#30
「志織、悪いけど続きを頼めるかい?榊会長、室田さん、他にも何か面白いものがあるかもしれませんから、指輪の処遇はまた後で……」
「ええ、判ったわ」「しかたないわねー」
「はいはい。じゃあ次は……あれ?これは何も魔法の効果が無いですね。ブランクリング、だそうですけど。魔法素材みたいですね」
「あらー、それなら私がー付与できるかもしないわー」
付与術士である室田さんは普通の装備品にも魔力を込められるそうだけど、モノが魔法素材だとより強力な付与が行えるらしい。これは以外と当たりかもしれない。
「で、次は……拡魔の指輪ですね。はめている間は魔力の最大量が上がるそうですよ。これ、ユートさん向けじゃないですか?」
「でもこれ、異世界へ持ち運ぶ際にはストレージにいれないといけないよね?外した瞬間に最大値が下がるなら、意味ないと思うけど」
僕の指摘に、志織は拡魔の指輪をぽいと放りだしてしまった。いや、誰かが何かに使えるかもしれないし、ゴミ扱いは良くないと思うんだけど。
「えーと、次は……芳香の指輪?なんですか、これ。体臭を任意の匂いに置き換える……って」
「装備して貰いたい職員はいるけど、直接的に伝えるとハラスメントだと言われそうね」
「体臭限定ならー芳香剤代わりにも使えないのねー」
酷い言われ様だけど、まぁ外れ確定ガチャだから仕方ない、か。最後に一つだけ残った指輪が当たりならいいけど……。
「最後のこれは……あ、大当たりですよ!」
「へぇ、それは嬉しいね。どんな指輪なんだい?」
「そうですね、一言で言えば不和を避け、争いを回避する指輪です」
「……高坂さん?」
「まぁ、有り体に言えば2つ目の美肌の指輪ですね」
志織の言葉に僕は思わず吹き出してしまった。確かに榊会長と室田さんが美肌の指輪を巡って一触即発だったから、これが二つあるなら総合学部に不和は訪れないだろう。そう思ったのだけど。
「室田さん?言うまでもありませんが……」
「ええ、このことは絶対機密ー」
「高坂さんと如月君にも最高レベルの機密保持指示を行います。私と室田さんがこの指輪を得たことを誰にも……特に他の女性職員には話さないように」
……そうか、総合学部にいる、お肌が気になる女性はこの2人だけじゃなかったっけ。
最終的に指輪の処遇は榊会長が誘眠と美肌、室田さんが美肌と、僕の依頼で付与できるようブランクリングを持つことになった。僕は……何かに使えるかもしれない翻訳と光明、耐苦を選んだのだけど、志織はどれもいらないと言った。
「いいのかい?まぁそんなに役に立つものじゃないとは思うけど」
「……ユートさんの馬鹿」
まぁそうは言ったけど、僕だって志織が何を考えているかは判る。お土産に指輪を期待していた志織に対してバーゲンセール品をプレゼントするのはあまりにも酷い対応だからね。
とりあえず僕は残った指輪は総合学部に研究素材として寄付することにして、一旦自宅へと戻ることにした。志織も僕がナンサイバに向かってから総合学部に泊まり込んでいたらしく、まだ夕方にもなったいない時間だったけど今日はもう帰ると言う。
それぞれ美肌の指輪をはめ満面の笑顔で僕達を送り出してくれた榊会長と室田さんの様子に苦笑しながら、僕は総合学部の本部を後にした。
自宅へ帰るまでの間、志織は僕の左肘を掴んだままずっと無言だった。たぶん、色々と不満があるのだろう。それが判っているが故に、僕は何も言えず……僕達は言葉を交わさないまま、自宅へと帰り着いた。
麗奈がいないので家の中はがらんとしている感じがする。シャワーを浴びるという志織を見送り、僕はソファーに腰を下ろした。
「……これ以上中途半端なことをしないために、覚悟を決めないといけない、かな」
思わずそんな事を口にしてしまう。
僕が帰路に考えていたのはメリーアンの事だ。結局僕は中途半端に彼女と関わり、彼女の運命を最後まで見届けずに現実世界へと帰ってきてしまった。彼女との関係がただの護衛と雇い主であったなら、こんな事は考えなかっただろうし、もっと彼女と親密な関係になっていれば何があっても彼女をナンサイバから避難させていただろう。
つまるところ、僕には誰かの人生を背負う覚悟ができておらず、その中途半端な姿勢は何時の日か大切なものを守るべき時に僕を逡巡させてしまうに違いない。
……なら、僕は覚悟を決めて、大切な存在を守れるように……。
「ユートさん。お風呂、先に頂きました」
「ああ。……志織。少し話があるんだけど」
「話?……ええ、いいですけど、夕食の準備は……」
「先に話を聞いてくれるかな」
「……はい」
そう言うと、まだ髪が湿ったままの志織は僕の向かいに腰を下ろした。帰路に話す時間はあったのに、今さら改まって何の話を……とでも思っているのだろうか。
黙ったまま僕の言葉を待つ志織に、僕はストレージから小さな箱を取り出す。
「さっきはごめん。志織への本当のお土産はこれなんだ」
「これですか?」
「ああ。開けてみてくれるかい?」
「はい……あっ」
志織が開いた小箱には僕がザナックさんの店で吟味したマジックリングが入っている。小さな魔石が付いた可愛らしいデザインのそれは、先ほどの「11連ガチャ」のモノとは随分とデザインも違っている。
それもそうだろう。僕はこのリングを効果だけでなく志織に似合うかどうかという観点から選んだのだから。
「『清潔の指輪』だよ。効果は……説明しなくても視えてるかな」
「……ユートさんの言葉で聞かせてください」
「身につけている衣類を洗浄する効果があるって。志織、錬金術の研究で服が汚れる、匂いが染みつくってよく言ってたからね。これがあればいつでも志織は綺麗でいられる」
「……私のために選んでくれたんですか?」
「ああ、もちろん」
「……じゃあ、これはマリッジリングですか?」
そう言って茶目っ気のある表情で僕を見る志織。それはナンサイバへ出発する前にも交わした会話だ。あの時僕はピンキーリングだと言ったけど――。
「違うよ。それは……婚約指輪だ」
「……へ?」
「志織。今すぐでなくていいから……僕の妻になって欲しい」
「へ?……え?あの……それって……その……」
「僕は情けない男だ。中途半端なままの関係だと、大切な人を守る決断すらできないかもしれない。だから……志織と麗奈には、僕の大切な2人には、僕が全てを敵に回してでも守りたいと思える、家族になって欲しい。これは僕の我が儘だから、もし志織が――」
何かを言わないといけない気がして、僕は必死に言葉を紡ぐ。僕がどれだけ麗奈と志織を大切に想っているかということを。
けど、志織はそんな僕に抱きつくと、優しく、けど断固とした口調で言った。
「だめですよ、ユートさん。そんなプロポーズは0点です」
「駄目、かな?」
「はい、駄目です。そんな理屈を付けなくてもいいんです。ただ愛してると言ってくれたら、それで十分ですから」
「……愛してる、志織」
「はい。……私もです」
そう言うと志織は満面の笑みを浮かべ……僕にキスをした。
結局の所、僕は覚悟のために志織にプロポーズし、志織はそれを愛として受け取ってくれた。
「思ったよりも早く、5:5になりましたね?」
「全くだ。まるで君の掌の上で転がされている気分だよ。もしかしたら初めて会った時に魔眼で魅了でも掛けられたんじゃないかって思うこともあるぐらいだし」
「もし、そうだったらどうしますか?」
「どうもなにも、悪魔に魅入られたら逃れようがないだろ?」
「ほんとユートさんは失礼ですね。……私は悪魔じゃなくて、悪魔使いなんですよ?」
志織はそういって笑うともう一度僕にキスをし、夕食の準備をするといってキッチンへと向かった。
今日は志織と2人きりだけど、明日には麗奈も帰ってくる。麗奈より先に志織にプロポーズした事を怒られる気もするけど、僕と麗奈は少なくともグレイランスでは婚約者同士だった。なら、先約は麗奈の方だ……と主張すれば、たぶん大丈夫だろう。
上機嫌で鼻歌を歌いながらキッチンに立つ志織の後ろ姿を見ながら、僕は……幸せと同時に志織の人生を背負う責任の重さを心の底から感じていた。
けど、それは決して重荷ではなく、数多の世界を旅することになる僕を現実世界へとつなぎ止める錨のようなものに思えたんだ――。
これにで第4章、ナンサイバ編は終了です。
第5章からは魔王軍の侵攻に晒されたランドール王国を舞台に正統派……ではない勇者が活躍する物語が始まるのですが、諸般の事情により次回は「番外編」の「概略」を1度挟ませて頂きます。
番外編は執筆済みなのですが、このタイミングでは掲載できない理由があり、さりとて5章は番外編後の話なのでスキップするわけにもいかずという、苦肉の策です。
いずれ機会が来れば番外編を4章の後に差し込みますので、次回一度はドラフト掲載でお許しください。
番外編が早く差し込めるよう、★評価、ブックマーク、感想などで応援して頂けると嬉しいです!




