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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case4:ナンサイバ-金持ち勇者、貧乏勇者
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#29

 御門をくぐり、現実世界へ戻った僕を出迎えたのはセーラー服の上から白衣を羽織った、長身で黒髪の美少女。――言うまでもなく、志織だ。どうやら僕が帰還するのを御門の間で待ってくれていたらしい。


「おかえりなさい、ユートさん!」

「ただいま、志織。……あれ?麗奈は?」

「ちょ、私が出迎えてるのに他の女のことを気にしますか!?」

「いや、他の女って……それで、麗奈は?」

「はぁ……。麗奈さんなら昨日から神奈川へ調査任務に出かけてますよ」

「麗奈が出向くって珍しいね。何かあったの?」

「もう、なんで麗奈さんの話題ばっかりなんですか!」


 日本での調査任務というと、失踪事件が案件かどうかを調査する総合学部の主たる活動の一つだけど、本部で榊会長の右腕として働いている麗奈が直々に現場へ出向くというのは僕が知る限り初めての事態だ。

 けど僕の帰還を出迎えてくれた志織に対して、僕は麗奈の話ばかり聞いているのは確か失礼な対応だったので、今はまず志織と話をするべきだろう。


「ごめん。それで任務報告なんだけど……」

「ああ、それなら榊サンにお願いします。たしか今なら工作室で凜々花さんと打ち合わせしてるはずですよ」

「工作室か……そういえば志織にお土産があるから、そこで見せて良いかな?」

「え?お土産あるんですか!?……って工作室で出せるお土産って、まさか魔物素材とじゃないですよね?」

「面白い素材と、たぶん面白いアイテムがあるんだけど、どっちも志織に見て貰いたくてね」

「へぇ、楽しみです!」


 そう言うと志織は僕の左肘に掴まった。現実世界に戻ってからの志織は魔導具によってずっと視力を維持しているけど、それでもアケトアテンで盲目だった頃の癖なのか、一緒に歩く特は必ず僕の左肘に掴まってくる。まぁ、一ヶ月近くそういう状態だったから、今さら拒絶するのもおかしな気がして、僕が何も言わないせいもあるけど……。


「それでユートさん?今回はどんな女性と浮気したんですか?」

「ちょ、なんで浮気してる前提なんだよ……」

「……だってユートさん、香水の香りしますよ?」

「え?……サキ?いやそれともメリーアンの……」

「ユートさん?」

「いや、違うよ?サキには指一本触れてないし、メリーアンには裸で抱きつかれたけど、そういう関係にはなってないし」

「……麗奈さんは明日の午前中には帰ってきますから、家族会議しましょうね」


 おそらく、メリーアンの残り香であろう香水の香りを指摘され、焦った僕は墓穴を掘ってしまったようだ。

 これは明日、麗奈と志織にとっちめられることになりそうだ……。心なしか左肘を掴む志織の握力が強まっているような気がする中、僕達は志織が錬金術の実験室代わりに使っている工作室へと到着した。


「……あら、如月君、帰ってたのね」

「はい、先ほど帰還しました。町田サキは残念ながら『信用』に値せず処分する結果となりましたが……」

「おそらくそうなるだろうと覚悟はしていたわ。いつも通り、報告書は1週間以内にお願いね」

「はい。……それで、志織?どこか机を借りて良いかい?」

「はい、良いですよ。凜々花さん、こっちの机いいですか?」

「ええー、かまわないわよー」


 歌うような口調でそう言ったのは、僕よりいくつか年上の付与術士(エンチャンター)である室田凜々花(むろた りりか)さんだ。彼女は狩人達が使う装備に様々な効果を付与することで任務の支援を行ってくれる重要人物だけど……悲しいかな手ぶらで異世界へ出向く僕とはあまり接点が無い。


「それでユートさん、お土産を早く見せてください!」

「ああ、そうだったね。まずこれ……現地で結晶(クリスタル)と呼ばれていたものなんだけど」


 僕が取り出したのはナンサイバを去る時に使用した、使いかけの結晶(クリスタル)だ。少し小ぶりなサイズで握りこぶし大よりやや小さい。


「わ、なんですかこれ。紫水晶(アメジスト)みたいですけど……光ってますね。……え?魔力抽出(マナバンク)で人間から抽出した、魔力の結晶……?」


 さすが志織だ。鑑定眼(アイデンティファイ)の能力が付与された義眼の効果で結晶(クリスタル)の正体と来歴をあっというまに把握してしまった。

 けど、志織の得た情報は榊会長と室田さんには伝わっていないので、僕が口頭で結晶(クリスタル)の来歴と町田サキの能力を説明した。


「そう、彼女はそんな能力を……。でも如月君、彼女の力は貴方にとって有益なものではなかったの?」

「正直、喉から手が出る程欲しい能力でした。けど、彼女は信用に値しない……そう判断しました」

「そう。なら私が何か言うことは特にはないわ」


 私利私欲で総合学部のルールをねじ曲げてサキを連れ戻しても、結果的に周囲に迷惑を掛けることにしかならない。そんな事は榊会長だった当然理解しているからか、僕にそれ以上のことは聞いてこなかった。


「それで志織、このマナクリスタルとでま呼ぶべきものは、魔力銃(マナガン)の弾として加工できそう?」

「うーん、試してみないとわかりませんけど、これ一つだけだと実験用にしか使えませんよね?」

「ああ、まだ30個以上あるよ。僕のマナ補充にも使いたいから全部は提供できないけど……」

「あ、それは……止めた方が良いと思いますよ。だってこれ、使い切って砕けた瞬間にリソースがその場に放出されますから」

「……え?」

「これ、結晶に見えますけど実体としてはエーテルみたいに加工されたリソースそのものでマナを覆って内部に留めてるみたいですよ。だから異世界でこのマナクリスタルを使うと、チート能力を使ってるのと同じことになります」


 ……そうか、それでナンサイバの街中にリソースの反応があったのか……!


「じゃあ、これはあまり異世界で使うわけにはいかないね。緊急用に1つか2つだけ持ち歩いて、後は総合学部に預けておいた方がいいかな」

「如月君なら節度を守って使用すると思うから、私は貴方の判断に任せて良いと思うけど」

「ありがとうございます、会長。でも多数持ち歩いていると使ってしまいそうですから、持ち歩くのは2個だけにしておきます」


 結晶(クリスタル)――志織が言うにはマナクリスタル――がリソースによって構成された存在であるのなら現実世界で加工や使用する分には問題ないとは思うけど、異世界で常用すべきものではないことは確実だ。

 少しあては外れたけど、元々僕は異世界で無双をしたい訳じゃないからこれまでよりも非常手段が増えたことで満足すべきだろう。


「それでユートさん。お土産ってこれだけですか?」

「いや、まだあるよ。……ほら、これ」


 何かを期待しているような表情でそう言う志織に僕が示したのは小さな革袋。そう、金貨200枚で購入した「外れ確定11連指輪ガチャ」だ。革袋をひっくり返すと、机の上に様々なデザインの指輪が転がり出る。


「わっ、指輪……って11個もありますよね?私、指10本しかないんですけど」

「いやいや、全部志織がはめるものじゃないからね?」

「で、なんの指輪なんですか?」

「未鑑定なんだ。だから志織に――」


 僕が言い終える前に、志織は指輪の一つをつまみ上げて言った。


「これは障壁の指輪ですね。マナを消費して結界を展開できる防御アイテムですけど、継続的にマナを消費するみたいです」

「ああ、向こうの世界……ナンサイバでは一般的に使われているアイテムだね。他のはどうだい?」


 さすが志織の鑑定眼だ。一目見ただけでマジックリングの効果を言い当てている。これなら11連ガチャの結果はすぐに明らかになるだろう。


 2つ目は「光明の指輪」。懐中電灯代わりになるような光を放つらしい。

 3つ目は「耐苦の指輪」耐性が向上するらしいけど、苦痛耐性という良くわからないものが上がるらしい。

 4つ目はまた「障壁の指輪」で、先ほどのものよりランクが高く、防御力がより上がるけどマナ消費も大きいらしい。

 5つ目は翻訳の指輪。未知の言語や文字がある程度理解できるようになるらしいけど、「言語習得(ローカライズ)」を使える僕達狩人には不要な品だ。


「あまり実用的なものではないわね?」

「まぁ、一山いくらの未鑑定品ですから。志織、次のは?」

「えっと……これは誘眠の指輪、ですね。はめると深い眠りに落ちて6時間は目覚めないそうです」


 相手を眠らせる魔法を使えるのではなく、はめた本人が6時間も眠りこける指輪と聞いて僕は思わず苦笑した。さすが大迷宮産のマジックアイテムだけあって意味不明なものばかりだ……そう思ったのだけど。榊会長が真剣な目つきで志織の持つ指輪を見つめ、言った。


「……如月君。これ、買いとらせてもらってもいいかしら」

「え?相手を眠らせるんじゃなくて、自分が寝てしまう指輪ですよ?」

「……睡眠導入剤よりは効果が期待できるわよね?」

「まぁ、魔法の指輪ですし……」


 ……そうか、榊会長は毎日の激務でストレスも溜まっているのだろう。まさか睡眠導入剤を常用しているとは思わなかったけど、薬に頼るよりもマジックアイテムの方が副作用は少ないはずだ。


「ではこれは榊会長にお譲りします。いつもお世話になっているので、僕からのプレゼントです」

「ありがとう、如月君。恩に着るわ……」

「はい、じゃあ次ですね……次は美肌の指輪、自動でスキンケアが出来る……ってまた外れ――」

「高坂さん!」「志織ちゃん!」


 自動スキンケアという意味不明な効果を志織が口にした途端、志織は両サイドから榊会長と室田さんに腕を掴まれていた。……なんだろう、これは。


「榊さーん?あなたはー既にー如月君から一つ指輪をー貰っていますよねー?」

「室田さん?先ほどのものは如月君の好意で譲って貰ったものだけど、こちらは私が買いとります」

「えっと……志織?どういうことかな?」

「まぁ、二十歳を過ぎるとお肌の曲がり角らしいですし。美肌アイテムは女性の憧れってことじゃないですか?」


 まだミドルティーンで化粧なしでも肌がすべすべな志織は余裕な表情でそんな事を言うけど、既に二十歳を過ぎている榊会長と室田さんの目は真剣そのものだ。これは……僕がとちらに譲ると言っても血の雨が降りかねない。


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