二十一日目: 売られたら買うしかないじゃないか
Dear Diary,
新しいヒトとは馬が合わない。 むしろ絶賛戦争中だ。 諸君、私は戦争が好きだ。
以前、軍に居た人に教えを受けた事がある。 高校程度の数学だったが、彼はくわえて多くの事を教えてくれた。 ある日彼は言った、己の魂を捻じ曲げようとする輩相手なれば、武器を取り立ち上がるが人としての義務だ、と。 それは己の誇りを守る行為であり、曲がりなりにも人を自称するのであれば、種の存続の為にも発見次第、全力を持ちいて先陣を切らねばならない。 何故ならば、魂を殺そうとしてくるような者は、すでに鬼と。 人の天敵と成り果てているが故に、人と同じように接していれば此方が滅ぼされるのみ。 だからこそ、殺すべしと。
勿論私はその教えを心の奥底に刻み込んだ。 少し行き過ぎて、無理そうな場合はこの身燃やし尽くしてでも共に地獄に引きずり落とすべし、まで行ってしまったが概ね問題は起きていない。 基本冷静に証拠を集めてばら撒けば勝手に消えてくれるからだ。 その点においては元の世界は本当に良かった。 簡単に動画や写真が取れたし、音声なんて携帯ですら録音できるし、何よりそれらが破棄されないよう隠しておく手段なんていくらでもあった。 根回しだって五秒もあれば拡散も容易だった。
勿論やりすぎだと言う声も偶に浴びたが、此方は被害者なのだ。 しかも人生潰されかけたのだ。 托卵&乱交行為などを血族一同、友人知人全て、そして勤め先の上司や親しい方々全員に丁寧に焼き増し付けて教えてさし上げた事の何が、やり過ぎだと言うのだろう。 まず彼らは私の苦労と心労を重ん測るべきだと声高に主張させていただきたい。 一人はおんなじような事やっていたから他人事では無かったのだろうが、彼は話し合ったら分かってくれたので楽だった。
そんな風に生きてきた私だ、ご主人様の敵ともなれば、その不敬かつ魂ごと滅びるべき化物をそれの周囲諸共爆殺する。 ご主人様にこれ以上必要のない負荷をかけるような輩なんて絶対に世界にとって不利益でしか無いからだ。 逆に、どれだけ嫌いでうざくて消えて欲しくても、ご主人様にとって有益なヒトであるのならば。 新しいヒトのような方であるのなら、私は何も出来ない。 精々が侮蔑と見下しと差別に彩られた嫌味に対して出来るだけの語彙を駆使し反撃するのみだ。 そして恐らくこれは毎日続くだろう。 今日だけでさえつっきんつっきんと胃が痛いっていうのに、このまま行くと多分また胃に穴が空くだろう。 悪意に晒されるとさすがに怖いのだから。 手の震えや息の乱れが気づかれてないことを祈ろう。
さらにあれは、ご主人様を筆頭とする皆の前ではそれはもう可愛らしく従順でイノセントな新人を気取っている。 その勢いで二人っきりになるととたんに態度が豹変するのだ。 その気持ち悪い声帯をちぎり取って喉に詰めて窒息死させてやりたい。 しかし何が一番苛立つかというと、朝食どころか本当に二人っきりで過ごせていた夜の時間に割り込んできた事だろう。 仕事に不慣れで助けがいる、という風を装って。 そうしたらご主人様は上司として教えない訳にはいかず、しかもそこそこの量持ってきやがったので私が根負けするはめになった。 死ね。
しかしまあ、こうなってくると己の無力さが恨めしい。 礼儀作法その他諸々ならば基本は元から知っていたし叩きこまれた。 元の世界に居た頃必要にかられて覚えた権謀術数の手法もある。 しかし純粋なる力となってくれば、非力な事この上ない。
そういえば、人間はどんな魔術を使っているのだろうかね私の日記。 要検討。
今日は撫でてもくれなかったし抱きしめてもくれなかった。 忙しかったのは間近で見ているが、無いとなると酷く寂しい。 今日までは最低一回はどちらかをやってくれていたのに。 マジで滅びてくれないかなあいつ。
この間街に行った時に変な奴に会ったな、そういえば。 魔術の適正を見てくれるなら、使えるのも教えてくれるかもしれない。 その時は逃げてしまったけれども、ごめんなさいすれば許してくれるかもしれない。 行ってみる価値はありそうだ。
というか、当時の私は会話も残していたのか。 すっかり忘れていた。 またやってみようかな。
では私の日記、おやすみなさい。 良い夢を。
ご主人様「……」(難しい顔)
紙メンタルの攻撃性が出てきていますね。
ご主人様に構ってもらえないのもいっそう不安定にしています。
おっさんがこれからどうなるかは、ご主人様の手腕に掛かっています。
乞うご期待。
追記:この話が始まった事で、終わりが見えてきました。
着地点も乞うご期待。