさない事だ。私に付き従い、魔王軍を打ち倒してくれれば今後の優遇を約束しよう」
力説していることはクソなのだが、間違いなくウェイドにはこういう演説のセンスというか、カリスマ性があるのだろう。自然と人を焚きつけている。
「まぁ、でもアレだけ人を魅了できなければ公爵なんてやれないんだろうけど」
「僕には全く分からない世界ですね。あっ、エリカ。これで最後ですね」
「うん、じゃあ、エリックさんに報告してウェイドに話すのを辞めさせないと――って、《《居ないんだった》》。グーファ、悪いんだけど、ウェイドに終わったよって伝えてきてくれる?」
「……? わ、わかりました!」
こうして、私たち魔王討伐隊は撤収と戦闘準備を整え、馬で荷を引きながら前へと進み始めた。ウェイドは策を練るように顎に手を置きながらも、魔王討伐に向かう討伐義勇軍を指揮する。
「いいか、絶対に隊からは離れるな! 何度も言うが、ここまでの道中で襲ってきた魔物どもは頭が切れる。生半可に魔物だからと取ってかかるなよ!」
そんなゲキを飛ばす。だが、現状は燃え枯れた森を進んでいることもあって奇襲の心配もない。きっと魔物への警戒感を緩ませない為だろう。
そんな中、グーファはふと疑問に思ったかのように声を漏らす。
「それにしても、魔王ってどうして現れたんでしょうね? 魔物の軍隊なんてハッキリ言って、迷惑極まりないのに」
その言葉には多少の怒りが感じられた。多分、グーファは私たちが少しずつ戦いへと近づいてことに対して不安を隠しきれないのだろう。
「(それは私だって同じだよ、グーファ)」
私は思いを同調させるように彼の言葉の上に声を重ねる。
「本当だよね。いい迷惑なのは間違いないかな? まぁ、出てきた理由は普通に考えて『復活が定期的』とか、『誰かが悪しき封印を解いた』とかそんなところだろうけど?」
「えっ、そうなんですか? へぇ……なんて厄介な……」
つい、ラノベやアニメの想像で妄言をバラ撒いてしまい、ヤバッと口を噤むが、思いのほかグーファはまともに受け止めたらしい。
「そ、そう。多分……その、きっとだけどね?」
「ったぁ……あのね? エリカ。グーファに間違ったことを教えるんじゃないわよ。そんなの、王家が所有する国宝『世界の予言書』が復活を予言したからに決まってるでしょう」
「そ、そう……だっけ?」
私はリリアナの指摘に大きくすっとぼけて見せると呆れた表情で御者台へと顔をのぞかせる。
「そんなことはフレストに居る人間なら誰だって知っている話よ? 本当にエリカって時々、おかしなことを言うわよね?」
「あのねぇ~私だってたまには間違うことだってあ・る・の! 知ってました、予言書に書かれたからなんだよね~リリアナちゃん?」
私がおだてるように言うと少しムッとした表情を浮かべる。
「へぇ~随分と吹くのね? じゃあ、昨日の夜の『アレ』も間違いで~ああなったってことね?」
「へぇ!?」
「私が見ていないとでも? あんな大胆に、私がスヤスヤ寝ようとしている横で〜? グーファを押し倒すなんてぇ〜あらあらまぁまぁ!」
「「あば、あばばぁぁ!!」」
私とグーファは慌ててリリアナの声をかき消すが、お互いに顔が真っ赤になる。
確かにグーファにやったことは間違いないし、グーファが照れるところを見てみたいとか思ったのも間違いないけれど、それは二人の時であって今じゃない――!
「エリカお姉ちゃん、寂しかったの?」
「あのね、ミミ〜違うのよ、エリカはねぇ――」
「――そう! 寂しかったんだよ、ミミ!? リリアナは黙ってて!!」
純粋無垢な瞳で私達を見るミミに引きつった笑みを浮かべながら無理やり会話を終わらせる。幸い、ミミはまともに解釈してくれたらしい。
「にしても、魔王城ってどんな感じなんですかね!?」
「うん、確かに私もそれ、気になるなぁ!! ああ、というかさ? また魔物、襲ってきたりしないよね!?」
私達の慌てっぷりを見てリリアナはどこか満足したのか、これくらいにしてやるかと笑みを浮かべる。
「そうね〜? 可能ならもう襲ってこないで欲しいわね。魔王の城は一説によれば禍々しい黒い城とか、巣のような巣窟だとか言う話があるらしいわよ?」
「いやいや、禍々しい城ならわかるけどさ? 巣って何よ!? 気持ち悪い、ロマンがないなぁ……」
「ロマンって……はぁ、どうして、こうもうちのマスターは……」
「ん? なんか言った?」
「いや、なんでも? 仮に魔王城が巣みたいなやつだったとしても近づくわけではないし、良いんじゃない?」
「それはそうだけど……さ?」
某地球外生物をやっつけるゲームみたいな巣だったら、帝国にあるグレブレット洞窟の時みたいに叫ぶ自信しかない。
「まぁ、どの道答えはすぐに分かるわよ」
「――報告! 魔王城を発見っ! なお、魔物の大軍を確認しました!」
そんな矢先、ウェイドが前もって放っていた斥候部隊が情報を持って帰ってきた。それを聞いたウェイドは音を消し、進軍の速度を下げて接近していく。
「しかし、攻撃ポイントまで山登り。その上でこの速度……。本当に大丈夫なのか? ただでさえ、馬には負荷がかかるっていうのに……」
「言いたいことはわかるが、俺達がやるのは完全な奇襲だ。相手に気取られないように静かに、しずかに動くんだ」
この場にいる全員に緊張が走る。
今まで奇襲攻撃を受けているだけあって、周囲への警戒に余念がない。
でも、いつ出てくるのか分からないだけにピリピリとした感覚だけが迸る。
「この感じ嫌だなぁ……まるでホラーゲーじゃん」
「ホラーゲー?」
「あっ、グーファ、なんでもないから。独り言だから」
この『来るかも、いや来ないかも』みたいなどっちつかずの感覚は正直こたえる。
そんな中で私は馬の動きを微細にコントロールしていると不意に手が温かくなったのを感じた。前傾姿勢を戻してみればグーファが私の手をそっと握っていた。
「エリカ、大丈夫です。何があっても僕がエリカを守り抜きますから。だから、そんなに固くならないでください」
「うん、ありがとう。いつもごめんね。――!!」
そう言った矢先、山を登り切って少し見晴らしが良い位置へと出る。
するとそこには壮観健美な魔王城がそびえ立っていた。
「これが……魔王城? なんか、少し想像していたのと違うような気もするけど、僕たちなら攻略できるはず!」
「あはは……これが魔王城? ――いや、というかこれってさ? 日本の城じゃん」
私は一人その情景を前に絶句するのであった。




