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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case5:ランドール-ざぁこざぁ~こ♡ざこ勇者♡
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#5

 事前に知らされていた通り、僕が出現したのは小高い丘の頂に近い場所で、背後にはアーチ状の建造物がそびえ立っていた。おそらくこれが異世界から勇者を召喚するために使われる施設か遺跡か……ともあれ、そう言う類いのものなのだろう。


 視線を丘の麓へ向けると、比較的大きな城塞都市が目に入った。しかし都市の規模と比較すると灯火の数は少ない。

 ……それもそうか。僕がいる丘からみて、都市を挟んだ反対側に広がる平原には野営を行っているとおぼしき篝火が無数に見えている。肉眼ではは詳しい陣容までは見て取れないけど、数千……いや1万に近い軍勢だろうか。

 確かに都市近くまであんな軍勢が迫っていれば、城塞都市の住人達も灯りを消して息を潜めるか、それとも逃げられるなら余所へ逃げ出していてもおかしくはないだろう。


 辺りの様子を見ながら、そんな事を考えていると……不意に近くからカチャリという金属音が聞こえた。この音は……甲冑の金具がふれあう音だろうか?

 無人だと思ったこの場所に誰かが潜んでいたのかと身構える僕に、背後から場違いな明るい声で語りかけて来た者がいた。


「あれれ~、お兄さんこんなところで何してるの~?もしかして、不審者さん?……なんて言っても伝わらないか……」

「……え?」


 僕はまだ「言語習得(ローカライズ)」を使っていない。いや、そもそもまだ誰とも対面していないのだから、それは当然だけど……今、僕に掛けられた言葉は日本語だった。

 もしかしてこの世界もまた、虹と永遠の世界のように日本語が通用する異世界なんだろうか?

 そんな事を思いながら振り向いた僕の前にいたのは……背の低い女の子だった。彼女の髪色は薄暗がりの中でも目立つ赤色で……間違いない、彼女は二階堂リコだ!


「えっと、君は……二階堂リコさん、で合ってるかな?」

「え?日本語?それにどうしてリコの名前知ってるの!?本物の不審者!?それともストーカー!?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなり現れてこんな話をしている時点で怪しく思うのは理解出来るけど、ストーカーとかじゃない。僕の名前はユート。如月悠斗だ。君を連れ戻すために、日本から来たエージェントだよ」

「え……?リコ、日本に帰れるの?だって王さまは魔王を倒すまで帰れないって……」


 外見的にも、話の内容的にも、彼女が今回のターゲットである二階堂リコ本人である事は間違いないだろう。なら「言語習得(ローカライズ)」なしで会話が成立するのも当然だ。

 異世界へ転移した直後にターゲットに接触できるとはラッキーだったけど……問題はリコの格好だ。


 彼女が身につけているのは活動的な女の子らしい、丈の短いチビTとでも呼ぶべきプリントシャツと、デニムのショートパンツだ。

 その服装そのものは初夏の日本で身につけていたであろう服装として不自然ではないのだけど……問題は彼女が日本風の衣装の上から、小柄な彼女には全く似つかわしくない部分鎧を身につけているということだ。


 山羊の文様が描かれた漆黒の半身胸当て(ハーフプレート)と、角のような鋭利な装飾が施された籠手(ガントレット)。そして、太腿から爪先までを固める重厚な脚甲(グリーヴ)を身に纏った姿はどうみても戦士のそれだ。

 つまりこの装備は、彼女が既に「勇者」として戦場に立っているであろうことを意味していた。


「えっと……リコさんは勇者、であってるのかな?」

「お兄さん、リコさんはやめて。ママに呼ばれてるみたいでイヤ」

「じゃあ……リコちゃん?」

「それも子供っぽいからイヤ」

「……じゃあ、リコ?」

「いきなり呼び捨てとか、きも~い♡」


 ……いや、どうすればいいんだ。日頃志織を相手にしていることで女子高生との会話には慣れてきたけど、さすがに小学生女子との会話は僕の手に余る。

 いきなりリコを発見できたことは僥倖だったけど、状況が全く読めないという点から考えれば、むしろこの邂逅は悪条件のようにも思えてきた。


「まぁ、日本人のよしみでリコでいいよ、お兄さん♡」

「それはどうも。で、その格好からすると、リコは勇者をやってるのかい?」

「そうだよ。ここの人達、よわよわだからリコが助けてあげてるんだ~」


 リコが無邪気に発した言葉に僕は頭が痛くなった。どうみても小柄で非力な彼女が現地人よりも高い戦闘能力を発揮しているのだとしたら、それはチート能力由来であることに疑いの余地はないから。


 そして先ほどの言葉から察するに、リコはこの世界で勇者として振る舞うことを楽しんでいる気配がある。それもそうだろう。現実世界の彼女は実の母親に疎まれ、孤独な生活を送っていたのだから。

 そんな彼女にチート能力を封印し、今の充実した生活を放棄しろと求めるのは……以前僕が説得に失敗した町田サキと同じか、それ以上に難易度の高い説得になるだろう。

 けど、それでもだ。僕はリコを説得しないといけないんだ。


「リコ、大事な話があるんだけど聞いてくれるかい?」

「……お兄さん、目が怖いよ?もしかしてリコに告白するつもり?あ、ロリコンさんだったりして~♡」

「……いや、僕は婚約者がいるから、恋愛的な意味でも性的な意味でも君に興味はないよ」

「うわぁ~、子供相手にマジになっててキモ~い!」


 リコと話しているだけで疲れてくる。こういう言動を何というのだっけ……そう、そういえば太郎が言っていたっけ。そっち(エロ)方面のキャラクターで「メスガキ」というのが人気だそうだけど、リコの言動はまさにメスガキそのものだ。

 ……そのことに気付いた僕は脱力感を覚えながら口を開く。


「ともかく、大事な話なんだ。君がこの世界に来たときに女神からチート能力を貰っただろう?その力を使うことで、元の世界……つまり日本や地球が持っている活力がこの世界に奪われてしまうんだ」

「ふーん」

「結果として異世界へ召喚された人達がチート能力を使うと僕達の世界が滅びに近づいてしまう。だから僕のようなエージェントが異世界へ攫われた人達を連れ戻しているんだ」

「それって、他にもリコみたいな人がいるってこと?そーいえば前の勇者がどうとかって、王さまも言ってたっけ……」


 どうやらリコは幼いながらも頭の回転は早い方のようだ。少なくとも僕が示唆した他の異世界転移者の存在に気付いたようだし。

 「前の勇者」なる人物については少し気がかりだけど……僕がまず確認すべきはリコがどのようなチートを与えられ、その使用を思いとどまれるかどうかということだ。


「それで、リコはどんなチート能力を貰ったんだい?」

「……秘密」

「教えて貰えないと困るんだけど……じゃあ、質問を変えようか。リコは勇者をするためにその力を使ってるだろう?その力を使うのを止めてくれないかな?」


 僕の言葉にリコは一瞬、きょとんとした表情を浮かべたけど……何度か目を瞬たかせてから、言った。


「リコ、チートなんて使ってないよ?へ」

「え?でも勇者として戦ってるんだろう?いや、まだ戦ってないってことかい?」

「ううん。ざこモンスターならもう何回も倒したよ」


 あっけらかんと言うリコに嘘をついている様子はないけど、武装しているとは言え華奢なリコの肢体で魔物を倒せるとは到底思えない。

 そう考えた僕はある事に思い当たり、ストレージから探知の水晶(ディテクトクリスタル)を取り出した。


 リコ本人がチート能力を使っているのでなければ、彼女が魔物と戦える理由の可能性は一つ。志織の時と同じように、女神が与えたアイテムによって付与されるチート能力が発揮されているパターンだ。

 実際、リコが身につけている部分鎧は華奢な子供が着用して歩き回れるような重量には見えないから、魔法の防具であることはほぼ確実だ。

 さらに高い可能性として、この防具こそが女神由来のチート防具ではないかと僕は考えた訳だ。


 けど、僕のストレージに反応して一瞬だけ輝いた探知の水晶(ディテクトクリスタル)から揺らぐように輝きが消えてゆく。つまりリコが身につけている鎧はリソースを発散させていない……?


「どういうことなんだ……?」

「なんのこと?っていうかお兄さん、何それ」

「ああ、これは君がチート能力を使っているかどうかを確認出来るアイテムだよ」


 僕がそう言うと、リコの表情が急に険しくなった。……僕は何か不味いことを言ったのだろうか?


「なんだ、お兄さんも先生とかと一緒なんだね。リコの言葉なんか信じないってことだよね」

「これは確認のために……いや、違うな。ごめん、リコ。君の言葉を疑ってしまった。けどこれはとても大切なことなんだ。僕が君を日本へ連れて帰るためには、君がチートを使っていないという証拠が必要なんだ」


 不機嫌そうな表情でこちらを睨んでいたリコだったけど、僕が謝罪したことで少しだけ機嫌を直したように見えた。


「……そうなんだ。でも、どっちにしてもリコはまだ帰れないから」

「ここの王が何かを言ったとしても、それは関係無いよ。僕は君を日本に連れて帰ることが出来るからね」

「うーん、そういうことじゃないんだけど……。とにかく、リコはまだ帰れないから!お兄さん、リコを連れて帰りたいならしばらく待ってて」

「帰れない理由を聞いてもいいかい?」


 僕の問いに、リコは悪い笑みを浮かべて言った。


「そんなの、決まってるじゃない。リコがざこ魔王を倒すんだから♡」


 それは最悪の答えだった。リコの装備が女神に与えられたチート品でないなら、彼女が魔物と渡り合うには戦技系のチートを使うしかない。

 にもかかわらずリコはチートを使っていないと言っているわけで……それはかつて僕が殺害した斉藤君のケースと同じ、虚言を弄していると言うことに他ならない。もしリコが僕に偽ってチートを使うのだとしたら、それは説得を行う以前の問題で、僕はリコを「信用できない転移者」だと判断せざるをを得ないということだ。

 それが意味することは一つ。僕は目の前の女の子を殺すことになる。


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