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ドロレス・ウィントからの2箱目

「クラウス様、イクテュエス大陸で一番美味しい水はどこにありますか!?」


 エーリカ・アウレリアはこんなことを言いながら生徒会室にやってきた。

 毎回毎回開口一番が唐突だ。


「諸説あるが、俺の知ってる水でいいか?」


 刻は土曜日の午前。

 生徒会の仕事が溜まっているにもかかわらず、俺以外の生徒会の面子は不在であった。


       ☆


 誰かに見られたらどう言い訳をするか。

 逡巡(しゅんじゅん)したが、新緑を思わせる瞳を煌めかせて問い合わせてくるエーリカに、俺は逆う術を持たなかった。


「少し時間をくれ」


 故に、学舎地下の転移門を利用してハーファン屈指の名水を確保してきてしまった。

 大きめの壜十本分の水を生徒会執行室のテーブルにドン、と置く。


「さすがです、クラウス様。いつもながら仕事がお速い……!」


 とはいえ二時間はかかっている。

 時刻はもう昼前だ。


「では人気がないことですし、こちらでちょっとだけ調理させていただきますね」

「ここで?」

「道具ならフルセットでありますので、ご心配なくです、クラウス様」


 愛用の革鞄から、エーリカは調理器具をとんとんと並べていく。

 そして例の異世界の箱から異世界の食材を取り出した。


「魚沼産コシヒカリ、有明の海苔、焼津の鰹節、博多の明太子そして紀州の梅干し、静岡の玉露……そして醤油が複数種類」

 

 多様な食材がテーブルの上に並ぶ。

 おそらく、どれも目利きの選んだ高級食材だろう。

 異世界の食品事情を知らない俺にすら、色艶や丁寧に作られた質感から品質の高さが伝わってくる。


「千里眼の魔女ドロレス・ウィントの福利厚生は最高ですよ。これから私は優勝します」


 俺の大事な許嫁(フィアンセ)は、異世界在住の魔法使いに完全に籠絡されていた。

 娯楽(ゲーム)の次には食か。

 的確すぎるだろ。


 高笑いしているドロレスを思い浮かべて、俺は静かに唇を噛んだ。


「あっ、クラウス様、このお米見てください、ちょっと丸いでしょう?」


 まあ、懐かしい故郷の味で喜んでいるエーリカを見るならば俺も文句はない。

 彼女が幸福なら、十分。

 これ以上望むものなんて、俺にはない。


「これで私のいた異世界の故郷の料理おにぎりを作ろうかと思いまして、でしたら是非一番美味しい水で、と」

「お前の気持ちはなんとなくわかるが、もうちょっと飛躍を少なくしてくれ」

「あはは、そうですね」


 エーリカは髪を結い上げてエプロンをした。

 可愛らしい。


「ではクラウス様はお仕事を続けてくださいね。あっ、ちょっと給湯室のお水もお借りしますね」


 エーリカは給湯室と生徒会室を行き来しながら、手際良く調理を始めた。


 少しばかりすると、穀物を煮て蒸した、白くふんわりとした食べ物が仕上がった。

 次に、三角形に形成された白い穀物の塊が大皿に少しずつ並んでいく。

 

「しかし生徒会の皆様が、こんなタイミングで忙殺されていて本当に残念です。土曜の午前ならお暇かと思っていたのに」

「オーギュストとハロルドは、一ヶ月後にある寮対抗のボートレースにひっぱりだされてしまったからな」


 毎年五月下旬から六月上旬の間に行われる恒例のボート競技会だ。

 このボートレースは、魔法・錬金術・異能などの使用が禁じられた、心と筋肉と技術の戦いと言われている。


 会場は学園から馬車で一時間以内の河川が毎年ランダムに選ばれる。

 学園内だけにとどまらず、学園外のリーンデース市民にも大いに人気のあるイベントである。


 ちなみに俺が今忙しいのは、河川や道路の使用許可や馬車の手配・各種人員配置に関する書類仕事のためである。


「まあ、大変ですのね」

「オーギュストが参加すれば士気が上がる。ハロルドはあの体格だから期待されたんだろう」


 オーギュストは去年はしらばっくれたが、今年は逃げられなかったのだと言う。

 いまだに体のダメージが残っているのに、無理をするのが奴らしいところだ。


 ハロルドは、体力・根性は十分だから心配はない。

 だがしかし、興味外の事柄には集中できない気質なのでうんざりしていることだろうな。


「学園の近隣で河川というとアルレスカ河かヴァルナリス河ですが、ではお二人は今頃どちらかの河に?」

「今年はヴァルナリス河の支流で本番のレースだが、練習は近場のクラトヌーヌ川だそうだ」

「五月上旬だからまだ川の水は冷たそうですね」

「まったくだ」

 

 落水するような事故はここ数年なかったらしいが、救助チームも必要じゃないか。

 失念していたが、こちらも申請しておくか。


「レースの距離はどの程度なんですか?」

「二キロほどだそうだ」

「うわあ、重労働じゃないですか。あっ、そういえば、クラウス様はボートレースは?」

「俺は船遊びに興味がない、というか川には悪い思い出が多くて、川辺の雰囲気が苦手だ」


 暗い水の中に漂うエーリカを何度見たことだろう。

 特にクラトヌーヌの川辺にはなるべく近寄りたくない。

 流れる水音に心が持っていかれそうになる。


「なるほど。確かに私もちょっと」


 エーリカも少しだけ顔を曇らせた。

 ベアトリス誘拐事件のせいか。

 いや、ドロレス・ウィントの世界を超える魔法で体験した、もう一人の自分の可能性か。

 あの千里眼の魔女は本当に酷なことをする。


「クラウス様、なんで西寮や南寮が今年はそんなに気合を入れているんでしょうね」

「六年連続で北寮が優勝しているから、どうしても阻止したいらしい」

「意地になってしまうのも仕方ないですね、でも北寮はとてもお強そうですし、仕方ない気もしますが」


 北の奴らが意地になるのには理由がある。

 あともう少しであの男が作った記録に追いつくわけだ。


「いや、西寮も強い。エドアルトの在籍時には西寮が七年連続勝利して伝説になっている」

「流石、お兄様……!」


 エドアルト在籍時のうち西寮が勝てなかったのは、例の人狼事件のあった前後くらいだ。


「まあ俺たちは気楽に見物にでも行こうか」

「ですね」


 世間話している間にも、エーリカは料理を仕上げていた。

 ノットリードの名産である青紋様の施された磁器の大皿三枚に、白と黒の食べ物が並ぶ。

 なかなかに壮観であった。


 とても二人で食べる量には見えなかったが、さっきからドアの隙間から俺たちを覗き見しながら揉めている幻獣たちのためでもあるのだろうな。

 優しいことだ。


「さて、出来上がりましたよ。クラウス様」


 エーリカは結い上げた髪をおろし、エプロンを取り外し畳んで革鞄に仕舞い込んだ。

 他の調理器具も既に洗浄済みで、乾燥済みだ。


「いつもながら、お前はなんでも手際がいいな」

「ありがとうございます。さあ、どうぞどうぞ」


 エーリカは、白磁の大皿と同じ意匠の茶器を並べていく。

 そうして俺たちは、いつの間にか異世界のお茶の香りに包まれていた。


「そうそう、二人ともなんでそんなところからこっちを覗いているの? 一緒に食べましょう」

「もうそこで二十分ほど揉めているが、どうした? ずっと小声でなにやら話していたようだが」


 ドアの隙間から覗き込んでいた小さな幻獣たちがビクっと震えた。


『うむ、いくぞ、猫!』

『ううっ、好奇心が! 無駄な好奇心が二人っきりの空間を全部台無しに! お前のせいよ!』

 

 猫がベシベシと音を立てて黒ゴーレムをどつきながらドアの影から現れた。


『なんだと! オレは、用事を済ませてエーリカの元に向うだけだが?』

『くっ、何を言ってもダメな奴にはダメね……』


 小さな黒ゴーレム姿の黒竜ティルナノグと、猫の姿の天使パリューグである。

 頻繁に争っているが、争いの内容は俺には計り知れぬことが多い。


「ティルとパリューグは、いつも仲良いわね」

「めちゃくちゃ肘突きあって見苦しく見えるが、お前がそう言うならそうなんだろうな」


 エーリカは満面の笑みを浮かべて手を広げた。


「さあ、どうぞ。稲という穀物の実を蒸し煮してふんわりと仕上げ、海苔という海藻の加工食品で包んだものです。このお皿のおにぎりには乾燥魚の薄片を大豆の醤と混ぜたオカカ、こちらには魚卵を塩と辛子に漬け込んでつくった辛子明太子、こちらにはバラ科の果実の塩漬けを天日干しした梅干しが具として入っています。そして一定期間日差しを遮って育成した茶葉から抽出したお茶。詳細に説明すると面妖な感じですが、食べてみればきっと美味しいかと!」


 エーリカは、一言も詰まることなく、立板に水とばかりに一気に説明を終えた。

 エドアルトも同様なのだが、西の人間は好きなことだと異常に饒舌になる。


「ふ」

「クラウス様、笑いを抑えなくて良いですよ」

「いや、まあな」


 ティルナノグとパリューグは、小さい体を飛躍させてテーブルの上に登った。


『では俺はメンタイコとやらをもらおう!』


 食い意地の張った古い竜が一番最初にかぶりついた。


『すこしピリッとするが味が深くて旨いぞ。もう三個ほど食べて良いか?』

「ええ、もちろんよ。気に入ってくれてよかった。好きに食べてね」


 エーリカは皿から少し離れて首を捻っている猫に、一つ摘んで小さめな皿に載せて差し出す。


「多分パリューグはこれがおすすめ」

『これ? 魚のねえ? オカカって言うの?』

「ええ」

 

 猫は訝しそうにクンクン匂いを嗅いでから、一口頬張る。


『あ、美味しいわ。聞いていたよりずっと』

「口にあったようでなによりだわ、パリューグ」

 

 エーリカは心から嬉しそうに微笑んでいた。

 さて、せっかくだし俺もいただくことにしよう。


「では俺はこれを」

「それは梅干しですよ。クラウス様、とても酸っぱいので注意して、少しずつ食べてくださいね」


 言われた時には遅く、俺はがぶりと食らいついていた。

 一瞬にして、ものすごい酸味が口内に広がる。

 もしかしてこれは危険物……か?


「……! ……!!!」

「だ、大丈夫ですか? クラウス様!?」


 激しい酸味に耐え、じっくりと噛み締める。

 酸味以外にも、ほどよい塩気に気が付く。

 そしてなにより穀物の甘味が際立ってきた。


「えっ、クラウス様、ちょっと目の端に涙が?」

「き、気にするな……ああ、そうか、この果実の酸味のおかげで穀物の甘味が際立つのか。うまいな」


 一瞬どうなることかと思ったが、とても美味しい。

 俺は静かに味を楽しんでいた。


「……こちらのお茶もどうぞ」

「ああ、助かる」


 薄緑色の茶が、口内の味を爽やかに洗い流していく。

 こちらが上質なのは、俺にだってわかるぞ。


 そうして、穏やかな昼食を楽しんでいると、騒がしい奴らが帰還してきた。


「あ〜〜〜、なんか食べてる。生徒会室を私用しまくってる! 羨ましい〜〜〜!」

「おっ、みんな揃ってるな」


 よろめくハロルド、そしてハロルドに肩を貸すオーギュストの登場である。

 なんだ、オーギュスト、思ったより元気じゃないか。

 ハロルドはなんだかボロボロで見る影もないが。


「お帰りなさい、オーギュスト様。ハロルド、すごく大変だったみたいね?」

「二人とも、労働ご苦労」


 エーリカと俺の挨拶をスルーして、ハロルドが目をつぶってクンクンと周りの匂いを嗅いだ。


「なんか見たことない食べ物だけど美味しそ……俺のも当然あるよね?? ないとか言わないよね?」

「どうどう、ハロルド。まずは落ち着こうぜー!」


 オーギュストはまずハロルドを椅子に座らせてから、自分も椅子に座った。

 エーリカは帰った来た二人に、さっきと同じ説明を高速で済ました。

 話を聞きながら頬杖をついていたオーギュストは、猫から耳打ちされてからオカカを選んだ。


「うん、私もこのオカカのおにぎり、好きかもしれない」


 猫を膝に乗せながら、オーギュストは一口一口よく味わいながら食べる。


 一方、ハロルドは説明を聞き終わると同時に、明太子とオカカの二つを交互に食べ始める行儀の悪さを見せていた。


「へえ〜〜〜、どっちもいいじゃん、これ。や、これ売れるわ! 特にメンタイコの方はバターとかチーズにもあうよね?」


 疲れ果てていたはずのハロルドは、目を輝かした。

 食べながら、エーリカから製法を聞き出してメモを取っている。


「二人とも今年は北寮に勝てそうですか?」


 いつの間にか食べて終えていたエーリカがお茶を嗜みながらオーギュストとハロルドに尋ねる。


「ううーん……俺はあ、西寮の明るい未来は見えないよ」

「ハロルド〜〜、やる前からそんなんじゃ勝てる勝負も勝てなくなるぜ。とはいえ、実のところ実力不足は否めないな。でも南もそろそろ勝っておかないとなんだよな。私が在籍中にせめて一勝はしたいところだぜ」


 この調子だと勝利は来年以降か。

 今年もきっと北寮の奴らがのさばるのだろうな。

 

 そんなことを考えながら、俺はもう一つバラ科の果実入りのおにぎりに手を伸ばしたのだった。



       ☆



「さて、クラウス様、というわけで少しだけお付き合いをお願いいたします」

「こちらが本題というわけか?」

「ドロレス・ウィントの福利厚生は良質なので、多少の用事なら構いませんよ」


 皆で和気藹々と昼下がりを過ごした後、俺はエーリカ達と連れ立ってリーンデースのとある丘に向かった。

 春が過ぎて初夏を迎える今、この地は緑に満ちていた。


「ここは狂王カインとエドアルトお兄さまの決戦の地となった場所です」

「だそうだな」 


 世界を陥れる吸血鬼の王が、ただの人間たちに敗北した場所。

 今はそんな事件があったとは思えないほどに長閑な様子だ。


「現状なにも魔力的な影響はない。つまり狂王の残した残滓みたいなものはカケラもない状態だ」

「ご確認ありがとうございます、クラウス様」


 エーリカは深々と頭を下げた。


「さて、今から六時間ほど前を過去視で確認していこうと思います」


 エーリカが短杖を取り出し、構えた。

 あの高価で希少な過去視(ウルズサイト)の杖だ。

 それをエーリカは、短杖拡張(ワンドオルタレーション)で俺たち全員を含むように範囲化して使った。


「では」


 丘に、白や紫の花で出来た大きな花束を抱えた人物が佇んでいるのが見える。

 クセのない髪質の金髪長髪、緑の瞳、だが顔立ちは見覚えのある人物には誰にも似ていなかった。

 不思議な違和感を残す美貌の人物。


「アウレリアの血統なんでしょうね、この人は」

「ぱっと見て男装の女性かと思ったが、華奢な体型の男か」

「ゴーレムかもしれないので、性別がない可能性もありますので……」


 祝祭派錬金術師の可能性か。


 その人物はふらふらと丘を彷徨い、地面を何度か確認して空を仰ぐ。

 そして、丘の端に生えていた背の低い木の根本に、その大きな花束を置いて行った。


「花束……?」

「あそこに置いて行ったようですね」


 俺たちはすぐさま、その木の場所へ向かう。

 低木の根本には確かに花束が存在していた。


 花束にはメッセージカートが一枚。

 繊細で華やかな筆跡で綴られた言葉は「我が友へ、約束は履行した」と。


「これを確認するのがドロレス・ウィントからの指令?」

「ええ」


 エーリカは花束に再びカードを戻した。 


「花束を置くとき、ボルツって言いましたよね。声は聞こえませんでしたが、唇の動きが」

「ボルツか」


 エーリカの母方の家名だ。

 戦争の英雄フレデリカ・ボルツ。夭折した天才オスヴァルト・ボルツ。


「可能性としては、残存吸血鬼よりは祝祭派か。何が目的だ?」

「ティルを狙っているかも……あとは私や兄でしょうか。困りますね。用心しなければ」


 吸血鬼の残党に狙われる可能性がまだ消えないうちに、祝祭派だと?

 賢者の石やボルツ家の末裔を狙って?


「もし……もしもティルにまた何かをしようとするなら、私は絶対許しませんし、本気出しますよ」


 エーリカは静かに空を睨んだ。


『くくっ、なあに、オレが返り討ちにしてやるまでだ』

『ああら、妾もお前の復讐の手伝いならやぶさかではないわ』


 いや。

 エーリカ達の手を煩わせるまでもない。

 俺が全て擦り潰すまでだ。


「今からでも捕獲するか?」


 俺はエーリカに問う。

 そして、長杖(スタッフ)をローブから取り出し、あたりの霊脈の状況を確認し、接続した。


「そんな簡単に捕獲できる相手でしょうか?」

「手段を選ばなければ、いくらでも可能だと思うが」

「でも捕獲するならば、相手をもう少し確かめてからのほうが良いかと思います。今回は偵察のみ指示されましたし」

 

 危険因子はすべて潰してしまおうと思ったが、エーリカがそう言うなら矛を収めようか。

 

「しかし……まだまだ油断は出来なさそうですね。覚悟はしていましたが、すこし怖いです」


 長いため息をついてからエーリカは空を眺めた。


「ずっと気を張り続けるのも苦痛だろう。俺が一生守るから多少は気を抜いてくれ」

「あはは、クラウス様にそう言っていだたけると安心ですね」


 エーリカが瞳を伏せて笑う。

 少しだけ強い風が吹いて、金色の髪が広がる。

 眩しさに、俺は目をわずかに細めた。


『……!!!!』

『落ち着け、猫。落ち着くのだ、両人が気がつくまで落ち着くのだぞ』

『もっと含みを持たせて言うとか! 自然に流さないとか! 誰か助けて!』


 足元にいた二人がまた騒いでいた。

 転がる猫を黒ゴーレムが蹴散らしている。


 何かがあったのか?

 幻獣のことは俺にはわからんままだ。


「あっ、もしかして、母フレデリカ・ボルツあるいは叔父のオスヴァルト・ボルツが生きていると誤解して、ここまで来たんでしょうか」


 少しだけ暗い雰囲気から一転、エーリカが急に大きな声を上げた。

 なるほど、そういう解釈か。


「可能性としてはありうるが、感覚がズレすぎてはいないか? なんというか間が抜け過ぎている」

「ですね。ちょっとお間抜けさんですよね」


 エーリカは少し困り気味の笑顔を浮かべた。

 二人がもうとっくに死んだことを知らずに、狂王消滅の件が広まったから会いにきたのか。

 約束の履行を伝えるためだけに?


「しかし祝祭派錬金術師か。きっとエドアルドが知りたがるな」


 そう言葉に出してから、ふと思い直す。

 あいつのことだ。

 もう既に南方大陸で祝祭派の錬金術師どもと一、いや二悶着くらいやらかしているか。


「はあ、お兄様、はやく南方大陸からお戻りなればいいのに……」

「まったくだな。さて俺たちも仲間を心配させないように、戻るとするか」

「はあい、クラウス様」


そして俺とエーリカ達は千里眼の魔女からの指令を終えて、その丘を去ったのだった。

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