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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case4:ナンサイバ-金持ち勇者、貧乏勇者
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#17

 僕がイコックさんにとって有益であると思わせることができれば、彼は自分の知るマナバンクや町田サキの情報を包み隠さず吐き出してくれることだろう。なにせ正確な情報はビジネスの前提条件なのだから。

 つまり僕は現代知識を見せかけの対価として示し、現地の(町田サキの)情報を買おうとしている訳だ。


「……なるほど、承知しました。それで、ユート殿はどのような事に興味がおありなのですかな?」

「そうですね……。まず気になるのはマナバンクの主が何を考えているのか、でしょうか。マナバンクが結晶(クリスタル)の独占供給元である以上、やりようによってはいくらでも価格を変動させることが出来ると思うのですが」

「ボラティリティ、ですな。まぁ……あの御仁にそのような知恵があれば、我々もそう容易に販路を握ることは出来なかったのですが。その点はユート殿がマナバンクの『おーなー』でなかったことに感謝せねばなりませんな」


 イコックさんの言葉は、僕が出発前に聞かされていた、町田サキはあまり賢くはないと言う情報と合致するものだった。しかし彼が口にしたオーナーと言う言葉には違和感があった。僕達が今使っている言葉はナンサイバの標準語だけど、彼が口にした「おーなー」と言う語は日本語の発音だったからだ。


 メリーアンはマナバンクという名称に含まれる「バンク」という語を未知の言葉だと言っていたけど、それでも彼女が口にした言葉はこの世界の言語に翻訳されていた。

 具体的に言うなら、メリーアンが発した言葉を僕の耳は「こちぬの」だと聞とり、「言語習得(ローカライズ)」の魔法の効果によって僕はそれを「バンク」だと認識した。


 けど今、イコックさんが口にしたのは「おーなー」と言う発音で、その語は僕が「言語習得(ローカライズ)」で習得したこの世界の言葉には存在しないにも関わらず、僕には意味の通じる語だった。

 つまり「オーナー」とはサキが自称している名称であり、彼女自身を指す言葉とみて間違いないだろう。


「失礼、その『おーなー』と言うのは?マナバンクの主が名乗られているお名前でしょうか?」

「まぁそうとも言えますな。『おーなー』なる言葉は主が自称しておる名前でしてね。他にもご自身のことを「びー」とおっしゃることもありますが、ご本名は……確かサキ様だったかと。むろん、誰もその名では呼びませぬが」


 ビンゴだ。僕はマナバンクの「オーナー」が町田サキだと言う事を疑ってはいなかったけど、イコックさんの言葉で裏付けが取れたことになる。

 しかし気になるのはオーナーに続いて登場した「びー」と言う言葉だ。ナンサイバの言葉なのか、現実世界の言葉なのか……。思い当たる語があるとすれば「Bee()」だろうか?今現在の彼女の立場を考えると、スクールカーストで頂点に君臨する「クイー・ンビー(女王蜂)」を意味しているのかもしれないけど……。


 しかしそれにしてもサキはこの世界でも自分の名で呼ばれていないのか。彼女は現実世界では何者にもなれずドブネズミと呼ばれていた。そして成功者として富を得たナンサイバにおいて彼女が呼ばれる名はオーナーだと言う。

 そう呼ばれる理由が敬意か、畏怖か、あるいは現実世界と似た侮蔑かは判らないけど……彼女はこの世界でも彼女は「透明な女王」であり、「名無し」なのだと、僕は思った。



 サキ個人の事を深掘りしすぎると、僕がイコックさんを出し抜いてサキと接触しようと考えていると誤解されるかもしれない。……いや、実際に僕は彼等を出し抜いてサキを現実世界に連れ戻すつもりだから、誤解でもなんでないのだけど……。

 ともあれ、あまり踏み込みすぎると良くないと考えてはいたのだけど、イコックさんは町田サキという人物そのものには興味が無いようにも見える。ならここはもう半歩ほど踏み込んでみても警戒されないだろうか?


「その、オーナーという方はどのような人物なのですか?街の噂では女性だと聞いていますが」

「……ユート殿は秘密を守れますかな?」

「……ええ。必要であれば女神(・・)に誓います」


 僕の言葉はもちろん皮肉だ。僕達総合学部の狩人は女神に反逆し、異世界転移者を狩る者なのだから。けど、僕の言葉にイコックさんは頷くと、声をひそめて言った。


「サキ様は……実のところ『勇者』なのですよ」

「……勇者?」

「ええ。ユート殿はこのナンサイバの成り立ちはご存じですか?」

「大迷宮を探索するシーカー達を支えるための集落が基になっていると聞きましたが……」

「ええ、その通りです。それ故にこの街は大迷宮無しには存在し得えませんが、一方で大迷宮には大きな問題があるのです」


 資源を無限に生成する大迷宮に生じる問題と言えば、大きく分けると2つの、それも真逆の問題が考えられる。


 1つ目は資源の枯渇だ。いかに無限に富を生み出す迷宮とは言え、その「原資」となるモノが無限に供給されるとは限らない。それ故に迷宮資源が枯渇する……という問題は、かつてグレイランスでも目にしたことがある。


 そしてもう1つはその正反対に、迷宮内部で生成される魔物達が増加しすぎて迷宮外へあふれ出す……大暴走(スタンピード)大氾濫(オーバーフロー)と言った状況が生じる可能性だ。


 前者の枯渇は経済的な問題、後者の暴走は物理的な問題。この場合、ナンサイバが「勇者」を求める理由は……後者だろう。


「もしかして、大迷宮は定期に魔物を迷宮外に溢れ出させる、とかでしょうか?」

「ええ、そうです。我々は数十年に一度の間隔で発生するその現象を大氾濫(オーバーフロー)と呼んでおります」

「なら、それを解決するために勇者を……?もしかして異世界から招いている、ということですか?」

「……さすがユート殿ですな。異世界から勇者が招かれていることまで気付かれますか。これは本来、ロードを含めたナンサイバでも限られた者しか知らぬ事なのですが」


 もちろん、僕が勇者召喚に思い当たるのは自分自身が当事者であり、サキが僕達の世界から奪われた存在である事を知っているからにすぎない。けど、僕が勇者召喚の事実を指摘したことで、イコックさんの口は心なしか軽くなったように思える。


 しかし同時に僕はイコックさんの言葉に対して、複数の理由から違和感を抱いてもいた。まず勇者召喚というのは一般的に多大なコスを要するもので、不要不急の際に召喚が行われるとは考えにくい。

 となればその大氾濫(オーバーフロー)はサキが召喚された時点で既に発生しているか、少なくとも差し迫った危機と認識されていたはずだ。


 けどメリーアンが話したここ一年のシーカー暮らしの日常にはそんな危機的な事態を感じさせるものは含まれていなかった。それにもしサキがその事態を食い止めていたのなら「おーなー」等と言う名無しではなく「勇者サキ」と呼ばれているはず。


 それにそもそも、サキが女神に与えられたチート能力が「マナバンク」だとしたら。サキがマジックユーザーであれば継戦能力を劇的に高めるシナジーを持ったチートと呼べる能力だと呼べるかもしれないけど、サキが魔法を使うという話は全く聞こえてこない。


 ……となるとサキは勇者として召喚されながらも、勇者としての活動をしていない……?


「イコックさん。その勇者サキ様のことですが……」

「ユート殿、サキ様は確かに勇者としてナンサイバへ召喚されましたが、彼女は勇者ではなかったのです」

「……と言うと?」

「サキ様は勇者として大氾濫(オーバーフロー)を鎮めて欲しいというロードの願いを断られたのです。そのせいでロードは心労のあまり病に伏せられてしまったとも聞き及んでおります」


 ロードが病床に就いているという話は街中でも聞いた覚えがある。それが召喚した勇者であるサキに協力を断られたからだというのは若干眉唾ものではあるけど。


「しかし、それなら大氾濫(オーバーフロー)はどうなったのですか?僕は今日、シーカーに案内してもらって大迷宮の中を見学しましたが……そのような兆候は見受けられませんでした」

「おや、大迷宮まで出向かれたのですか?それは酔狂……いえ、勉強熱心な事ですな。確かに今のところ大氾濫(オーバーフロー)の兆候がないというのはシーカー達もみな口を揃えて言っていることです。もしかすると、ロードが大氾濫(オーバーフロー)の時期を読み間違えたのやもしれませんな」


 そう言ってイコックさんは笑うけど、そんな事がありえるだろうか?

 僕はしばらく思案し……ある事に思い当たった。そうか、町田サキは本人が拒絶したにもかかわらず、間接的に「勇者」としての役目を果たしていたんだ!


 彼女が生み出した結晶(クリスタル)は魔術士に継戦能力という多大なアドバンテージを与えるアイテムだ。その結晶(クリスタル)が市場に出回ることで、シーカー達は大迷宮の攻略スタイルを一変させるほど大きな影響を受けた。


 メリーアンのような軽戦士がパーティから追い出されるというネガティブな影響。

 そして……継戦能力が高まった魔術士とタンクを組み合わせた大迷宮攻略に最適化されたパーティによる深部への侵攻という、街の景気を活性化させるポジティブな影響。


 つまりサキが生み出した結晶(クリスタル)はシーカー達の戦闘力と迷宮踏破力を高め、迷宮の攻略は深部へと進む。結果として大氾濫(オーバーフロー)を少しずつ、しかし確実に押し留める力となっているんだ。


 しかしこの推測はイコックさん達に伝える訳にはいかない。なぜなら、もし僕がサキを現実世界へ連れ戻せば……結晶(クリスタル)の供給が断たれたその瞬間にナンサイバは経済的な崩壊だけでなく、大氾濫(オーバーフロー)という物理的な崩壊をも迎えることになるからだ。


 このことをナンサイバの人達に知られれば、おそらくサキは自由に振る舞うことが出来ない状態に陥りかねない。例えばロードの居城へ軟禁され、結晶(クリスタル)を生み出す製造装置のような扱いをうけるとか……。もしそうなれば、僕が彼女を連れ戻す難易度は、とんでもなく高くなってしまう。

 だから僕はあえてにこやかにイコックさんに応える。


「そうなんですね。だからサキ様はご自身を勇者ではなくオーナーと呼ばれているのかもしれませんね」


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