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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case5:ランドール-ざぁこざぁ~こ♡ざこ勇者♡
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#4

 リコが失踪したことが判明したのは6日前の事。2週間の海外公務から帰宅した母親の二階堂静香が自宅にリコがいない事に気付き、タワーマンションの管理人に問い合わせたところ、リコは母親が帰宅する13日前に自宅へ帰ってから一度も外出していないという報告を受けたそうだ。

 本来ならそんなに長い間学校を休んでいれば親元に確認がいくところだろうけど、リコが欠席しはじめてすぐに小学校は夏休みに入ってしまい、また親が親であることから学校側も欠席を見て見ぬ振りをしたことで、結果としてリコの失踪発覚が遅れることになったらしい。


 自宅にはリコが1日分だけ食事をとった形跡だけが残されていて、何者かが侵入したり、荒らされたりしたような痕跡は残されていなかった。それゆえに母親は当初、リコが自分に対する当てつけとして家出でもしたのだと考えたらしい。

 しかしリコに対して行った連絡に返答が無いばかりか、自室に充電されたままの状態で放置されていたスマホを発見し、何かがおかしいと気付いたのだそうだ。


「子供に興味が無いとはいえ……いえ、それだからこそ、二階堂企画官は体面を重視しようと思ったのでしょうね。当初は人を使って内密に調査を行っていたみたいだけど、さすがに子供の失踪がスキャンダルに繋がりかねないと考えたようね。遅ればせながら一昨日から公開捜査に踏み切ったようだけど……その際に外務省の上層部にも連絡が行って、そこから案件の可能性ありという報告が総合学部(うち)に寄せられたの」

「……外務省にも協力者がいるんですね」

「ええ。大臣は時々替わってしまうから情報は開示できないけど、事務方のトップは案件のことを把握しているわ」


 僕の疑問に榊会長はそう答えてくれた。そうか、外務省にも総合学部の協力者がいるのか……。僕はその説明に納得したのだけど、隣に座っていた志織はそうではなかったようで、僕の脇腹を肘で突いてから不満げな声で言った。


「ユートさん、気にするところ間違ってますよ。榊サン、その母親って娘の事よりも自分の保身しか考えてないってことですよね?」

「……ええ、おそらくそうでしょうね」

「そんなのおかしいです!人としてどうかと思います!」


 確かに志織の言うとおりだ。二階堂静香のとった行動はリコがいなくなったという非常事態に対するものとしては異常なもので、娘の心配よりも先に自分がスキャンダルに巻き込まれないかどうかを心配しているようにしか思えない。

 その態度は娘に対して愛情どころか関心すら抱いていないという事に他ならず、おそらくそんな母親の態度はリコにも自然と伝わっていたことだろう。


 母親の態度を思えばリコの側も現実世界や家族に対して帰還を望むほどの愛着を抱いているとは到底思えないとことは明白で、それが意味するのは帰還を拒んだリコを僕が殺すことになるという、最悪の結果だ。


「……ユートさん。リコちゃん、なんとかして助けてあげられませんか?」

「僕だって彼女を殺したいなんて欠片も思ってないよ。でも、彼女が帰還を拒むのなら……殺さざるを得ない」

「高坂さん。残念だけど今私達が持っている情報では二階堂リコさんが帰還を選ぶ可能性は極めて低いと言わざるを得ないわ。だからこそ……私は如月君にこの案件を依頼したいの。かつて貴女を無事に帰還させた、如月君に」


 榊会長は真剣な眼差しで僕を見ながらそう言う。

 そう言えば志織の時もそうだった。両親と視力を事故で失い、現実世界に何も残されていなかった志織を僕が連れ戻せたのはある意味奇跡だったとも言える。

 なら……榊会長がそんな奇跡をもう一度と願うのも、無理はないのかもしれない。


「悠斗。私からもいい?」

「ああ、なんだい?」

「私は第三夫人までなら許容できる」

「……えっと?」

「ユートさん!ロリコンはNGですけど、妹的な立場なら私も許します!」

「……それって二階堂リコを連れ戻して、うちに住まわせるってこと?」

「はい!こんな母親のところへなんて戻せませんから!」


 どうやら麗奈も志織も、僕が二階堂リコを連れ戻すことを固く信じているようだ。僕にこの大役が務まるのかどうかは判らないけど……少しでも勝算があるのなら、引き受けるべきだろうか。



「自宅の状況から彼女が異世界へ召喚されたとおぼしきタイミングは19日前よ。召喚先の時流係数は1.45だそうだから、現地時間でも既に28日近くが経過していることになるわ」

「なるほど。それで、召喚先はどんな状況なんですか?」

「実はあまり好ましい状況ではないようなの。八咫鏡に映る光景は小高い丘からの展望だけど、大きな都市と、その近くに展開している軍勢のようなものが見えるの」

「軍勢、ですか……?」

「ええ。分析官の言葉によれば、人間の軍勢ではなく魔物の軍勢である可能性が高いそうよ」


 人ならざる軍勢が都市近郊に展開している……その状況はまるで魔王軍が人類の拠点を攻撃しているように思えた。いや、むしろそう言う状況だからこそ、その異世界は「勇者」を必要としているのか。


 ……そんな危機的な状況で召喚されたのが小学生の少女だったというのは、皮肉としか言いようがない。

 彼女がどんなチート能力を得ているのかは判らないけど、小さな女の子が戦場で魔王軍と対等に戦えるとは、到底思えないから。


「最悪の場合、二階堂リコを眠らせるなり拘束するなりして強制的に帰還させて、説得は現実世界(こちら)で行うことを許可して貰えませんか?もしその軍勢が魔王軍だとしたら、現地で悠長に説得している時間が取れないかもしれません」

「……わかったわ。でも、もし彼女が説得に応じない場合は……」

「そのときは責任をもって、僕が彼女を殺します」

「悠斗!」「ユートさん!」

「大丈夫だよ、麗奈、志織。僕はこれまでにも転移者を何人も殺している。……今さらだよ」


 相手が誰であれ……そう、不幸な生い立ちの幼い少女であったとしても。僕は世界を滅びから救うためであれば、躊躇いなく殺すことができる。

 いや、殺さないといけないんだ。それが僕に課せられた贖罪なのだから。



 勇者を必要とする状況が八咫鏡に映り込んでいる以上、状況的に見て勇者召喚された二階堂リコが召喚地点の近くにいる可能性は高いだろう。

 そう考えると今回は彼女を見つけるということよりも、見つけた後にどう説得するかが問題になる。


 けど残念ながら事前情報からは僕がリコを説得できそうなカードは一枚も見つけることが出来ず、仮に僕に出来る事があるとすればリコと仲良くなって、信用させる……という、回りくどい方法しか残されていないように思えた。


 けど、もしリコが強力なチート能力を行使しているのだとしたら、時間を掛けて絆を育むという方法はとり辛い。

 要するに……麗奈や志織には言えないけど、場合によっては現地でリコに遭遇して、すぐに殺害という判断を下さざるを得ない可能性もかなり高いだろうと僕は考えている。



 それでも結局、僕は二階堂リコを狩る任務を引き受けることにした。リコの事を知ってしまった以上、誰かに彼女を託すのではなく……僕自身が関わるべきだと思ったからだ。

 中途半端な関与ではなく、関わるなら最後まで。それは僕が志織にプロポーズした時に決意した、僕が自分を律するためのルールだから。


「ユートさん、今回材料がちゃんと揃わなくてポーションは体力回復のものを2本しか作れてないんですけど、大丈夫ですか?状態異常回復のはこの前使っちゃったんですよね?」

「魔物の軍勢がいるとはいえ、僕が正面切って戦う訳じゃないからね。むしろポーションを使わずにすむように立ち回るよ」

「あとですね……実は今回のポーション、かなり苦くて」

「……じゃあ、なおさら使わない立ち回りを心がけるよ」


 眉をしかめて説明している志織の表情を見ているだけで、ポーションの味がとんでもないものである事が薄々察せられる。けど回復ポーションを使うとしたら緊急事態だろうから、その際には味がどうとかは言っていられないだろう。


「ユート、バイクはどうする?燃料満タンで携行缶も用意した」

「んー、今回は遠出する必要はないと思うけど……念のため持って行こうか。総合学部に置いておいても邪魔になるだろうし」

「動力甲冑はどうします?置いておいてくれたら、解析とかしますけど」

「むしろそっちは出番があるかもしれないから持って行くよ」

「はーい」


 スペルキャスターである僕は基本的に装備の類いを必要としないけど、それでもこうやって出発前に持って行く装備品を吟味するのは冒険の醍醐味だと言える。

 けど今回に関しては、なるべくならポーションにも動力甲冑にも頼らずに済むことを願うばかりだ。


「あ、ユートさん!あと、これも持って行って下さい」

「なんだい、これ」

「リコちゃんを連れ戻すための秘密兵器です!」


 そう言って志織が手渡してきたのはコンビニのビニール袋だ。袋に描かれているブランド名は学内に出店しているチェーン店のものだけど……。中を見ると棒アイスの袋が3つと、キャンディに……最後の袋入りのものはマカロン?


「お菓子?もしかしてこれで二階堂リコを釣れってこと?」

「釣るとまではいいませんけど、小さな女の子と仲良くなるならお菓子の一つもあったほうがいいじゃないですか。だって異世界って甘い物少ないですし」

「まぁ、たしかにそうかもしれないけど」

「あと、マカロンは生菓子、要冷蔵ですからね!」

「マカロン以前に棒アイスは要冷凍だろ……。まぁ、ストレージの中なら時間経過しないし、日持ちは気にしなくても大丈夫だよ」


 ……そう言えば志織もアケトアテンで甘い物をリクエストしてきていたっけ。転移先の異世界がどの程度の文明レベルかは判らないけど、中世的な世界だと砂糖や甘味が不足している所も多いと聞くし、もし二階堂リコが甘い物に飢えていたら確かにお菓子があると心証は良くなるかもしれない。

 彼女を説得するための手札が一つ増えたことを志織に感謝し、僕はお菓子の入った袋をストレージに収容した。


 榊会長の言葉によれば現地時間は宵の口といったところで、僕が御門から出現しても人目には付かないだろうとの事だった。

 出現して早々に戦闘に巻き込まれたり、現地人に追い回させるのは勘弁して欲しいから、転移のタイミングとしては丁度良いだろう。


 そんな事を考えながら、麗奈からマナの補充を受けた僕は――御門をくぐり、二階堂リコが召喚された世界へと赴いた。

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