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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case4:ナンサイバ-金持ち勇者、貧乏勇者
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#19

 僕が傭兵シーカーと話している間にも、マナバンクへ入った一般人(コモン)達が次々と外へと出て来ている。少し疲れたような顔をしているのは急激にマナを消費したからだろうか?

 マナは生命力と結びついた力であり、普通は限界量までマナを消費すると衰弱したり、場合によっては昏倒したりすることもあると聞く。


 ちなみに僕の場合は借り物のマナを使っているだけなので、、全て使い切っても特に体調には影響は出ない。だから状況さえ許せば気兼ねなくマナを全て使い切ることが出来るのだけど……まぁ、これは例外、特異体質のようなものなんだろう。


 そんな事を考えているうちに僕がマナバンクの中に入る順番が回ってきた。傭兵シーカーに案内され、薄暗い室内に入ると……そこにはだらしない格好で長椅子に寝そべった女が1人。


「はぁ……アンタで終わりかいな?今日はやけに数多かったから、疲れたわ」


 三白眼で舐めるように僕の事を見ている小動物めいた顔つき――麗奈が言っていた通りの三下風イタチ顔――をしたその女は奇妙な髪色をしていた。髪の長さはボブカットと呼んで良い程度の長さだけど、顎のあたりまでが黒でその先数センチは金髪だ。

 豪華絢爛というよりも、ゴテゴテとしたゲテモノ風にも見えるド派手な、それでいてどこか退廃的な服装に合わせたブリーチなのだろうか?

 ……いや、髪色よりも大事な事がある。そう、この女は町田サキで間違いないということだ。


「なんや、アンタ。黙っとらんとはよこっち来いや。さっさとマナ抜くで」

『それには及ばないよ、町田サキ』

「……は?アンタ、なんでウチの名前を……いや、今日本語で喋ったんか?」

『そうだよ。僕の名前はユート。日本から君を連れ戻しにやって来たんだ』

「日本人!マジで!?へぇ、そりゃ奇遇やな!」


 僕が日本語を使ってコンタクトしているというのに、先はナンサイバの言葉を使っている。その時点で僕は彼女が先日狩ったレイジ……須藤礼治の転生体と同程度の知能や応用力しか持ち合わせていないのだと理解した。もっともそのレイジですら僕に「今の元号は何だ」と問うてくるぐらいの用心深さは持ち合わせていたのだから、サキはレイジよりもこの手の判断に疎いことが透けて見える。

 ……いや、よく考えれば僕に合わせて使用言語を臨機応変に切り替えていたのは志織だけだった気もするし、本来なら志織の方が少数派なのかも知れないけど。


「なんや、アンタもあのクソジジイに呼ばれて来たんか?」

「クソジジイ……?誰のことだい?」

「何や知らんけど、ロードとかいうけったいなやっちゃ。ウチに魔物と戦えとか訳わからんこと言うとったで。アホちゃうか」

「……まぁ、一般的に召喚される勇者に求められる役割だろうからね、魔物退治は」

「そんなん知らんし、ウチには関係あらへんやろ」


 サキは眉をひそめ、お世辞にも上品とは言いがたい表情でそう吐き捨てた。彼女は確か27……いやこの世界で1年前後生活している筈だから28歳の筈だけど、外見は30代後半かそれ以上にも見えるのは、これまでの人生が過酷なものだったせいか、それとも……。

 それにしてもやはりサキはあまり注意深くない人間のようだ。僕が先ほどの会話に仕込んだ釣り針にも気付かず、全く反応していない所を見ると人の話を深く考えると言う習慣が無いのだろう。

 なにせ僕が勇者召喚を一般的な事として語ったにも関わらず、サキはそれを聞き流した上で自分のことだけを語ったのだから。


 もちろん僕達の世界でも異世界召喚、異世界転生の物語はフィクションとしてあふれかえっている。しかし実際に自分がそれを体験し、「一般的には」と称されれば他に召喚が行われているケースがあるのかと疑念を持つのが普通だ。

 おそらく志織なら僕が一般的と口にした瞬間に他のケースに言及していただろうし……。そう考えるとまだ年若い志織が実はとてつもなく優秀で有能な人物に思えてきた。いや、実際彼女はとても優秀で有能な女の子なのだけど。


 もちろん、僕が好意を抱いている志織びいきになっていることは自覚している。けど問題は……サキを連れ戻し、僕達総合学部の仲間とするためには、志織と同じぐらい「信用」が出来きる人物でなければならないという事だ。

 つまりサキに対する僕の第一印象は「帰還に値せず」と言うものであり、個人的理由……要するに結晶(クリスタル)の供給源として彼女を現実世界へ連れ帰りたい僕は難しい判断を迫られることになる。

 なにせサキはロードの依頼を一顧だにせず「関係無い」と切って捨てた訳で、そのような自己中心的な行動原理で動く人間が総合学部(僕達)と共に「勇者狩り」の任務に協力するとは到底思えなかったからだ。


「それでサキ。君に大事な話があるんだ」

「なんや?ウチはもう身体は売ってへんで?ウチは女神はんのおかげで、そんなアホらしいことせんでもよおなったからな」

「……その女神に与えられた(チート)のことだよ。その力は現実世界から活力を奪うことで行使できる力なんだ。君が力を使えば使うほど、僕達の世界に滅びが近づく。だから、その力を使うのを止めて、現実世界へ帰還して欲しい」

「はぁ……?何言うとんのかようわからんわ……」

「君が結晶(クリスタル)を生み出し続けると、日本を含めた世界が滅ぶってことだよ」

「んなアホな!そんな訳あらへんやろ、アンタ、冗談キツいで?」

「冗談を言うためにわざわざ異世界まで君を追ってくると思うかい?」


 僕の指摘に、サキは不快そうな表情を浮かべて黙り込んでしまった。リソースの流出による世界の滅亡という話をサキはリアルな危機として認識出来ていないようにも思えるが、それでも少なくともチートを使い続けるとは口にしていない。なら、まだ説得できる可能性はあるだろうか?


 沈黙するサキの言葉を待ちながら、見るとはなしに周囲の様子をうかがうと、贅をこらした調度品や積み上げられた結晶(クリスタル)に金貨、そして……サキ自身が身に纏っている宝飾品の輝きが目に入った。現実世界では社会に見放されドブネズミと呼ばれていた彼女が、今のこの生活をそう易々と手放すとは到底思えない。

 だから……現状、最大限好意的に捉えてもサキが帰還を選ぶ確率は2割程度だと僕は見立てている。


 この数値は須藤の転生体であるレイジが帰還する可能性とされていた1%よりは大きいとは言え、僕は前回その1%を信じたことで結果としてフリーダを失うことになった。けど今回、僕はこの場に誰も同行していないから、2割という分の悪い賭けでも……チップとして賭けるのは僕自身の命だけで済む。


「サキ、君にとって今の生活の方が満ち足りていることは理解している。日本に戻った場合でも、さすがに今と同じ生活は保証できないと思う」

「……アンタ、ウチの事どこまで知っとるん?」

「一通り知っているよ。幼少期の家庭の事情も、その後の生活の事も」

「……なら、ウチがドブネズミって呼ばれとったことも知っとるんか?」

「……ああ、知っている」

「ふん……。で、アンタはウチにまたドブネズミに戻れっちゅうんか?」

「むろん、そんな事はないさ。僕は総合学部と言う組織に所属している。帰還した異世界転移者は総合学部に所属して世界の滅びを少しでも遅らせるための任務に就くんだ。衣食住は保証するよ」

「学部?なんやねん、それ。まるで大学みたいやん。学のないウチには縁のないとこやな?」


 僕の言葉にサキは鼻で笑って見せた。まぁ、それもそうだろう。僕が保証できるのは現代日本における中庸な生活であって、異世界で彼女が満喫している贅をこらした最上級の暮らしではないのだから。


「ウチはな、このナンサイバにおったらオーナなんや。せっかく『B』やのに、なんで帰えらなアカンねん」

「……B?」


 僕は思わず先の言葉を繰り返していた。そう言えばイコックもサキは自分の事を「びー」と呼んでいると言っていた。僕はそれをBee()だと思ったのだけど、先ほどのサキの発音はアルファベットの「B」単体であるように思えた。

 僕の疑念が顔に出ていたのか、サキはこちらを小馬鹿にした様な表情を浮かべると言った。


「せや、Bや。アンタ大学の人間やのに『金持ち父さん』知らんの?」

「いや、知ってるけど……もしかしてBって、Bクワドラントのこと?」

「くわどら……?なんや、それ。そんなん知らんわ。Bは座っとってもカネが入ってくる勝ち組のことや。まさに今のウチそのものやろ?」


 サキの言うところのB……つまりBクワドラントとは「金持ち父さん、貧乏父さん」で言及されているビジネスオーナーを示す語で、自身が現場で働くのではなく経済を回す仕組みを保有するオーナーというニュアンスの語だったはず。

 ……そうか、だからサキは自身の事をこの世界に存在しない「おーなー」と呼ばせているということか。


 しかし、彼女が断片的とは言え「金持ち父さん」の知識を持っているとは意外だった。僕はサキの事を感情と我欲で動く人間だと思い込んでいたけど、彼女が断片的とは言えビジネス的な視点を持つのであれば、上手くすれば彼女と交渉が成立するかもしれない。


「サキは『金持ち父さん』に詳しいのかい?」

「まぁな。金持ちになれる本やって聞いて、読んだけど……よう判らんかったわ。そもそも本読んだぐらいで金持ちになれるんやったら、誰も苦労せぇへんしな」

「それは僕も同意するよ」


 ……そう言えば「金持ち父さん」の話題が出たときに、志織は読む価値もないと即座に切って捨てていたっけ。そんな事を思いながらも僕は慎重に話を進める。


「君がビジネスオーナーだと言うのは……マナバンクの仕組みを作ったってことだよね?」

「まぁな。ホンマはウチが考えた訳とちゃうんやけど」

「……そうなんだ?」

「まぁ、日本人のよしみでアンタには教えちゃるわ。実はな――」


 そう言ってサキが語ったのは、彼女がこのナンサイバに招かれてから「マナバンク」を築き上げるまでの――彼女が言うには――サクセスストーリーだった。


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