第108話 ベーゼンドルファーを弾いてみた
第108話 ベーゼンドルファーを弾いてみた
ミカエル視点
キラキラ星変奏曲は凄かったなぁ。
レアさんが弾くたびにキラキラと星が降ってくるような感じだったね。
弾いていた本人もご満悦だったみたい。
次はベーゼンドルファーだっけ?
みんなで電車に乗ってあちこち行くのって家族と一緒に移動する小旅行みたいでいいね。
横浜まで芝浦から1時間くらいかな。
私もレアさんたちもこっちの世界では中々出歩かないからね。
動いても行きたいエリアが決まっているからそんなに広い範囲動かないというのはあるよ。
仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
サンちゃんは演奏自体にはあまり興味ないようでスタインウェイでもファツィオリでもホケーッとしていたね。
よくわからないという方が正しいかも。
そう言えばこれから向かうのは横浜なんだよね。
ベーゼンドルファーでの試奏が終わったら中華街に行くことを提案してみよう。
そうすれば、サンちゃんもこの旅行を楽しめるかも。
「すいません、氷美香さん、この後の話なのですが…」
「どうしたの?ミカエルちゃん」
「この後の話レアさんがベーゼンの試奏をしますが、その後みんなで中華街にいきませんか?」
「別に構わないけど、どうして?」
「サンちゃんが少し暇そうだったので、サンちゃんを楽しませてあげたくて」
「…確かにそうね。レアちゃんの演奏は素晴らしかったけどサンちゃんは暇そうだったのよね。わかったわ。」
これで良し。
サンちゃんはどうしても花より男子だから仕方ないことなんだけど。
ぶっちゃけてしまうと、私も中華街に行きたかったからちょうどよかった。
サンちゃんを呼び水にしちゃったのは申し訳ないけど、いいよね?
レア視点
ふむ。
本当にここで合っているのか?
見た感じオフィスビルの一角なのだが…。
エルシアやミカエル殿も少し戸惑っているな。
我も戸惑っているのだが…。
「うーん。住所的にはここで合っているよなぁ」
主殿もスマホを見ながら首を傾げていた。
義母殿も主殿のスマホを覗き込んだ後、ビルを見上げていた。
とりあえず入ってみるしかあるまい。
我は皆の前に出る形でビルに向かう。
「あ、レア!待ってよ」
エルシアの声に弾かれるように皆がついてくる。
む…。
これは…。
展示室にはいるとファツィオリの時のように空気が変わった。
ここまで訪れたスタインウェイは王者の風格、ファツィオリは清浄、そしてベーゼンは荘厳という雰囲気が空間を支配している。
我は深呼吸をして受付へと向かい、予約をしていることを伝える。
そしてお勧めの品番のピアノへと案内してもらう。
我は椅子に腰掛け、高さを調整する。
品番は214VC…だったか。
試しにCの音を鳴らしてみる。
うむ。
我はそっと鍵盤に指を置き、何を弾こうか考える。
そうだ、ここは少し遊ぼうか。
聖剣伝説3のBlack Soapのイントロを力強く流す。
16部音符のジェットコースターから始まるこのイントロは本当に狂気だ。
集中だ。
音は外さんぞ。
対峙する敵の狂気が伝わるように思いを込める。
「ここでその曲を弾くんかよ」
主殿は我の思惑がわかったようだな。
「何…この曲」
「知っている曲?私知らない…。」
音楽を専門とする者には聞き慣れん曲だろうな。
今から20年近く前の音楽だから知っているとしたら中年くらい…か。
より重厚に、狂気的に弾きあげていく。
もう一ループ行こうか。
このジェットコースターは弾ききれば気持ちいいんだがなぁ。
観客のガヤが気持ちいいものだ。
ゆったりと迫りくる狂気と押し寄せる恐怖を音にまとわせる。
このピアノは弾いていて気持ちがいいな。
ファツィオリも良かったが、ベーゼンもベーゼンでいいな。
これは使い分けるが理想的か?
しかし買うにしても費用の面で問題がある。
主殿がルナ殿に交渉してくれたから今日もついてきてくれているんだろうが…。
最後は少しアレンジをして弾き終える。
ふう…。
「すまない、もう一個上のグレードのピアノはどれだろうか。」
意識を飛ばしていた店員が慌てて求めるピアノを教えてくれる。
「これか」
我は移動して椅子に座り指を鍵盤に乗せる。
ゾワゾワっと背中に鳥肌が立つ。
これは…本気で引いてみるか。
ベーゼンの担当者視点
私の弟がやっていたゲームの曲を完全に弾ききっただけでも固まってしまって、声をかけられてワタワタしてしまいました。
聞いてきた内容は一つ上のランクの紹介依頼だったのでモデル225を勧めました。
そして彼女が椅子に座って鍵盤に手を添えた途端に怖気が走るというか、何かが起こる予感のようなものを感じました。
そして引き始めたのはヘンデルの主題によるパッサカリア。
まさかここでそれを弾くの!?
と驚愕してしまいました。
難易度は中級から中上級ですのでこの曲を弾ける人はそこそこいるのですが、ここまでの狂気を孕ませて弾く人を私は知りません。
執念というか、妄執というか、淡々と延々と引いていくのを見ていて怖くなってきます。
観客も彼女が孕む狂気を感じたのでしょう。
全てとはいいませんが顔色が悪い人が多いです。
何が彼女にここまでの演奏をさせるのでしょう。
弾く前は落ち着いた美人という印象でしたが、今は音楽に生涯を燃やしつくそうとする演奏家に見えます。
あとで聞いてみたら、
「生涯を捧げる?いやいや、我としてはあの曲の解釈があのような感じになっただけだ」
と、あっさりとしたものでした。
天才というか鬼才というか。
彼女は音大を卒業していないそうで、誰かに師事をしたこともないそうです。
正直独学でここまでできるようになるものなんでしょうか?
私もピアノは弾きますが、ここまでの狂気は再現できません。
ベーゼンのピアノの特性を考えても理解はできますが、正直言って常軌を逸していると感じています。
私はパッサカリアを熱演する彼女に魅入っていましたが、弾き終わると魔法が解けたように呼吸が楽になりました。
たまに雰囲気を醸し出す演奏者はいますが、彼女のように空間を支配するような演奏者は世界に数人いるかではないかと思います。
満足はできたようで、ピアノを軽く撫でてから連れの人と帰っていきました。
観客の人たちはその場に立ち尽くし、感想を言い合っていました。
ここに来る人は耳が肥えていますし、音大の学生さんもいます。
そんな人たちの心を鷲掴みしたのです。
私はまたどこかで彼女の演奏が聴けるのが楽しみとなりました。
もしかしたらMelodic Tubeにチャンネルが有るかもしれませんね。
今度の休日、探してみましょう。
最後はベーゼンドルファーでした。
今回レアが弾いた曲はこちらです。
聖剣伝説3よりBlackSoap(原曲のBGMしかなかったorz)
https://www.youtube.com/watch?v=qE3ZtWtvcpk
パッサカリア
https://www.youtube.com/watch?v=J7yK8xdoHtY
興味がある方はリンク先にて確認をどうぞ。
次の話は中華街での話です。
お楽しみに




