第44話 払った代償
「おい、エリカ! しっかりしろ!!」
「ウェイド様、こっちにリリアナさんとミミさんが――!」
「ロイド、すぐに二人を診てくれ! エリック、止血帯を!」
「ったく……はいっ!」
そんな慌ただしい声で私は目覚めた。痛みが激しくて意識がもうろうとする。目に入りこんでくる日差しから夜が明けている事だけは分かった。
「ぁあ……わたし、生きてる?」
「ああ、生きてるとも……体はズタボロだけどな」
「あはは……ウェイド、シャッターチャンスかもね……」
「バカが。こんな時に! 痛むぞ! ――おい、ロイド! 他の奴は! 」
「リリアナさんも重傷です。それにミミさんが――ミミ、死ぬな!」
ロイドさんの必死な声が聞こえてくる。私もこんな腕の中で過ごしている場合じゃない。動かないとダメだ。それなのに体は動くなと拒絶反応を示す。
「ミミ……ミミは……っ……」
「だ、大丈夫だ。あの子が、俺たちにこの状況を知らせてくれたんだ。そんな肝が据わった奴がこんな所で死ぬわけがないだろ」
「ミミが……? どういう……こと……?」
「通信回線にミミの助けを求める声が入ってきたんだ。「助けて」ってな。あいつが凄い力を持っていたこと、お前は知っていたんだろ? だから、大丈夫だ。あの子を信じてやれ」
その言葉を聞いた瞬間、ミミがあの光り輝く力を使用してメッセージを届けたこと、そして私たちに延命の措置をしていたことは容易に想像できた。
「こりゃあ、ココじゃまずいな。すぐに屋敷へ運ぶぞ!」
「あなたは……」
「ったく、こんなことは最後にしてくれ。カネは弾んで貰うぞ」
そう言って後から現れたのは町外れの治癒士、エルバスだった。私たちは迅速に馬車へ運び込まれ、屋敷へと戻された。正直、その後の記憶はあまりない。
結果として私たちは全員がエルバスさんとロイドさんの治療によって一命をとりとめた。もちろん、絶対安静を要する状態ではあるし、しばらくは立つこともできそうにない。さらに、ミミは魔術回路の損傷という代償を払った。ロイドさんによれば、これから先、魔術を使うことは難しいとのことだった。
正直、それをミミが知ったらどう思うかは今の私にも分からない。でも、結果的に命が無事ならそれで私は満足だった。
それから私が目覚めたと知ったグーファが心配して泣きつきに来て「やり返しにいく」と言い出したり、これ見よがしにウェイドが私の元へ花を持って訪れたりと色々、大変だったが、今はそんな状態も落ち着きを取り戻し、見回りに来たセリーヌさんと話し込んでいた。
「それで……あれから二人の様子はどう?」
「はい。少しずつ回復してきているようですよ。まぁ、何はともあれ、全員が無事でよかったです。まさか、お三方とも、こんなことになるとは思ってもみませんでしたので……」
「ごめんね、セリーヌさん。また心配をかけちゃって」
「いえ、そのようなことは! それに足の回復も早いようですし」
「なら、リリアナとミミのところに行って――」
「まだエリカ様は絶対安静。そう言われていますよね? 今は言う通りにしてください。でないと私が怒られるんですから」
セリーヌさんはお茶を入れつつ、私に厳しい視線を向けて笑顔をかましてくる。
これで私が駄々をこねたらどうなるか知れたものではない顔つきだ。
「あはは……セリーヌさんに本気で怒られると思うと。ううん……」
「行かないでくれると助かります」
「わかった、わかったから! そんな目で見ないで」
「はい。これを飲んだらまたゆっくり寝てくださいね。静養第一ですから」
「はい……」
ズズッと音を立てながらお茶をすすりながら私はここ最近のセリーヌさんの動きや言動に違和感を覚えていた。どことなく、無理に笑っているような気がしていた。
それに今、飲んでいる『お茶』にも違和感があった。
「ふぅ……おいしい。でも最近、茶葉が濃い感じがするけど、気のせい、かな?」
「ああ~この時期は茶葉が深みを増すので味が強く感じてしまうんですよ」
「へぇ……ふわぁあ……」
どうにもこのお茶を飲んだ後はすぐに眠気が強くなる。そんな様子にセリーヌさんは布団を掛けて私を横にする。
「健康な体になるために大切なのは睡眠ですから。きちんと寝てくださいね。眠りに落ちるまでは私が隣に居ますので」
そう言われて私は成されるがまま、眠りに落ちていく。せめて、心配してくれるセリーヌさんの為に寝なくては――そう思っていた。しかし、そんな日々を2週間ほど過ごしたある日、不意に目が覚めてしまった。
「時間は……まだ、朝の3時半か」
朝ご飯までも時間はあるし、腐るほど寝ているから眠る気にもなれない。私はいよいよ起き上がって地面に足を付けて立ち上がってみる。
「くうぅ……痛いけど歩けなく、ない、かな……?」
足を引きずりながらも廊下に出てみると見た景色に胸が高鳴る。数週間に渡って部屋の景色以外見て来なかったのだからそれは必然でもあった。しかし、それ以上に私はリリアナとミミの事が気になっていた。だから、私はお見舞い感覚で彼女たちの部屋を覗いた。
そう、本当に興味感覚で――。
「嘘……。リリアナ……」
しかし、そこで私が見たモノ。それは包帯で至る所を巻かれ、酸素用マスクらしきものを付けたリリアナの姿だった。横になって寝ているリリアナはどう見ても「回復している」とは思えなかった。
「じゃあ……ミミは……っ――!」
慌てて隣にあるミミの部屋を開けるとそこは森のように部屋が改造されており、床には土が敷き詰められ、花や草木に囲まれるようにして魔法陣の上でミミが横になっていた。その顔は随分と青く、死に際のようにも見えてくる。
「ミミ……! っ……」
その現実を目の当たりにして私はその場に立っていることすらままならなくなっていく。吐き気と足の痛みが増し始め、数秒後には膝から崩れ落ちた。もし、あの孤児院で襲ってきた子どもたちを私が力で排除していたらこんな事にはならなかったかもしれない。
「それでも、私は……」
そう、私は和解する道を選びたかった。
親を亡くした子どもたちと本気でぶつかるためには死なれては困る。
だから、『復讐』なんていうワードを前面に出して子どもたちに生きてもらおうとした。それが彼らにとって生きる理由になるならそれでいいと思ったからだ。
「それなのに……どうして……こんなことに……。……大切な二人を……みんなを守れないで……何が、なにが……あの子たちとぶつかるよ……私の馬鹿ぁ……ううわぁぁ……――っ!」
「泣きたいなら泣き切ってください。僕はもう、泣き切りましたから」
そう言って私に後ろから手を回したのはグーファだった。その腕は以前にも増して男性らしい腕へと変わっていて、背中から伝わって来る暖かさは安心感を感じる。私はそのまま涙を流し続けた。




