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第94話 監督の葛藤と高橋vs蒼魔

第94話 監督の葛藤と高橋vs蒼魔


監督視点

最初渡辺と田辺の話を聞いたときに、俺は一笑に付した。

150cmもないような娘がサウスポーのトルネード投法と聞いてありえんと判断した。

冗談言う暇があるなら練習しろと二人には凄んだが、後日その娘が来るから見てほしいとのことだったので、正面からバカにしてやるつもりだった。

つもりだったんだ。

今の俺は甲子園が男だけしか出ることができないという規約への感謝と、なぜこの子が男じゃないのかという絶望にはさまれていた。

そのくらい、彼女の実力は本物だった。

天に掲げるように両腕を上げて極限まで自分のバネを利用して投げる球はまさに圧巻だった。

それこそ今の時点でもメジャーリーガークラスの実力があると断定できるほどだ。

しかも握り方がわかればどんな球でも投げられるとのことで、実際にナックルを投げて見せられたときは、是が非でも欲しいと思うくらいの変化だった。

まあ、あんな変化をされたらキャッチャーは取れんよな。

フロントドアの曲がり方もヤバい。

ハイスライダー並みの速度で、物凄い角度で曲がっていく。

左バッターからしたらのけぞるレベルの変化だ。

スラーブもヤバい。

このときだけは感謝と絶望が同時に来たね。

で、その後、彼氏と交代したんだが、彼氏もヤバかった。

普通ならセットポジションからのモーションになるアンダースローがワインドアップからのモーションだったからな。

よほど体幹を鍛えてないとできない芸当だ。

しかもソフトボールのライズボールのような球を投げているし。

何なんだ、その地面スレスレから浮かび上がる軌跡は。

しかもフォークの落ち方もヤバい。

実際にうちのスラッガー高橋が打席に入ったが5イニングやってもかすりもしなかった。

球がありえないほど縦横無尽に動いているからな。

スライダーや、シュート、シンカーも一級品。

最後は綺麗なオーバースローで高橋は三振した。

…どこにいたんだ、この逸材は。

たまらず、野球部に来ないか誘ったが、

「え?こんなクソ暑い炎天下で汗だくになって練習したくないです」

と正論でバッサリ切られたよ。

あと恋人たちのお手伝いがあるから時間もないって言っていたな。

もったいない。

本当にもったいない。

星華初のメジャーリーガーも夢じゃないのに本人にその興味がない。

これではいくら誘っても入部はしてくれないだろうな。 

二人は休憩したあと軽くバッピをしてくれたが最近天狗になりかけていたレギュラーたちの鼻を折るには十分だった。

ここはうちの部にとっていい薬だったということで納得しておこう。

じゃないと、あの二人が欲しくて仕方なくなっちまうよ。


サン視点

うはー!

さっすがお兄ちゃん。

高橋くんに一回も触れさせないとかやばいよね。

ボクも高橋くんのことは知っていて、超高校級スラッガーって言われているんだ。

打率は驚異の4割超えらしいけど、もっと打てないの?とは思う。

お兄ちゃんの球、結構打ちやすそうなんだけど。

まああれだけ球が動いたら絞れないかな。

よく見れば球の握りは見えるんだけどなぁ。

溜めの時にゆっくりなモーションにしているのは多分球種が分かるようにしてくれているんだと思う。

あえてあそこで貯める必要はないからね。

高橋くん、ちょっと変わってもらえる?

お?

お兄ちゃんの顔が変わったね。

さあ、正々堂々勝負だ!!


高橋視点

くそっ!

まさか一球もかすらせてもらえないとは…。

サンちゃんの話だと蒼魔くんは投げる時に溜めを作って握りを見せてくれていたらしいんだけどさ。

握りが分かっても軌跡が読めなさすぎるんだよ。

なんだよあの変な軌跡は。

一応俺、超高校級スラッガーって言われているんだぜ?

ここまで何もさせてもらえないと自信なくすわ。

「高橋くん、バット貸して」

ん?

サンちゃんが打つの?

はい。

「ありがとね」

ニッコリと微笑んでくれた笑顔に思わずどきりとする。

さすがスポーツ科一の美少女と言われるだけはある。

てかバットスピード速!! 

風切音まで聞こえるんだけど…。

「よし、お兄ちゃん!勝負だ!」

左打者のボックスに入って構えるサンちゃん。

まあ、あれだ。

蒼魔くんの球はクセが強すぎて振り遅れたり上を振りすぎたりするよねえ。

だけど徐々にタイミングも合ってくる。

もしかすると…そう思っていたら、

「どっせーーーい!!」

美少女らしからぬ掛け声とともにフルスイング。

ライナーになった球は弾丸のようにバックスクリーンに直撃した。

うそ…だろ!?

「ああ!はずしちゃった!さっきのはまぐれ!?」

「ふはははは!サンよ、お前の実力はその程度か!?」

「むきーー!おにいちゃん!?」

狙いすぎたのか、次の玉は思いっきり空振り。

そして煽られてお約束通りの反応…。

あははは。

こうだよ。

野球は楽しんでなんぼなんだ。

苦しい思いをしてするもんじゃないよね。

俺はサンちゃんが楽しそうにバットを振っている姿を見て写真を思い出していた。

たぶんほかのレギュラーもそう思っているんじゃないかな。

そのくらいサンちゃんが楽しそうなんだもん。

たまには地域の草野球チームに紛れて年や性別に関係なく楽しく野球をするのもありかもな。

俺はそう思うに至れた蒼魔くんとサンちゃんに心のなかで感謝させてもらったよ。



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