表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/5

3「お買い物」

3話目です。ぜひ読んでください。


『………足りない』


 豪邸の、それまた豪華なキッチンの、それまた巨大な冷蔵庫の扉を開け、座り込んで何かを確認しているユヅキが、食材が足りないことに気がついた。

 どうやら今日の夜ご飯で出される予定の食材の一つが不足しているようだ。だが幸いなことに今は朝方ーー今から買い出しに行けば問題はない。


「おや?何か足りないのかな?」


 まだ朝の早い方で、キッチンから物音がしたために書斎で書類整理をしていた彼が様子を見に来ていた。そして、冷蔵庫の前で材料の書かれたレシピの紙を確認しながら独り言を呟いたのを聞いていた。


 その様子を見た彼が彼女に話しかけ、彼女は彼の顔を見てその質問の返答をする。


『はい。ドラゴンの肉が不足していますので、ギガント山に調達に行く必要があります』


 〝ドラゴン〟ーーこの世界において上位種族である一方食品としての価値も高く、市場に出回っているものはかなり高価なため、彼の家では直接狩ることになっている。

 1回の狩りで半年分のドラゴン肉の貯蔵が出来るが、その貯蔵がなくなった次第である。


「なるほど。ドラゴンはかなり強い種族の部類だからかなり大変なお買い物になると思うけどーー」


『問題ありません。私1人で十分です』


「いやーーオレもついていこう!君のことを守ってあげr」


『いえ、問題ありません』


「そう言わずにオレが守r」


『ーーご主人様。問題ありません。てかしつこい。死ね』


「酷くない!?キミ、オレのメイドだよね!?」


 あまりのしつこさに彼女は明らかに怒っている。声を荒げているわけではないが、ゴミを見るような目で彼を見ながら淡々と言っている。

 然し、彼にも引かない理由がある。


 というのも、ドラゴンという生き物は彼が言った通りかなり強く、並の冒険者ならば眼力のみで気絶させてしまうほどの迫力を持つ。

 いくら彼女であっても、油断すれば負けてしまう可能性もある上、そもそも勝てる保証がない。


 一方ーー彼は不老不死に転生してから数百年もの間、様々な種族の生物と拳を交えている。そのためこの世界では、それなりの実力を持っている。

 ーーその実力を、彼女は未だ知らない。その上、慢心がある。


「オレは君を信じてないわけじゃないーー!」


「大切なメイドーーそして好きな人にリスクあるお買い物を1人で任せるわけにはいかないだろ!」


 彼は真剣な眼差しをユヅキに見せ、彼がいうことの本気を伝える。彼にとってメイドとはただ奉仕してくれる人ではなく、同じ時間を過ごし、喜怒哀楽を共有し、人生を楽しく彩る家族のような存在ーーユヅキに限らず、全メイドに対して共通に思っている。


 ーー故に、彼を慕うメイドは多い。


 にも関わらず、彼女だけは彼を殺そうとしている。


『ーーそ、そこまでおっしゃるなら…』


 流石に真面目にそう語る彼を彼女は冷酷に切り捨て殺すことはできない。彼女は少々気恥ずかしながら頬を手の指でかきながら渋々承諾する。彼女は少々押しに弱いところがあり、彼を信頼している節もあるーーただ好意とは別だが


「では行こう!!久々の狩りだな!!」


 意気揚々と意気込む彼を見て、彼女が見えないように微笑んだのを彼は知らない。



 ◆◇◆◇



「うお!ユヅキ見てくれ!!此処に大きなアリの巣があるわ!」


『興味ありません。置いていきますよ』


「そう堅いこと言わないで見てよ!』


 彼らはギガント山へ向かう道中、巨大なアリの巣の入り口を見つけた。それをユヅキにも見せようと声をかけるも無論興味はなし。早く狩りを済ませて残っている仕事を済まさねばならないのにこんなところで道草を食っている暇はないのだ。彼に置いていくと忠告してもなお、アリの巣に夢中な子供っぽいご主人様に彼女は呆れながら彼を置いて先に向かい始める。



 ◆◇◆◇



『くっーーー』

 

 あれからしばらく歩き、後ろを見ても彼の姿なんぞどこにも見当たらないほど離れてしまっているほど、深く山に入っていったが、そこで目的のドラゴンと遭遇ーー今、交戦中だ。

 とはいっても戦況は明らかに最悪。ご自慢のスピードも木々が生い茂るこの地帯では思うように加速できない。そのうえ、攻撃を与えたとしても効いているようにも思えないほど頑丈な皮膚。


『しまーーーっ!!』


 ドラゴンの尾を振り回す攻撃ーーおそらく木々が生い茂っているせいか、彼女を観測できないために薙ぎ倒そうとした意図があるのだろう。無論彼女はその範囲外から逃げんと、走り出すもーー泥を踏みつけ、転んでしまった。

 迫り来る図太い丸太のような尾。ピンチとはこのような状況を言うのだろう。


『あ゛がっーーー!』


 ドラゴンの尾が彼女の胴を捉え、そのまま振り抜かれる。彼女は物凄い速度で吹き飛ばされ、木々を抜け、巨大な崖の岩肌にその身を叩きつけられる。壁にめり込まんとす豪快な吹き飛びで、受け身も取れず、もろに叩きつけられたことで、肋骨は折れ、完全に無力化されてしまった。

 激しい痛みが彼女を襲う中、次なるドラゴンの一撃が繰り出されようとしていた。巨大に開かれた口ーー集ま練られる魔力は、高エネルギー出力の光線を放たんと、ためられている。


『や、、、やばーーっ』


「ーーー絶対防壁(シールド)


 ドラゴンの口から光線が放射される。死の間際、彼女が目を閉じた途端、聞き覚えのある声が見えない視野の前から聞こえてきたのを彼女は恐る恐る目を見開く。


 目の前に立つのはーーご主人たる彼。手をドラゴンのほうへ翳し、紫色の結界のようなものは張っている。それが光線を完璧に堰き止めているのだ。絶望に差し込んだ一筋の光を見て、彼が吐いた啖呵をきく。


「オレの好きな子に何してんだ。おまえ」


 立ち上る白煙の中、見えなくなった標的に向かってそう叫ぶのをきいて、彼女の意識は深い闇に落ちた。



 ◆◇◆◇



『ーーーん、、』


 彼女が目を覚ますと、知っている温もりを、意識的に感じ取る。ユヅキは彼におぶられており、彼女の声に気づいた彼が、彼女に労いの言葉をかける。


「お疲れ様だね。ドラゴンは倒したといたさ!今は帰り道だよ。あと、回復魔法もかけといたから大丈夫だとは思うよ」


「ドラゴンの肉も多少は持って帰ってきた」


 あの恐ろしいドラゴンを倒したのは自分だと、彼が言ったのをきいて、彼女は少々信じられなかった。それに魔法らしき力で肉も空中に浮かし、運んでいる。

 少し考え事をし始める中、彼がその空気を壊すようにワクワクしながら聞いてきた。


「なあなあ!オレ、かっこよかっただろ!?ユヅキが見てると思うと張り切っちゃってなーーめちゃくちゃ強い魔法も使っちゃったよー!いやーユヅキも惚れちゃうかなーー」


 かっこよかったか、と問われるも当の本人は戦っているところは、気絶していたが故に見ることなんてできない。其れでも、


『ーーはい。かっこよかったと思います。ですがご主人様に惚れるわけありません。勘違いしないでください』


 彼女は知っている。彼が期待している答えがこれだと言うことを。褒めて欲しいーーだけど普段から簡単に殺してくるような女性が簡単に惚れるわけない、と。此処で惚れたと嘘でもつけば其れこそ彼を不快にしてしまうかもしれない。いわゆる蛙化と言うやつだろうか。

 

 ただーー助けてもらったあの瞬間、微かにかっこいいと思ったのは本当である。


「おいーーー普通惚れるだろ!」


『其れよりーーいつまでお尻を揉んでるんですか!!!』


 彼女はせっかく助けてもらったので少しは黙っておこうと思ったが流石にこれ以上は許容できないといった具合に彼女は我慢の限界に達していた。そう、彼はおぶっている最中、彼女のお尻をいやらしく触っていたのだ。


「い、いやこれは誤解でーーー」


 ゴギッーー


 彼が弁明をはじめようとした途端、首の骨が折れる音がする。彼女が彼の首をへし折ったのだ。意思とは無関係に体が軸を失い崩れ落ちる。その間に彼女は華麗に脱出し、彼の魔法が切れたことで空中にあった肉が落下するが、彼女が受け止める。


『変態ですキモイです。そのまま死んでください!』


 彼女は悪口のオンパレードを吐き捨てると、倒れる彼をよそに振り返ることなく歩みを進める。


「ちょ、ちゃんとラップしてから保存してよぉぉぉぉぉぉ!!」


 その後ろ姿を眺めている。彼はかっこいいところを見せたのに今日も無理だったのだった。



3話、読んでいただきありがとうございました。


4話目は新人メイドの登場です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ