2「お掃除」
2話です。
1話で殺されそうになった翌日にあたります。
「ーーめちゃくちゃ汚いな」
彼の住む豪邸はあまりにも広大で、当然1人では管理しきれない。そのために彼はメイドを数人雇い、管理をさせている。そのうちの1人がユヅキだ。
そんな彼だが、今は長らく使っていない一室にいた。その部屋は他とは異なり少々小さく、使い勝手が悪かった為に、使わなくなったものなどが適当に放り込まれてしまった、所謂物置部屋のような役割になっていた。
彼の性格上、あまり片付けが得意ではなく、その上何かと後に引き伸ばしがちであり、その結果、物置部屋が孤独死してしまったニート部屋のような異常な汚さを誇っていた。
「ユヅキー!ちょーっと来てくれー」
『ご主人様。此処にいます。どのような御用件でありましょうか』
せっかくメイドを雇っているのだ。複数人いるメイドの中で一番歴が長く、一番優秀な、もはやメイド長のような立ち位置にあるユヅキを呼んだが、コンマ1秒もしない間に、最後に現れ、いつもの礼儀正しい言葉遣いと、淡々と話す態度で返事をしてきた。
「うぉっ!?マジでいつも速いなっ!」
こればっかしはご主人である彼も慣れない。今まで雇ってきたメイドの中でダントツで優秀な彼女は、テレポートでも使っているのではないかと思わせるレベルで瞬足でかけつけてくる。
彼女が料理をしている時も、洗濯をしている時も、真夜中の寝静まった時もーーお風呂に入っている時でさえも、呼べば気づいたらすぐ近くに来るのだ。
「あ、でそうだ。この部屋。片付けたいんだ。他のメイドたちも使っていいからみんなで片付けないか?」
それを聞いたユヅキはいつもと同じような、ゴミを見るような目で彼の顔を見つめてきた。いつもと変わりのない顔ではあるものの、いつも変なご主人様が珍しく当たり前の指示を飛ばしてきたことに驚いているように見える。
そして、彼女は片付けてくれと言われた部屋を見る。確かに汚い。だがかなり高級な花瓶やら彫刻品といった、雑に片付ければ場合によってはさらに状況を悪化させ、その上これほどまで高級な代物を破損しかねない。
片付けとあれば此処にいるメイド全員が出来る。だからこそ一番丁寧に、速く仕事が出来るユヅキという人選なんだろう。
『かしこまりました。2時間以内完了いたします。ご主人様はその間、どちらへ?』
「2時間!?やはりユヅキはいつも仕事が早く片付くなぁ〜!」
「あ、オレは面接をしているよ。前にメイドの新規雇用を募集したことがあっただろう?大体10人ほど集まってな、今からその子達の選別をしてくるよ」
彼は頭の後ろをポリポリと掻きながらこの後の予定を伝える。彼のことだ、面接といっても可愛いかそうじゃないかで採用かどうかがすぐ決まるのだから2時間も必要ない。おそらく30分あれば終わってしまうだろう。
それを聞いた彼女は人差し指を頬に当て、目線を斜め上に向けている。
ユヅキが何かを思い出したり、考えたらする時にそのようなことをする癖がある。そして何かを思い出したかのように彼女は彼にいう。
『……確かにそのような試みがありましたね』
『ーーカワイソウ』
「ん、?今可哀想って言ったよね?ねえどゆこと??ら何可哀想って!」
確かに聞こえた。彼女は今「可哀想」と口にした。早口で、尚且つ独り言のように言っていたが、確かに彼女はそういったのだ。
その言葉を聞き捨てならないといった具合に、彼が問い詰める。
『ご主人様の空耳です。もう、開始してもよろしいですか?』
彼女は相当肝が座っている。彼の気のせいだと、真っ向から否定する。いつものことだ。だがその程度で怒りに飲み込まれたりとしないのが彼だ。
其処が、メイドとご主人の間に存在する壁が立っていない理由でもあるだろう。
彼女たちメイドは、変で、変態で、頭のおかしい主人様だと共通の認識を持ってはいるものの、働きやすい環境であるとも、思っている。
「あ、あぁ…じゃあよろしく頼むよ」
「いやぁ〜絶対言ったと思うんだけどなぁ」
彼はとりあえず彼女に作業開始の指示を出すと、踵を返し、部屋を離れる。離れながらも、彼はやはり自分の空耳ではないということをボサボサと言っていた。
ジャスト2時間が経ち、面接も早々終わっていた彼は自分の書斎で、書類を書いていた。静寂な書斎の空気を壊すように、コンコンと、扉のノックが聞こえて来た。
『ご主人様。部屋のお掃除が9割程、完了いたしました。ご確認ください』
「はいはーいありがとなぁー!」
その後に聞こえて来たのはいつものユヅキの声だ。彼は椅子から立ち上がり、彼女と共に片付けを命じた部屋まで向かう。
部屋につき、扉を開けると彼女のいう通りものすごく綺麗になっていた。おそらくこの屋敷の中で一番綺麗とまでいっても過言ではないだろう。
しかし、彼には少し気掛かりがあった。其れを言葉として部屋に入りながら彼女に問いかける。
「そういや、9割といったよね?残りの1割はどうしーーー」
彼が入口で振り返り、彼女の顔を見て残りの1割はどうするのか、と聞こうとした刹那ーー頭上から槍が降ってきた。
無論、避けようがないため、彼の脳天を見事に貫いていた。それを見た彼女は少々口角をあげ、淡々と返事をする
『ーーたった今、残りが終わりました』
そういうと、致命傷に匹敵する損害を負わされている彼を放置して踵を返し、洗濯物を取り込みにいった。そう。最後の1割はーー彼だったのだ。
「ちょ、せっかく綺麗にしたのになんで汚くすんのぉぉ〜!?!?」
彼は槍を抜き、噴水の如く溢れ出る血を止めようと手で頭を押さえながら、離れていく彼女の背中に向かってそう叫んだ。
『ご主人様が昨日素直に死んでればよかったんですよばーーーか!』
彼の言葉を聞いた彼女は振り返り、そう吐き捨て廊下を走っていった。
2話、読んでいただきありがとうございます
続く3話をお待ちください。




