第29話 小島の後悔と一之瀬の破滅
第29話 小島の後悔と一之瀬の破滅
小島視点
まずい。
まずいまずいまずい。
あいつらは本気でまずい。
一目見て分かった。
赤毛の女もやべえが男のほうがもっとやべえ。
ヒョロガリ?
どこがだ!?
あいつらの纏う雰囲気だけでわかる。
絶対に手を出しちゃならねぇやつだ。
だが俺も逃げるわけにもいかねえ。
任侠としてのスジってもんがある。
俺が詫びて一之瀬を始末すれば許してもらえんかね?
いや、むしろ一之瀬のアホどもがあいつらに殺されるかもしれん。
さすがにあのレベルが相手だと相手が猛虎で俺は哀れな羊だ。
どうやっても羊の俺が狩られる未来しか見えない。
すでに2人と目線が合っちまったしな。
くそ。
やっぱり欲を出すもんじゃねぇなぁ。
とりあえずこの場をどう乗り切るか考えなければ…
一之瀬視点
特進科のヒョロガリへの不意打ちは完璧なはずだった。
なのに、奴の後頭部への被弾からの反動の掌底で、狂犬と言われる武田さんがふっとばされた。
文字通り壁に激突する感じで。
女の方もヤバい。
全てカウンターで、しかも一撃で沈めてきやがる。
殴られる音もヤバい。
ゴシャッとかグシャッとか普通聞こえてこないような音が聞こえてくる。
しかも殴られて気絶している奴にまで顔面を踏みつけ確実に潰してきやがる。
この男、ただのヒョロガリじゃないのかよ!?
なんだよその蹴り。
ミドルかと思えばハイキック、ハイキックかと思えばローキックとか軌道が変わりすぎだろ!?
気がつけば50人は集めたアニキの仲間たちがあれよあれよという間に血の海に沈んでしまった。
残っているのは俺と兄貴だけだ。
やばい。
逃げたい。
今すぐにでも逃げ出したいのに奴らから視線を外すと間違いなく狩られる。
兄貴は赤髪の女のハイキックをモロに顎先に食らって膝から崩れるのが見えた。
そして俺様の記憶はここで途切れてしまった。
コイツラは完全に地雷だったか。
くそったれ。
小島視点
俺は少し離れたところから見ていたが、奴らは只者ではなかった。
男の方はおそらく総合格闘技でもやっているんだろう。
そうじゃなきゃあの変幻自在の蹴りは説明できねぇ。
あの女も異常だ。
普通気絶したやつの顔面をとどめのごとく踏みつけねぇぞ。
多分奴ら全員どこかしらの骨、やっているだろうな。
ヤクザの俺たちでも普通はそこまでしねえ。
そのくらいの威力であの女は躊躇なく顔面を踏みつけてやがる。
こりゃ俺も年貢の納めどきかな?
まずいな。
奴らが近づいてきた。
さっき視線も合ったんだ。
そりゃ気づいているわな。
仕方ねえか。
俺は両手を上げて降参だといいながら二人の前に立つ。
ほう、一応男の方は話はできるようだ。
男の方は俺がカタギではないことに気づいているようだな。
女の方は今にも襲いかかってきそうだが。
ふむ。
やはり一之瀬の始末を求めてきたか。
そりゃこれだけのことをやらかせば求めたくもなるか。
うーん。
ケツモチしていたとは言え、正直一之瀬のアホどもが手に余っていたのも事実だしな。
…うん。
オジキに連絡して、このバカどもを始末してしまうか。
迷惑料として十年ほどベーリング海でカニでも取らせるか。
冗談交じりにこのバカどもにカニを獲らせるというと、男は笑いながら分前よこせとか言ってきやがる。
兄ちゃん、肝が座ってんな?
え?
この程度の奴ら、100倍来ても無双できる?
あー。
容易に想像できるな。
それに俺程度でも相手にならない?
気づけば男の正拳突きと女のハイキックが寸止めの状態で俺の目の前まで来ていた。
うん。
わかった。
わかっていた。
だってコイツラの動き、目で追えねえんだもん。
最初から処刑台に上がっていたわけだ。
俺も含めてな。
佇まいを正し、俺は詫びとしてカップルにベーリング海でコイツラが採ったカニを12月から3月までの期間、毎月3杯贈ることを伝え、承諾してもらえた。
さらに、タラバとか毛ガニとかを取らせてコイツラの写真付きで送ることを伝え、俺は事務所へ戻ることにした。
やっぱり俺の勘は伊達じゃなかったな。
あの胸騒ぎ=地雷だったのは間違いなかった。
だが、あの2人と知己を得られたのは大きい。
組の抗争とかに巻き込むつもりはないが、若い奴らを鍛えてもらえんかね?
とりあえずオジキやオヤジに聞いてみるか。




