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外にいる人のアドバイスはなぜかとても効果があるものだ

 優子(ゆうこ)由紀江(ゆきえ)高次(たかじ)助安(すけやす)は由紀江の事務所に戻ってきて、そこからまた助安からの疑問点や助言などの話をつづけた。午後二時からの予定ではあったが、帰ってきたのが早くなったので、帰ってきたらすぐに話を始めることにした。

「気になっている部分はいくつかあるが、聞いておきたいことは…。勝原がなぜ一人暮らしをしようと思ったか、それが聞きたい。何か理由があるんだろう?」

 その質問に、優子も由紀江もピクッと反応した。優子と由紀江にとってもその話は重要なことだったからだ。

 優子が口を開いた。

「一人で暮らせるように、その練習のためです。せっかく近くに由紀江さんがいるので、見ていてもらえるうちに一人で生きて行けるようになれておこうと思い、一人暮らしを始めました。」

 まっすぐな目で助安を見ながら言った。それを聞いて、高次が反応した。

「本当にそれだけ?」

 高次もじっと優子の目を見て言った。

 優子は高次の方を見て、目を合わせ、一瞬、目から視線をほんの少し外し、すぐに目を合わせてつづけた。

「あとは、純粋に気に言った部屋があったので…。」

 優子がそれを言った後、少し沈黙した。

 高次は、

「んー、なるほどねぇ。で、本当の理由は?」

 高次のそれを聞いたとき、優子は目を合わせたまま、少し瞼が動いて、どこか不安そうな表情となった。由紀江は表情は変えないまま、口を開いた。

「優子ちゃんはね…。」

 と言うと、高次がそれを遮った。

「あー、いやいや、勝原ちゃんに聞いてるんです。でも、そうだなー。ここで割って入ってくるってことはー、やっぱりなんか別で理由がある感じっすか?」

「…。」

 由紀江は黙った。

「すいません。意地悪したいんじゃないんス。本当の理由を勝原ちゃんの口から聞きたくて。二人は仲悪いようには見えないし、こんな短期間で別居って、ちょっとねー、俺らも心配なんすよ。見た感じ何か重大なことがあったわけではなさそうですし、でもなんか二人とも隠してる。」

「…。」

 優子も由紀江も黙って目をそらした。沈黙はごくわずかの間だったが、優子と由紀江にとっては長い沈黙に思えた。そして由紀江が口を開いた。

「優子ちゃんは、私のことを気遣ってくれたの。」

 由紀江のまっすぐな目は疑いようのないものだった。そしてそれに続いて優子が話し始めた。

「由紀江さんにお世話になり続けて、何でもやってもらって、これ以上お世話になり続けるのは申し訳ないと思って、一人暮らしを始めました。それに…、私のせいで由紀江さんが不幸になったら嫌だったから…。でもさっきの、一人で暮らせるようにっていうのもウソではありません。それに由紀江さんと何かあったわけでもないですし、由紀江さんにはたくさん感謝していて、由紀江さんだからこうして今があるんです。だから不満があったわけでもないし、むしろ一緒にいると幸せで…、別居なんてしなきゃよかったって、今思えばそう感じるほど…、由紀江さんと過ごす時間は私にとっては特別なんです。」

 それを聞いていた由紀江は、なんだか途中から照れくさくなって、そこまで言っちゃうか、というような感情になった。

 そして、高次と助安はその優子の訴えかけるような言い方に、優子の由紀江と過ごす時間がいかに大切なものであるかということが伝わってきたのであった。

 高次は、

「『由紀江さんを不幸にしないために』ってのは、どういう?」

 それに対し優子が答えた。

「私は…、私が関わった人たちが…、皆、私のように迫害されたり、悪いように言われたりしたから…、由紀江さんもそうなったら嫌で…。でもこれだけは言えます。由紀江さんとの時間は本当に掛け替えのないものなんです。私の、今の生きる意味なんです。」

 それを聞いて高次は少しゆっくり瞬きをして言った。

「なるほどなぁ。勝原ちゃんの思いはよくわかったよ。どうっすか、斎藤さん。」

「ああ、だが…。」

 斎藤の「だが」で、優子と由紀江は固唾をのんだ。

「それならどうして、同居に戻さない?部屋の解約はすぐにはできないことはわかるが、そこまで天筒との時間が掛け替えのないものならば、今はまだ一緒に住めばいいじゃないか。」

 優子と由紀江はきょとんとした。

 助安は続けた。

「勝原。お前の考えは立派だ。だが、ここまでやってこれたんだ。一人暮らしももう何も心配ないくらいにはなっただろう?今の時間は今しかない。天筒との時間が大切なら、今この時をそれに費やする方が後で後悔しないと思うぞ。」

 助安はそう言い終わると、出されていたお茶を飲んだ。

 優子と由紀江は顔を見合わせた。

 高次が口を開いた。

「とのことっすね。お二人さん。ちょっと、場合によっちゃあ、この関係も終わってしまうかもって思ってたかもしれませんけど、斎藤さんはこういう意見のようなんでね、まあ、これから同棲に戻すかはお二人で決めてもらって、アドバイスとして取っておいてくださいな。」

 優子は助安と高次の方を向いて口を開く。

「ありがとうございます。由紀江さんが良ければ…。」

 そういって、優子はもう一度由紀江の方をちらっと見た。由紀江は笑顔でうなづいた。

「はい、近々、同棲に戻していけたらと思います。」

 由紀江はそれを聞いて、心の底から嬉しさがこみあげてきた。とても優子を撫でたかったが、高次と助安がいるこの場でそれはできないのでぐっとこらえた。

 優子の顔は心なしか、どこか表情がとても穏やかになったように思えた。


 そしていろいろとそのあとも話した後、いったん休憩を入れることになった。

 由紀江は手作りのクッキーを持ってきて、

「はいどうぞ。手作りクッキー。」

 といって、優子と高次と助安にそれぞれ皿に載せた状態で配った。

「おお、きた!待ってました!」

 と高次は嬉しそうに、それを頬張った。

 優子も、

「ありがとうございます。」

 といって、食べた。

 由紀江の趣味のお菓子作りで、高次たちが来たときは大体は手作りお菓子を用意して出しているのである。

 由紀江は助安に向かって、

「まさか斎藤さんがあんなアドバイスをくれるなんて。意外でした。もっとドライな方かと。」

「まあな。勝原には今の時間を大切にしてほしいんだよ。」

 助安はそう答えた。

 それを聞いた優子は、ちらっと由紀江と助安の方を見て、そのあとまたクッキーの方へ視線を戻して、穏やかな様子でクッキーを頬張った。

 由紀江は、少し冗談交じりを含んだ様子で、

「やさしいんですね、斎藤さん。」

 と言った。助安は、

「勝原に至ってはな。」

 と、優子に対してだけは、その思いを認めた。

「私にも優しくしてくださいね?」

 由紀江はそう続けた。

「はあ、そういうところだな。」

 助安は呆れたように言った。

 優子と高次は同じことを思っていた。

((やっぱり仲いいな))


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