第107話 ファツィオリを弾いてみた
第107話 ファツィオリを弾いてみた
氷美香視点
はあ…凄かったわ。
レアちゃんがピアノを弾けるとは聞いていたけどあそこまでとは思わなかったわ。
弾き終わる頃には20人くらい観客はいたわね。
今はみんなでわしのイタリアンというチェーン店に来ている。
パスタの気分だったのよね。
申し訳ないけど私の意見を通させてもらうわよ。
「なんか特徴的なお店だね」
「店名がわしのイタリアンって自己主張強すぎでしょ」
ミカエルちゃんは感心し、エルシアちゃんは笑っている。
サンちゃんは好奇心旺盛だからキラキラした目で店内を見回しているわ。
「あなた様、どれになさいますか?」
…ルナちゃん?
女房力強すぎない?
53万くらいないかしら?
「どれも美味しそうだなぁ。ジェノベーゼにでもしようかな。バジル風味のやつが食べたい」
「ねえ、ダーリン、いろいろ頼んであーし達でシェアしない?」
「いいのではないか?義母上、義父上、いかがか?」
レアちゃんは相変わらずお硬いわね。
まあ、それもいいんだけど。
旦那は頷いているわね。
「いいわよ。エルシアちゃんの案でいきましょう」
結果、ペスカトーレ、ボロネーゼ、カルボナーラ、アラビアータ、ナポリタン、ジェノベーゼ、ペペロンチーノとみんなばらばらになるから面白い。
注文をしてレアちゃんに尋ねる。
「レアちゃん、次はどこに行くの?」
「む?次はファツィオリのショールームだな」
ファツィオリってことは芝浦ね。
時間にして30分くらいね。
「お待たせしました」
きたわね。
さあ、食べましょう。
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
小皿を持ってきてもらい、取り分けていく。
サンちゃんの目がキラキラしている。
これはハムスターになるわね。
まあ、ハムスターになるということは美味しいってことだからね。
素直だからよくわかるわ、ほんと。
エルシア視点
さっきのスタインウェイでのレアの演奏は圧巻だったわね。
あれでも満足しないとか、レアも凝り性すぎるわ。
まあ、あーしがメイクに凝ったり、コスチュームに執心するのと同じと思えば理解はできるわね。
というか、ファツィオリのショールーム、見た感じ高級ホテルみたいね。
ミカエルの話だと美術品として扱っているという話だから理解はできるわ。
…、入ってみたら空気が変わったわ。
清浄というか澄んでいるというか。
楽器を見てみると少し魔力を帯びているのがわかるわ。
もしかして魔器?
…そんなわけないか。
「すまない。予約していた冷泉だが…」
…ぶはっ。
レアが冷泉を名乗ると笑っちゃう。
ジト目で睨まれたけどあーしは気にしない。
「お待ちしておりました。本日試奏のご予約でしたね。ご希望の品番はありますか?」
「よければ貴殿のお勧めの品番を」
「かしこまりました。こちらへ」
貴殿と呼ばれて少し動揺したけどあーしたちを先導してくれる。
「こちらのピアノが、わたくしたちがお勧めするF212になります」
「弾いてみても?」
「是非、我が社自慢のピアノをご堪能ください」
レアは一つ頷いて椅子に座る。
さて、何を弾くのかしら。
…聴いたことない曲ね。
「24の前奏曲 作品28 第15番 変ニ長調 雨だれか。」
ダーリンがボソッと呟いたのを聞いてあーしは検索してみる。
というか、ダーリン?
そんな正式名称、どうして覚えているの?
しっとりとした曲調で家の小窓から見える雨を見ている気分になるわね。
少し曲調が暗くなる所は暗雲と雷鳴かしら。
しかしレアも聞かせるわね。
スタインウェイでもそうだったけど観客がちらほら来ているわね。
「あの子、もしかしてストピの?」
「まさか…でも…」
「もしそうなら買うの?」
「お高いよ!?買えないわよ」
ひそひそ話だから普通なら聞こえないけど、あーし達サキュバスには丸聞こえなのよね。
悪口じゃないから見逃すけど。
しかしファツィオリ、だっけ?
さっきのスタインウェイより軽くて澄んでいるわね。
首も傾げないし、レアも気に入ったのかしら。
「うむ」
弾き終えたレアが一言つぶやいて立ち上がった。
見た感じ満足しているわね。
「レア、どうだった?」
「これは音が軽く澄んでいる。重厚感は少し物足りないが強めに弾けばカバーはできるだろう。音が空間に溶けていく感じだったし、情景も浮かびやすかったから我も楽しく、心地よく弾くことができたぞ」
ほぼ満点?なのかしら。
「いかがでしたか?我々としてもショパンの雨だれを久々にしっかり聴かせていただきました」
「ここの雰囲気では弾き語りはできまい。してもいいのだがショールームのコンセプトから外れるであろう?」
「よくお分かりで。しかし、あのレベルの演奏ができるのあれば、お客様の弾き語りには興味は出てきます」
「ふふ、社交辞令として受け取っておこう」
「またまたご謙遜を」
「レア、まだ時間はあるけど、まだ弾くか?」
「ふむ。そうだな。一つ上のランクを試させてもらいたい」
「かしこまりました。こちらになります。」
隣のピアノを指す店員。
「こちらがF228になります。先ほどの212の上位互換と思っていただければ」
「ふむ…。では…」
レアがおもむろに演奏を始める。
は?
キラキラ星?
そんな簡単なのを弾くの!?
あれ?
少しアレンジがかかっている?
「まさか…でも…キラキラ星変奏曲!?」
観客が驚いているわ。
変奏曲?
なに、それ…?
知らないわ!
突如レアの指が高速で動き始める。
うわうわ…!
よく動くわね…。
これは軽快に弾くから星がまたたくような感じがするのね。
これは情景が浮かぶわ。
店員さんは…息を呑んでいるわね。
それだけでもレアの腕がすごいってことよね。
というかあんた指動きすぎよ!!
何をどうやったらそんなに動くのかしら。
正直あーしにはさっぱりわからないわ。
レアも自分だけの世界に入っているし、観客は完全に聞き入っているわね。
これは間違いなくストピでやれないわ。
人だかりができてほかの人に迷惑がかかるわ。
おひねり用のシルクハットでも置いておこうかしら。
結構もらえるかもよ?
ダーリン、置いていい?
え?
だめ?
ちぇっ。
今回はショパンの「雨だれ」と、モーツァルトの「きらきら星変奏曲」でした。
どちらも雰囲気がまったく違う曲なので、興味があればぜひ聴いてみてください。
● 雨だれ(しっとりとした名曲)
https://www.youtube.com/watch?v=bkiMhHPO_Y4&pp=ygUJ6Zuo44Gg44KM
● きらきら星変奏曲(軽快で楽しい変奏曲)
https://www.youtube.com/watch?v=Nd77z-7tQ6I&pp=ygUY44GN44KJ44GN44KJ5pif5aSJ5aWP5puy
どちらも聞き入ることができる素敵な曲なので、おすすめです。




