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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case4:ナンサイバ-金持ち勇者、貧乏勇者
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#23

「……あれ……ここ……天国?……にしては地味だね……」

「おはよう、メリーアン。残念だけどここは地獄の一丁目だよ」

「ユート?……もしかして、アンタも死んじまったのかい!?」

「いや、生きてるよ。僕も、君もね」

「え……?」


 まだ少し意識が混濁しているのか、妙に現実的でありながらも頓狂なことを言うメリーアンに苦笑しながら、僕はそう言った。彼女の体内に入った毒の影響はほぼ完璧に除去できたけど、状態異常のポーションでは受けたダメージを回復することはできない。そういう意味ではまだメリーアンは正常とは言いがたい状態なのだろう。


「痛いところとか、苦しいところとかはあるかい?」

「……身体がだるいけど、それ以外は普通だね。ユート?アタシ、確かネクロリキッドを喰らったんじゃ……」

「皮膚が紫色に変色して、内臓にダメージが行く毒がそのネクロリキッドとやらなら、その通りかな」

「じゃあ、どうしてアタシは生きてるんだい?解毒剤なんて存在しないのに!」


 メリーアンの言葉にどう答えるべきか思案した僕は、いずれにせよ自分が近い将来彼女の前から姿を消すことを思い出し、真実を告げることにした。


「そうだね。確かにこの世界には解毒剤が存在しないのかもしれないけど……。他の世界には大抵の毒は除去できるポーションがあるんだ」

「他の、世界?どういうことだい?」

「メリーアンは勇者の事を知っているかい?大氾濫(オーバーフロー)を起こす大迷宮を鎮めるために異世界から召喚されるらしいんだけど」

「あ、ああ。聞いたことはあるよ……ってもしかしてユート?アンタがその勇者サマなのかい!?」


 まぁ、今の話の流れだとそう誤解するのも致し方ないだろう。けど僕は勇者ではなく、その異世界からの勇者を連れ戻すことを任務とした勇者狩りだ。ある意味、この世界にとって見れば救済の手段を奪い去る厄災と破壊の権化のような存在だと思われても仕方ないだろう。


「いや、僕は勇者じゃないよ。けど勇者と同じように異世界から来た人間なんだ」

「そうかい……いや、なんとなくそんな気はしてたんだよ。そうでなきゃアンタの規格外ぶりは説明が付かないからね」

「……それ、褒めてるのかな?」


 僕の言葉にメリーアンは笑う。その表情は既に毒の影響は微塵も見受けられず、僕は本当にこの笑顔を救う事が出来たのだと安堵した。


「もしかして、アタシが助かったのは異世界の薬のおかげなのかい?そんな貴重な代物をアタシなんかのために……」

「確かにこの世界では手に入らないかもしれないけど、僕の世界では普通……ではないけど、作ることの出来るものだよ。実際、君に飲ませたものは志織……僕の大切な人が作ってくれたものだからね」


 だからそう貴重でも高価なものでもないから気にしなくていい。そう続けようと持ったのだけど、僕の言葉を聞いたメリーアンは絶望の表情を浮かべる。誰とも知らない相手が作った薬ということで不安に思ったのだろうか?


「……そう言えばアンタには待ってる人がいるって言ったっけ。そのシオリって人がそうなのかい?」

「ああ。志織だけじゃないけど……それでも彼女は僕を待ってくれている、大切な人だ」

「そうかい……情けないねぇ。恋敵の作った薬に命を救われるなんて。これじゃアタシの出る幕なんてないじゃないか……」

「メリーアン?」

「……アタシはね、あの夜の訪問者(ナイトストーカー)をとっ捕まえて雇い主の事を吐かせることができたら、ちっとはアンタがアタシのことを見直して、ひょっとしたら靡いてくれるんじゃないか……って思ったんだよ。その結果がこのザマだ。ホント、自分が情けないよ」


 メリーアンが暗殺者を捕縛しようとしていたのはそういう理由があったのか……。でも僕はこの件を手引きしているのが誰かは概ね検討が付いているし、それに黒幕がイコックだったとしても彼に報復する意図はない。なにせ僕がサキを処理すれば直接手を下すまでもなく彼は破滅を迎えるのだから。

 けど僕がそんな事を考えている間に、メリーアンはベッドの上で寝返りを打ち、僕に背を向けると、言った。


「ごめん、ユート。アタシはアンタの足を引っ張ることしかできそうにないよ」

「そんな事はないさ。本命の暗殺者は手強かったし、君が陽動側を抑えてくれなかったら危なかったよ」

「そうかい?それなら……まぁ、貰った金の分は働けたってことかな」

「命を張ってくれたんだ。それ以上の働きだよ」

「……そうやって中途半端に優しくするのはさ、惚れた女にとっては残酷なことだよ?」


 メリーアンの言葉に僕はぐうの音も出なかった。僕はいつもそうだ。目の前の誰かを放っておけないくせに、任務を言い訳にして最後まで面倒を見ずに投げ出してしまう。最初から関わりを持たないという選択をすれば良いのに、それが出来ない。

 志織の事だってそうだ。彼女に絆され、現実世界へ連れ帰るところまでは考えていたけど、その後の事なんてろくに考えていなかった。同居している今でさえ、麗奈の事を思うと僕は志織に対して真摯に向き合えていると自信を持って言う事ができずにいる。


「すまない。……色々な意味で」

「いいさ。どうせアタシは男運が悪いんだ。……それよりユート、後始末はどうするんだい?」

「イコック堂への復讐なら、特に考えてないよ」

「いや、それ以前の問題だよ。アンタ、部屋と廊下に転がってる死体をそのままにしておく気かい?」


 ……言われてみればそれもそうだ。今、僕とメリーアンがいる部屋の片隅には胸を撃ち抜かれた女暗殺者の死体が横たわったままだし、廊下には陽動役の男の死体が転がっている。宿の清掃サービスを頼んでどうこうできる範疇ではないのは、言うまでもない。


「ナンサイバではこういうとき、どうするんだい?衛兵に通報するとか……」

夜の訪問者(ナイトストーカー)とは言え殺しちまったら衛兵も黙ってはいないだろうよ。だから……ユート、外のヤツがたぶん保管袋(ホールディングバッグ)を持ってるだろうから、それを取ってきてくれないかい?」

保管袋(ホールディングバッグ)?それは構わないけど……」


 大荷物をコンパクトに運べる保管袋(ホールディングバッグ)を何のために……。そう想った僕は、ある事に気が付いた。この手のアイテムは生物を中に入れることは出来ないけど「死体」であれば話は別だ。

 つまり廊下の男が保管袋(ホールディングバッグ)を持っているのは……僕の死体を運び去るためで、メリーアンが保管袋(ホールディングバッグ)をもってこいと言っているのも同様の理由なのだろう。


「物騒な使い方もあったもんだね」

「なに、大迷宮へ運んで捨てれば問題が無いんだ。処理は簡単なものさ」

「いや、それを物騒だって言ってるんだけど……まあいいか」


 メリーアンは諦められなかったのか、保管袋(ホールディングバッグ)へ暗殺者達を放り込む前に懐を漁って身元や依頼主を示すものを探そうとしていた。しかし彼等もプロだろうから、そんな手がかりを持ち歩いている筈もない。結局メリーアンが手にしたのは女暗殺者が手にしていた短剣と指輪の2点だった。


「その指輪、障壁を発生させてたよ。結構手強かったけど」

「ユートの攻撃を防げるなら上物だろうね。戦利品に持って行くかい?」

「いいよ、僕には使えない代物だからメリーアンに譲るよ。で、そっちの短剣は?」

「良くわからないんだけど、こいつには毒が塗ってないんだ。夜の訪問者(ナイトストーカー)にしては珍しいと思ってね」


 男の暗殺者が持っていた短剣は毒が塗られていて危ないということで、死体と一緒に保管袋(ホールディングバッグ)へ放り込んである。しかし女暗殺者の方は本命なのに毒が塗られていない……?

 興味を惹かれた僕は「鑑定眼(アイデンティファイ)」の魔法でその短剣を調べてみることんした。その結果、判ったのは……これがマジックウェポンだという事実だった。


「魔力を通した状態で斬りつけたものを腐食させる、カラミティブレード、か……毒の短剣以上に物騒だね」

「カラミティブレード?じゃあ、まさかコイツがあの『厄災』ってことかい!?」

「厄災?二つ名か何かかい?」

「ああ。このナンサイバでも5本の指に入るって噂の暗殺者だよ……ユート、よくこんなバケモノに勝てたね……」

「うーん、そう言われてもなぁ……」


 メリーアンはそう言うけど、実質的に精霊銃(エレメンタルガン)のノックバックでハメ殺したようなものだから金星の実感は皆無だ。

 しかしやはり対モンスターと違って対人戦はやっかいだ。もちろんモンスターにも個体差はあるけど能力の幅はそう大きくはない。ゴブリンがミノタウロスと同程度に強いなんて事はあり得ないから。

 けど人間は違う。同じ暗殺者でも初心者と熟練者では戦闘力も行動パターンも全く違うし、今回のように装備の質も個人によって大きく変化する。特に一級品の装備を持っている相手だとこちらの攻撃が無効化されることもありうるし、そういう意味ではあまり人間とは戦いたくない。

 ……特に尖った能力を持つことが確定している「勇者」なんかとは。


 けど、ほぼ間違いなく僕はこの後サキと戦うことになるだろう。なにせ、どれだけ考えても彼女を現実世界へ連れ帰る方法を思いつくことが出来なかったから。彼女の勘違いや知識不足を指摘することは難しくない。けど、おそらく彼女は理屈で説得に応じるタイプではないだろうから……。


「それでメリーアン、このカラミティブレードも君に進呈するよ。君は二刀流使いだから、昨日手に入れたフレイムエッジと合わせるとメインとサブの両方をマジックウェポンに出来て丁度良いだろ?」

「いやいや、暗黒街の伝説になってる武器なんか持ってたら、アタシが厄災だって思われちまうよ!」


 そうは言いながらもメリーアンは僕が手渡したカラミティブレードを手放す様子はない。まぁ悪名高いとは言え強力な武器であることは事実だろうし、使わなければ売ればそれなりの金になるとでも考えているのだろう。


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