#14
「ほら、見ておくれ。これが今回の戦利品さね」
「どれどれ……ってメリーアン?僕は服を着ろって言ったよね?」
「着てるじゃないか」
「……それ、殆ど下着じゃないか」
僕がクレームを入れたくなるのも仕方ない。なにせメリーアンが身につけていたのは下着と、胸当ての下に着ていた短いTシャツ一枚だったのだから。白い肌に白い布地という、目のやり場に困る白の暴力に辟易しながらも、僕は意志の力を総動員してメリーアンから視線をはずし、ベッドの上に広げた戦利品を注目した。
「指輪が3つにネックレスとブレスレットが1つずつ。後は短剣が1振り……か。これって収穫的にはどうなんだい?」
「10階層まで潜ったにしては数は少なめだね。けどボス部屋の宝箱だから、そこそこ良いものがあったよ?」
そう言うとメリーアンはそれぞれのアイテムの鑑定結果を教えてくれた。
まず指輪のうちの2つは障壁を展開する系統のもので、これは大迷宮で最も良く発見されるタイプのマジックアイテムらしい。
一見すると有益そうだけど、この指輪は装備者の魔力を常時消費することで障壁を展開するらしく、ダメージを受けた場合には一時的に強度を増した障壁が魔力を消費して体力の肩代わりをする仕組みなようだ。僕がこれをはめると無駄にマナを消費して、必要な時にはマナ切れになっているという最悪の事態を引き起こしかねない。言い方は悪いけど、これは僕にとっては呪いの指輪と同等だろう。
そして最後の指輪は魔力の矢を撃ち出す魔導具だそうだけど、チャージ回数の残りが8回しか無いらしい。
「チャージの補充はできないのかい?」
「んー、チャージ式のものは使い捨てっていうのが常識だけどねぇ」
「威力はどんな感じなんだい?僕の使った『貫く魔弾』より強いとか……」
「それは絶対にないね。あんな強力な魔法、見たことないからね?」
「そうか……」
一瞬、回数制限があるにせよエレメンタルガン同様の補助アイテムとして使えるかと思ったけど、低位魔法である「貫く魔弾」より低威力なら正直目くらまし程度にしかならないだろう。
「で……ネックレスは?」
「あー、コイツは外れだね。装備してると何でも旨く食べられるネックレスだそうだよ」
「誰が何のためにそんなモノを作ったんだよ……」
そう言えばザナックさんの屋台に並んでいたアクセサリーにも意味不明な魔力が付与されたものが結構あったっけ。そのなかで役に立ちそうなものを選んで麗奈と志織へのお土産を買ったんだけど……。
「じゃあブレスレットは?それも珍妙な品かい?」
「これは是非ユートに使って欲しいんだけどね」
「へぇ……魔力が上がるとか、呪文の詠唱が早くなるとかかい?」
「いや。コイツをはめると精力が増強されるのさ」
「……大外れも良いところじゃないか」
「何言ってるんだい、ユート。コイツは金持ちには人気のアイテムなんだよ?売る前にいっぺん試してみないかい?」
メリーアンはそう言うと艶めかしく身体をくねらせてみせるけど、正直今はそれはどうでもいい。しかし……見事に外ればかりだ。いや、最初から何かを期待していた訳じゃないけどね。
と、そう言えば最後に短剣が残っていたっけ。
「その短剣はどうだい?メリーアンは短剣使いだから、役に立つなら君が取ってくれていいけど」
「こいつかい?フレイムエッジ……まぁ、良くある魔力の炎を纏わせることができる武器さ」
「へぇ、いいじゃないか。メリーアンに似合ってると思うよ?」
「よしとくれよ、ユート。アタシはもうシーカーは引退したんだ。持ってたマジックアイテムだって皆売っぱらって生活費にしちまった。今さら魔法の短剣一本あったって……」
それまでの明るい調子から一変した様子でメリーアンはそう呟く。そうか、結晶が溢れかえるナンサイバでは既にタンクと魔術士の組み合わせ以外はまともに迷宮で稼げなくなっている。そんな状況下では、軽戦士であるメリーアンが如何にベテランであっても出る幕はないということなのだろう。
けど、この状況は間もなく終わりを告げる。正確には……結果として僕が終わらせることになる。ならメリーアンにはシーカーへ復帰する際のことを考えた備えをさせておくべきだろう。
「メリーアン、大事な話があるんだ」
「なんだい?」
「これは僕の推測だけど……おそらく高い確率で現在の結晶頼みの迷宮攻略は破綻を迎える。そうしたら、また君のような優れた前衛職が求められるようになる」
「気休めなら、よしとくれよ」
「いや、気休めなんかじゃないよ。事情があって詳しくは話せないけど……そうなる事は確実だ。だから君にはこの戦利品で戦闘に使えそうなものを全部持っていて欲しい」
「戦闘……って言うと、障壁に、魔力弾の指輪と、あとはフレイムエッジかい?」
「ああ。僕はこの「何でも旨くなるネックレス」を貰うよ。後は換金して山分けでどうだい?」
僕に提案にメリーアンはしばらく目をしばたかせたあと、慌てたように言った。
「ちょ、それだとアタシが貰いすぎだよ!」
「その分は、また君の時間を買う代金だと思って欲しい」
「……それって、今度こそアタシを抱いてくれる気になったってことかい?」
「違うよ。君がシーカーとして再起するまでの準備期間を買う代金……ってこと。確かに夜の蝶を演じている今の君は綺麗だけど、僕は今朝シーカーとしての君が見せてくれた笑顔の方が素敵だと思ったんだ」
「……はぁ。ホント、アンタは女心が判ってるんだか、判って無いんだか……」
呆れたようにそう言うと、メリーアンは僕に抱きついてきた。柔らかく、蠱惑的な香りが鼻腔をくすぐる。……薄着でこういうことをされると、抑えが効かなくなりそうで怖いんだけど……。
「ユート、アタシとパーティを組まないかい?アンタとなら、明日からでもシーカーに復帰できそうな気がするんだ」
「ごめん、メリーアン。僕は他にすべきことがある。それに……待ってる人もいるからね」
「……まぁ、そう言うとは思ってたけどね。あーあ、どうしてアタシはこうも男運が悪いんだろうねぇ。ようやく見つけた良い男が予約済みだなんてさ」
「僕なんてただのモブだからね。メリーアンは綺麗な上に強いんだ。いくらでも良い相手が見つかるさ」
「見つからないから、こうやって身体を売ってるんだけどねぇ……」
そうぼやくメリーアンだけど、さすがにこればかりは彼女の希望に応えることはできない。だから僕は、そっとメリーアンの抱擁から抜け出した。
結局メリーアンに分配した金貨は額面的には結構な数字にはなったけど、実態としては彼女の2週間分の生活費に相当する額にしかならなかった。これが多いのか少ないのかは判らないけど、少なくとも2週間の間、彼女は生きるために身体を売る必要がなくなる。
そして間違いなく2週間後までに僕はこの世界を離れているだろうから、彼女の人生に僕が与える影響は限定的なものになるだろう。
「なぁ、ユート?」
「なんだい?」
「アタシの時間を2週間分買ったってことは……この2週間の間、アタシはアンタのものってことだろ?もし気が変わったらいつでも声を掛けておくれよ?」
「ああ、そうするよ」
どうやらメリーアン的には僕が彼女を2週間占有する契約を結んだとでも思っているのだろう。正直、彼女はとても魅力的だ。僕がこの世界の風来坊やトレーダーだったとしたら、放っておかないぐらいに。
そんなあり得ないことを思いながら、僕は部屋から立ち去るメリーアンの後ろ姿を見送った。
さて、既に陽が落ちていることだし僕も行動を再開すべきだろう。まず僕が赴くのはイコック堂。宝石の換金という名目で大店に接触し、結晶の流通や町田サキの影響を探り出す。
メリーアンにイコック堂が結晶を取り扱っていることは再確認したから、可能であれば生成プロセスや保管方法についての情報を仕入れておいた方がいいだろうか。
そんな事を考えながら部屋を出た僕は、酒場兼食堂となった一階を通り宿の外へと向かう。
「あれ?ユート、晩飯を食べていかないのかい?」
「ああ、イコック堂へ行くからね。帰ったら食べるよ、メリーアン」
「じゃあ今日はアンタが帰ってくるまでここで働いておくよ。なにせアタシはアンタの女だからね」
「……誤解を招く言い方は止めてくれないか……」
うん、メリーアンの時間を買うとは言ったけど、僕は彼女の行動を制限している訳ではない。けど彼女は僕が契約している期間は身体を売らず、まっとうに働く……という風に解釈したのだろう。
ウェイトレス姿のメリーアンを見るとはなしに見ながら、僕はそんな事を考えた。




