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第74話 元常務の末路

第74話 元常務の末路


元常務視点

俺はどこで間違った?

事務所の規律を乱す種を摘もうとしただけなんだぞ?

確かに社長たちが作っていた専用の改訂後の契約書ではなく改訂前の契約書で結ばせるつもりだった。

なのにあろうことか、エルシアという小娘に付いてきていた男が俺の目の前で契約書を破り捨てやがった。

大人に対して舐めた態度をとってきたから叱ってやったというのに俺はそいつに殴られてしまった。

わけがわからない。

俺は事務所の秩序を守るために動いただけなのに。

こいつだって気に入らないだけで殴ったんだろう。

男気は買うが、手を挙げるのは落ち度だったな。

せいぜい傷害罪と暴行罪で捕まって豚箱のなかで反省しやがれ!!

そう思って俺は心のなかで嘲笑ってやっていたんだが、結果、俺に懲戒解雇を言い渡されただけだった。

著しく会社のイメージを損なう行為を理由とした解雇だそうだ。

ふざけるな!!

なぜ殴ったこいつではなく、俺が罰せられているんだ!!

俺はこの会社に30年近く勤めて、常務まで上り詰めたんだぞ!!

何故だ。

何故だ何故だ何故だ。

俺は恥も外聞もかなぐり捨てて社長に解雇の撤回を求めたが、俺への解雇の決定は覆らず、社長は会社に尽くしてきた俺を一瞥しただけで俺を警備員に突き出しやがった。

俺はこの会社の常務だぞ!?

あんな小娘より俺のほうが会社には必要なはずだ!!

山村も出てきていたが哀れむ視線を俺に向けただけだった。

事務所が入ったビルから追い出された俺は呆然とするしかなかった。

そのまましばらくビルの前で立ち尽くしていたが、すでに解雇された俺を引き止めにくるような奇特な部下は誰も出てこず、俺は肩を落としてトボトボと宛もなく彷徨うしかなかった。

途中で見つけた公園のブランコに腰を下ろし、俺は頭を抱える。

どうしよう…。

幸い俺の子供らはもう大学まで出ているから心配はいらないだろうが、俺の今後の人生は…。

嫁に解雇されたという話をしたら離婚を突きつけられてもおかしくないだろう。

いや、理解してくれるか?

…どちらにせよ、この年齢では再就職も難しい。

しかも俺は解雇されたのだから退職金も出ない。

嫁は自宅のローンを俺の退職金で完済するつもりだと前々から言っていた。

それがご破算。

どう考えてもお先真っ暗だ。

正しいことをしようとした俺が断罪され、家族も失いそうになっているなんておかしいだろう!!

だが今さら悔やんでもどうにもならない。

離婚覚悟で嫁に白状しよう。

アーリーリタイアみたいな感じで自給自足の生活もありかもしれない。

そうだな。

わざわざ物価の高い東京に住み続ける必要はないんだ。

今の家を売って、貯蓄を持ってどこか長閑な田舎にでも引っ込んで、夫婦で畑でもできれば、御の字だな。

嫁、説得できるかな。

特に子どもたちの説得が大変かもな。

今更都会から田舎になんか行きたくない!とかごねられそうだ。

いや、すでに大学も出ているから、そこまで気にしなくてもいいかもしれん。

だが、俺が説得できなければ孤独な老後が待っているだけだ。

家族に誠心誠意謝って許してもらおう。

それしかないな。

はぁ。

俺の頭、アップデートできてなかったのかな。

影で昭和脳の老害とも言われていたのだからこうなってしまったのもお似合いの末路…か。


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