第22話 ひと時の安らぎと感謝
ロディが作成した『ふりかけ』に舌つづみをうった私は再び、テントへと戻った。
すっかり日差しも暮れて日没になりつつある。
「はい、グーファ! これがあなたの。で、これをエリカに運んで」
「あの、一様さ……僕も剣で切られたんだけど……?」
「2皿運んで行くくらいできるでしょ? 男の子なんだから」
リリアナは料理をグーファに持たせて「ほら、行った行った」と追い立てる。
やっぱり、リリアナはこういう所はしっかりしているというか、リーダーシップがある。グーファもしょうがないと思いながらなのだろうが、その指示には従うらしい。
「エリカ様、どうぞ」
「ありがとう。一緒に食べよ?」
「え? あっ、はい!」
「「いただきます」」
こんな何気ないひと時が私にとっては幸せだった。周囲を見渡せばみんなの顔が見える。そして、同じものを食べる。馬鹿みたいなことだが、この一瞬だけは何物にも代えられない気がしていた。
「はむっ、はむっ!」
「グーファ、お腹空いているのは分かるけど、もう少しゆっくり食べな? ほら、口に付いているよ」
「あ……すみません。ありがとうございます」
「ったく、本当に可愛いんだから」
「っ……」
顔を赤らめる姿が可愛良すぎてもっといじり倒したくなる。次はどんな風にいじってみようかと悪知恵を働かせていた時だった。後方からガサッと物音が聞こえ、咄嗟に振り返るとそこには上半身を起こしたミミが居た。
「ミミ、起きたのか!」
「ロディさん! ミミが起きました!!」
「えっ? ミミが、ミミが起きたの!?」
私が大声で叫ぶとロディさんが小さい鞄を片手に駆けてきた。
「ミミさん、具合はどうですか?」
「あたまが少しふらふらするけど……お腹、空いた」
「ちょっと失礼しますね」
ロディはその言葉を聞いて少し笑みを浮かべながら聴診器で胸の音を聞いたり、脈拍を測ったりして一通り終えると一度、メガネをグイッと上げて静かにこういった。
「完全に神経は癒えています。正直、薬物で汚染された神経がこうも後遺症がないことには驚きましたが、オルニアスの花の効果と肉体の若さがこの結果をもたらしましたね。完治した。そう僕は宣言します」
「「良かった! 良かったね! ミミ!!」」
「みんな、ありがとうなの……! うわぁ!? みんな……苦しいよ……」
私たちはミミに抱きついて泣き続けたのだった。ある意味、私たちの弱さは涙脆いことなのかもしれない。しばらくして私たちから解放されたミミは真っ先にロディさんに近づいて行って頭を下げた。
「薬を作ってくれてありがとうなの。かっこいいお兄ちゃん」
「あっ、いや……まいったな。どういたしまして……」
ミミとロディさんは少し照れながらもそんな言葉を交わし合う。
私たちは未だその熱が冷めやらぬまま、夕食をみんなで囲んで食べて夜の眠りにつく用意を始めた。
「グーファ、毛布を取ってくれる?」
「あ、はい。どうぞ」
「よし、じゃあ、2人ともこっちに寄って」
「え? 僕もですか?」
「うんっ! みんなで寝た方が安心するでしょ?」
グーファとミミを両サイドにして私はくっ付いて横になる。
思いのほかグーファは緊張した面持ちだったけど、次第にその感覚に慣れてきたのか、私の肩に頭を乗っける。私もそれに答えるように手を握ってあげるとピクッと反応したが、少し時間が経つと寝息を立てて寝始めた。
「あはは……可愛い。ミミも私に抱きついちゃってまぁ~可愛いこと。ふふっ、リリアナが見たら焼くだろうな~」
私もニタニタしながら二人の寝息につられるように眠りに落ちて行った。
そして、私が朝、目を覚ますとグーファは既に居なくなっていた。ミミを起こさないようにそっとテントを出るとグーファが上半身裸でロディさんの処置を受けている最中だった。
「さ、これで消毒完了だな」
「……ありがとうございます。うっ……く……」
「痛いのをよく我慢したね。さすが男の子だ。っと……エリカさん、おはようございます。もし、良ければエリカさんも処置してしまいますが?」
「(うげっ……グーファですら顔歪める処置をされるの?)」
私は思わず、顔をしかめるが、ロディはそれを見抜いて笑って見せる。
「エリカさんの方はそんなに痛くないと思います。だから、そんなに怯えないください? まるで僕が悪いことをしているように見えてしまうでしょう?」
「フェ~フェ~。べ、別にそんな顔なんてしてませんよ?」
そんな言葉を返しているとグーファの視線が痛い程、刺さって来る。
あげく少しだけグーファに笑われた。
「な、何も笑うことないじゃん……」
「あっ、いや……エリカ様にも苦手なモノがあったんだなって思って」
「そりゃあ、人間だもん。あるよ……」
「はい。それじゃあ、エリカさん、テントの中で処置しますよ」
私はロディさんに連れられてテントの中で傷口の処置を受けた。でも、これが痛いのなんの――何があまり痛くないだ、凄まじい痛みが体を襲う。
「うぎ……っ! もうすこ―――ひっ……ゆ……ひぃぃ……くぅぅ……」
「今、何か言いました?」
「なにもいってましぇんよぉぉぉ……早く終わらせてぇぇぇ……」
終わった事にはもう涙が溢れ出ていた。
ロディは苦笑いしながらも私の体に出来た傷を診る。
「この傷は確か、ゴーレムとの戦いの時に負ったんですよね?」
「ええ。でも、数日前に傷が開いちゃって」
「うーん……それにしては……」
「ロディさん? どうかしたんですか? もしかして、悪くなってるとか?」
「いや、そうじゃなくて……3日前に傷口が開いた割には『完治』に至るまでが早いと思いまして」
「えっ? 完治?」
私は苦手だったということもあって極力、見ないようにしてきた傷口をマジマジとみる。しかし、傷はほとんど治っていて縫合の傷も見えなくなってきている。ロディさんが言うには自然治癒に対する恩恵が私にはあるのではないかとのことだった。
「でも、そんなこと今まで言われたことありませんでしたよ?」
「あくまで推測ですが、3人との関りが原因かもしれません」
「関りが原因?」
「ええ、エリカさんは魔術のような奇跡がなぜ、発現するかご存じですか?」
「え、いや……わからないです。呪文のおかげとか?」
「……答えは思いの力です、エリカさんは他の人よりそのバイアス――つまり、魔術発現のロジックよりも『思いの偏り』が高いのでしょう。それで自然治癒の能力が『魔術的現象』として無自覚に発現しているのだと思います」
「私ってある意味、凄い体質なんですね」
「ええ。恐らくはですがね、だからといって怪我を負っても大丈夫などと考えないでください? とにかく今は安静に。それが第一です」
そこまでロディさんは言うと処置キットを片付けてテントを後にしていった。
ロディさんはああ言ってくれたが、いざという時の判断材料にもなる良いことを知った気がした私はそっと傷口を撫でるのだった。
私達はこうして少しずつ傷を癒しながらも朝食を食べた後、再びフレストの街を目指して進み始めた。ずっと晴れ日和が続いていることもあって魔物も特に現れず、街道をひた走る。他の冒険者たちとは違い、寄り道をしない私たちは夕方近くにはフレストの街へと到着した。
「ここが王国――円形都市フレストですか」
あまりの賑わいに言葉を失ったロディを連れて私はユザルダさんが店を構える近くにまで寄り、ロディを下ろした。
「これでお別れですね。ここまで早くフレストに着くとは思いませんでした」
「あはは……私もです」
「なっ!? べ、別に私はそんな飛ばしてないわよ?」
「分かっていますよ。リリアナさん。ただ、何というか……あそこまで啖呵を切っておきながら何も教えることができなかったなと……それだけが申し訳なくて」
「それなら私の家というか、小屋にきてください。この道をずっと上って行って左側に小道が一つあるところから入った所なので分かりやすいと思いますから。……それにうちのヒーラーちゃんを鍛えてもらいたいし」
「そうか……あの、塗り薬はミミさんが――わかりました。時間ができたら必ず、お伺いします」
「ええ、お待ちしてます」
私とロディは握手を交わし、ユザルダさんの露店へと向かわせた。彼には『エリカという奴隷連れの女がユザルダの元に行け』と言われたと告げるように話してある。ユザルダさんなら大きなネットワークを使ってあのふりかけで大儲けできるはずだ。
「(そして、その還元をロディさんが受ける。それでユザルダさんは大儲け。ロディさんは学校に通う。うん、パーフェクトでウィンウィンな関係になれる。誰も不幸にならないいい作戦だよね)」
私とグーファ、リリアナ、ミミの4人はユザルダの驚く顔を尻目にその場を後にして自分たちの拠点へと進み始めた。




