#12
これが結晶の検証である以上、同じ魔法を使って単調に魔物を処理する訳にもいかない。それ故に僕は魔物が出現する度に異なる術を使って攻撃を試みた。
まず最初は比較的威力の低い放出系の「貫く魔弾」や「千条の鉄針」をはじめとした単体、集団攻撃魔法の挙動を確認する。
次いで射出後もマナ操作が必要なホーミング系である「円弧の光条」を使い、結晶を通じたマナコントロールが自在に行えることも確認した。
さらには自分の意思で結晶から放出する魔力のコントロールが可能かどうか検証するために「転移門」を複数回使用し……ついでに空間の連続性を断つ断頭台効果で魔物を倒したりもした。
「……ユート?」
「なんだい、メリーアン」
「アタシ……夢でも見てるのかな?」
「まだ昼前だろ?昼寝するには早い時間だと思うけど」
「そうか、そうだよな……」
メリーアンが何か言っているけど、僕は結晶からのマナ出力管理をするのに集中しているから、いい加減な受け答えしか出来ない。あとで適当な返事をしたことを誤っておいた方がいいだろうか。
ともあれ、これまでに使った数々の魔法で大きな方の結晶が1つ砕けてしまった。小出しにする形で使うことは問題無さそうだけど、問題は一度に全魔力を消費するような大魔法が行使できるかどうかだ。何か適当な獲物を相手に確認したいところだけど……。
「メリーアン?」
「ああ、なんだい?」
「この辺りにボスとかはいないかな?」
「はぁ……いるよ、この少し先に」
「じゃあそれを倒してから帰ろうか」
「もう好きにしておくれ……」
この迷宮に出没する魔物は無限生成されるという割には生物系も多く含まれていた。通常、魔物が無限わきするタイプの迷宮はアンデッドや魔法生物が多く出現するものだけど、ここの迷宮は僕の知識にあるものとは少し違うらしい。で、僕達がたどり着いたボス部屋にいたのは……双頭の巨人だった。おそらくエティンか、それに類する魔物だろう。
「ユート!あいつはかなりの強敵だよ!」
「そうだね……メリーアン、悪いけど10秒ぐらいアイツの足止めをお願いできるかな?」
「10秒ぐらいなら出来るけど……どうするのさ」
「なんとかするのさ。君の名前を呼んだら僕の近くまで戻ってきてくれるかい?」
「わかったよ!」
僕はメリーアンがそう言って頷いたのを確認すると、呪文の詠唱を開始する。
《魔力よ、火口となりて空に火を灯せ。火よ、旋風を纏いて炎となれ。炎よ、螺旋を描きて尖塔となれ――》
呪文の中核部分を唱え終わった僕は術の発動を一旦ホールドし、メリーアンに視線を向ける。彼女は腕が鈍ったと言っていたけど、ボス格相手に無傷で囮役をこなせている。
……うん、あの動きは十分現役として通用するだろうね。いや、今は彼女の動きを鑑賞している場合じゃなかった。
「メリーアン!」
「もういいのかい!?」
「ああ、準備は出来てるさ」
僕の言葉に、メリーアンはエティンから視線を外さずにそう応える。その仕草一つとっても、彼女が元はベテランの軽戦士だったことが窺える。そして僕の言葉にメリーアンはエティンにフェイントを仕掛け、一瞬虚を突かれたエティンの隙を突いて僕の方へ駆け戻ってくる。
そして彼女がエティンから十分な距離を取ったことを確認し――僕は力ある言葉を解き放つ。
《燃え上がれ、「業火の尖塔
小さな種火として解き放たれた魔力は、次の瞬間に渦巻く業火の旋風と化し、一瞬でエティンの巨体を炎で包み込む。
と、同時に僕の手の中で結晶が砕け散った。どうやら予想通り今の「|業火の尖塔《フレイムピラー」は一度で結晶が保有する全ての魔力を使い切ったようだ。
「うわぁ……なんだい、アレ。まるで生きた松明じゃないか」
「旋風で擬似的な結界を創り出してるからね。中にいる相手は炎が消えるまで外に出れないようになってるのさ」
「えげつない魔法だね……」
燃えるエティンを見ながらそんな事を言っていらられたのはそこまでだった。なぜなら、僕の予想よりも随分と早く「|業火の尖塔《フレイムピラー」の魔法が解除されてしまったからだ。
どうやら結晶の魔力量は僕の見立てよりも幾分少なかったようだ。本来の持続時間であればエティンを焼き尽くしていたはずの魔法は、深手を負わせているとは言えまだ敵が生きている状態で解除されてしまっている。
「これは予想外だね」
「ちょ、ユート!?逃げるよ!」
「なに大丈夫だよ、メリーアン」
僕はストレージから精霊銃を取り出し、焼け焦げたエティンの双頭に向けて引き金を引いた。乾いた音が迷宮に2度響き……その後に巨大なモノが倒れる音と共にボス戦は無事終了した。
「……もう、何も言う気にならないよ……」
「そうかい?じゃあ地上に戻ろうか」
「いやいや、ボスを倒したんだから戦利品を持って帰らないとだよ!」
そう言うとメリーアンはボス部屋の片隅にいつの間にか出現していた宝箱へと歩み寄った。この手の宝箱は鍵なり罠なりが掛かっていることが多い気がするのだけど。
「メリーアン、鍵や罠は……」
「そんなの掛かってないよ!」
「そんなものなのかい?まぁ、この迷宮のことは君の方が良く知っているとは思うけど」
僕がそんな事を言っている間にもメリーアンはさっさと宝箱を開けてしまった。彼女の背中越しに覗き込むと、金貨やアクセサリー、短剣のようなものが入っているのが目に入る。なるほど、戦利品が一つだけ入っている訳じゃなくて、こうやって雑多なモノが纏めてドロップするんだね。
僕の知っているダンジョンとはルールが違う事に感心しながら見守っている間に、メリーアンは腰に付けていた革袋を取り外しせっせと財宝を袋の中に放り込んでいる。
……けどあの袋、宝箱より随分と小さいのに中身の殆どを収納してなお余裕があるように見えるけど……。もしかしてアレも魔法のアイテムなんだろうか。
「メリーアン?」
「ああ、安心しておくれ。ちゃんとアタシが地上まで責任をもって運ぶからさ」
「いや、それは良いんだけど……その袋はマジックアイテムなのかい?」
「そうだよ。保管袋って言うシーカーの必需品さ」
「なるほど」
僕はストレージがあるからこの手のアイテムは必要が無いけど、一般の冒険者……この街だとシーカーには必需品だというのは良くわかる。なにせダンジョンに潜って戦利品を獲得したのはいいけど持ち帰れない、なんて悲惨でしかないからね。
ともあれメリーアンが財宝を全て袋に収めたので、僕達は地上を目指すことにした。精霊銃はチャージを使用したので、ベルトに挟んで充填するのも当然忘れずに。
帰路はメリーアンの案内で最短経路で地上を目指した。とは言っても知らぬ間に僕達は10階層まで降りていたようで、全く敵と遭遇せずに……と言う訳にもいかなかった。
結晶の性能を確認することに夢中になりすぎていたのは反省すべき点だ。最悪の場合はこの世界でもチャージが可能な精霊銃で切り抜けるしかない。そう思っていたのだけど……。
道中の魔物はメリーアンが華麗な短剣捌きでほぼ完封してくれたこともあり、僕が精霊銃を発砲したのは大型の魔物と遭遇した1度だけで済んだ。
「メリーアン、君って実は結構な実力者なんじゃないかい?」
「よしとくれよ。今のアタシはタダの夜の蝶さ」
「こういう場合は、勿体ない……って言った方がいいのかな?君は綺麗だから、夜職でも十二分に務まるとは思うけど」
「シーカーも娼婦も、どっちも生きるためにやってるだけだし、どっちも褒められた仕事じゃないと思うよ、アタシは。地に足つけてまともに働くのが一番さ」
「それはもっともな意見だね」
魔物の首を刎ねた短剣を振るって腰の鞘に戻しながら、メリーアンはそう嘯く。けど大迷宮から富を産出するこのナンサイバにおけるまともな仕事と言うのは一体なんなんだろう。
未だ見ぬ町田サキが行っているであろう、結晶ビジネスですら大迷宮を前提としたものである以上……この街そのものが「まともな仕事」を容認しづらい環境であるように思えた。
「もうすぐ地上だよ」
「ああ、それは助かった」
「いや、ぜんっぜん助かった感が出てないよね?」
「そうかい?メリーアンがいなかったら地上へ戻れなかったと思うよ」
「まぁ確かに、片道で魔力を使い切る魔術士なんて聞いたことないからね……」
うん、それについては甘んじて批判を受けよう。
そんな事を言っているうちに僕達は大迷宮からの脱出に成功した。そして迷宮探索が終了したということは、名残惜しいけどメリーアンとはここで解散になると言うことでもある。
「じゃあユート、アタシは先に行くところがあるから――」
「ああ、お疲れ様、メリーアン」
足早に立ち去るメーリアンの背中を見送りながら僕は思う。彼女がこの先もこのナンサイバという街で上手く立ち回り、生き延びられますように、と。
異世界人である彼女と僕ははほんの一時触れあうだけの行きずりの関係でしかないけど、そう願わずにはいられなかった。




