第17話 明日の準備とサンの苗字
第17話 明日の準備とサンの苗字
蒼魔視点
「ルナ、ごちそうさま。」
「はい、お粗末でした。」
今日の夕食はすき焼きだった。
色々おふくろがルナに伝授したようで普通に美味かった。
多分次のすき焼きはレベチなんだろうなあ。
「ルナー、今日の夕食は初めて作ったんだよね?」
エルシアも満足したんだろうな。
表情がいつもより柔らかい。
「そうですね。お母様に教えていただき、忠実に作った感じですわ」
「そっか。まあルナならこのくらいは普通なのね。」
「何か期待していたのですか?エルシアさん」
「飛び上がるほどうまいのが出てくるかと身構えていたからあれ?っとなっただけ。」
「大丈夫ですよ?エルシアさんも私の腕、ご存知でしょう?」
「そだね。次期待してる」
「フフ、お任せ下さい」
ルナのやつ絶対底上げしてくるな、こりゃ。
レアは安定の緑茶タイム。
サンはルナの洗い物を手伝っているんだ。
そう言えば、以前俺が手伝おうか提案したんだけどルナが、
「ここはわたくしの領域です。あなた様は座ってお待ちくださいませ」
とか言ってすんごい圧の笑顔で言うんだもん。
あの時はレアも驚いていたっけ。
「そう言えば主殿、明日から出かけると聞いたのだが、どこへ行くのだ?」
レアがふと聞いてきた。
「ああ、明日から俺とサンは学校に行くとになっているんだ。サンは家にいてもじっとしているわけないから適度にガス抜きを、な。」
「なるほど、その間、我らは何をしていればいいのだ?」
「家の近くを散歩してもいいし、俺のパソコンで遊んでいてもいい。鍛錬していてもいいし、自由だぞ?」
「そうか、じゃあ、我ら三人で明日は主殿のパソコンとやらを使わせてもらおう。」
「おっけ、あとで説明するわ。」
これで三人は時間をつぶせるだろう。
まぁ、俺の秘密フォルダが見つかっても、あいつらなら勝手に咀嚼するだろう。
まあ、エルシアだけはどうなるかわからないので怖くはあるが、それはそれで俺も楽しめそうだし。
あ、そうだ。
「サン、ちょっといいか?」
「何、お兄ちゃん?」
ルナの手伝いを終えたサンが駆け寄ってくる。
で、ちょこんと俺の前に座る。
うん。かわいい。
じゃなくて、
「昨日、おふくろから俺と一緒の学校に行くと聞いていると思うけど、覚えてるか?」
「うん、それがどうしたの?」
「学校に行く前に、サンに名字を決めてもらう必要があるんだよ」
「苗字?ボク、平民だよ?」
「悪い、説明が悪かった。日本って国ではな、みんな“名字”を持ってるんだ。だからサンが平民とかは関係ないんだ。俺と一緒に暮らす以上、サンにも必要になるってだけだよ」
「ほえ〜そうなんだ。」
「ルナ、レア、エルシアは皆苗字にあたるファミリーネームがあるのは知っているな?」
「うん。レアお姉ちゃんはヴェスペリア、ルナお姉ちゃんはルミナリア、エルシアお姉ちゃんはカルティエールだよね?」
「そうだ。だからなんとかなる。だけどサン、ここは地球。あっちとは違うんだ。だからサンが名字を名乗っても何の問題もないんだ」
「そうなんだ〜」
あー、これ、理解してないな。
まぁサンらしいけどさ。
「なるほどねぇ。じゃあサンの苗字はダーリンが決めるの?」
「いや、どうせならサンに決めてもらおうと思ってる」
「え?ボク?」
「自分で決めたほうが愛着が湧くと思うんだが」
「でも、ボクお兄ちゃんの冷泉みたいなの、知らないよ?」
「なんでもいいんだぞ?」
「なんでも、といわれても……ボクじゃ考えつかないから難しいよぉ。」
サンはうーんうーんと考え出した。
そりゃそうか。
知識がなけりゃ出てこないか。
「主殿、なにか指針となるものをサンに与えてはどうか?」
「あなた様がサンに具体例を出して差し上げればよろしいかと」
そのほうが早いか。
「サンー、おーいサンー」
「ほえ?何お兄ちゃん」
「たぶんこのままだと何も決まらないまま朝になりそうだから俺がこれから適当に苗字候補を出すよ」
「わかった。その中からボクが選べばいいんだね?」
「そうだ。じゃあいくぞ?佐藤、鈴木、田中、村田、谷川、柴田、太刀川……」
一つずつ候補となりそうな名字を読み上げていく。
「武田、島田、青野、星川、赤嶺、犀川……」
まだサンの琴線は動かないか。
「本多、松田、姫川、九重、紫吹、川田……」
「お兄ちゃん、ストップ、さっき引っかかったものがあったよ」
「ん?松田か?」
サンは首を振る。
「じゃあ川田?」
また振る。
「ん−、九重?」
「それ!ボクここのえがいい!!」
うわあ…。
サンの目が爛々と輝いてる。
よっぽど九重という言葉が気に入ったんだな。
一応聞いてみるか。
「なんで九重を選んだんだ?」
「なんとなく!!だけど響きが良かった!!」
「なんとなくで決めるあたり、サンらしいわね」
「ですね。サンは基本直感型ですし。」
「九重か。響きもいいではないか。主殿、どういう文字になるのだ?」
「文字か?こんな感じだが」
ササッと九重という字を書いてみせる俺。
「ふむ。どういう意味があるのだ?」
「簡単に説明すると9回重なるということ。翻って幾重にも重なる、という古い言葉になる。深読みするとすれば、歴史が長いとか、由緒ある家柄とか、格式が高いことを連想させる言葉になる」
「いささかサンにはやりすぎな気もしなくはないが、まあ本人が気に入っているのであれば問題はあるまい」
続けて、サンの名前にも漢字を充ててみるか。
ふむ。
あの天真爛漫なさまを出すなら…
「燦」
これかな。
九重 燦。
うん、悪くないな。
「ダーリン、この文字の意味は何なの?」
燦の字を指しながらエルシアが聞いてくる。
「この字の意味は天真爛漫とか、光り輝くとか太陽とかいい意味を持つ文字だね。だから九重燦で、幾重にも重なる純真、とか太陽って意味になる。」
「まんま、サンのことですね。」
優しく笑うルナと頷くレアとエルシア。
サンは俺が書いた「九重 燦」という字をじっと見ているな。
覚えようとしているのか?
「どうした?サン」
「お兄ちゃん、この文字難しいよぉ。」
「じゃあ違う文字にするか?」
「それはいや。だってこの字はお兄ちゃんが考えてくれたんだもん。」
「そうか」
さて、どうするか。
俺はちらりとルナを見やる。
あ、頷いた。
「じゃあサン、覚えるために書く練習をしましょう。あなた様、この字を大きく書いていただけますか?」
要望通り俺は燦の字をチラシの裏に大きく書いてルナに渡す。
「じゃあ、ゆっくり見ながら描いていきましょうね。」
さすがルナだなぁ。
とりあえず様子を見よう。
俺とレア、エルシアはサンとルナに断って待っている間に一緒に入浴することにした。
結局サンは「九重 燦」という文字をルナのおかげで1時間でマスターできたそうだ。
ルナ、サン、お疲れ様。
さあ、明日はサンと一緒に登校か。
編入先は多分スポーツ科だろうなぁ。
編入試験、やり過ぎなきゃいいんだけど。
……付き添い、つけるかな?
つけたほうがいいような気もするけど…。
どうしよ。
まあ明日考えよう。
最悪サン一人でなんとかなるでしょ。
なるよね?
なったらいいな。




