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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case4:ナンサイバ-金持ち勇者、貧乏勇者
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#6

 前回(アケトアテン)前々回(ゾル=カタン)は御門を抜けた瞬間に違和感を感じたけど、今回は不自然な程何も感じなかった。薄暗い室内に少し埃っぽい空気。見たところ、石作の建物の内部のようだ。

 事前に聞いていたとおり内装や置かれている家具はアンティーク調。ただおそらくこの世界の人々にとってそれらは骨董品(アンティーク)ではなく、現在進行形で使われている実用品(モダン)なのだとは思うけど。


 そんな事を考えていた僕は、照明のない室内が夜間でも明るいことに今さらながらに気が付いた。そう言えば夜が明るいと言っていたっけ。部屋の片隅にある窓に目を向けると、確かにそこから差し込む光は月明かりにしては妙に明るい。窓に近寄って外を確認してみようと思った時だった。


 ……カシャ、カシャ、カシャ


 遠くから、足音のようなものが近づいてきている事に気が付いた。足音は1つだけだけど、金属がふれあうようなあの音は……装甲を身につけた、有り体に行くと兵士や警備兵にありがちな足音だ。

 ここがどのような施設なのかは判らないけど、調度品の様子からは廃墟や一般人の邸宅とは到底思えなかった。それにここが異世界からの勇者召喚を行った場なのであれば、宗教施設や王城、領主の館である可能性は高いだろう。

 つまりここにいることが見つかれば、異世界から訪問したという事情を抜きにしても、十分に捕縛される理由になりうるということだ。


 どこかに身を潜めてやり過ごすか?いや、この部屋にあるのは小さなテーブルや椅子ぐらいで僕が身を隠せるほど大きい家具は置かれていない。もし足音の主か室内を覗きこめば一目で見つかってしまう。出入り口は一つしかないし、その扉に向かって足音が迫っている以上は僕があれを開くのは自殺行為だろう。それに打って出るにしても事情がなにもわからないし。


 となれば……。迫る足音を耳にしながら、僕は視線を窓に向けた。


 とりあえずここを離れよう。そう考えた僕は足音を殺して窓へと向かう。遠目で見ていたときは気付かなかったけど、この窓にはガラスが……それもすりガラスがはめ込まれている。外の風景は見えないけど、それでも複数の色が混じり合った灯りが暗がりに慣れ始めた目には眩しい。

 慎重に鍵を外し、窓を開け放つ。軋んだ音が静かな室内に響き……扉の外で足音が一瞬止まったのが聞こえた。これは、気づかれたかな?そう思いながら窓の外の光景に視線を向けた僕は、一瞬硬直した。


「……なんだ、これは……」


 思わずそう呟いてしまう。

 でも、きっとこれは仕方の無いことだ。なにせ窓の外に広がっていたのは……まるで現実世界の繁華街のように、色とりどりのネオンサインが輝く不夜城の光景だったのだから。


「いーる!さもならいと!こからんしぬ、でーめ!」

「……やばっ」


 思わず僕が呟いた声が聞こえたのか、扉の外からガチャガチャと扉を開こうとしている音と怒声のようなものが聞こえる。この場にいると間違いなく捕まってしまう!

 窓から下を覗き見ると結構な高さがあった。僕が今いる所は建物の4、5階といったところか。そのまま飛び降りると死ぬ可能性もある。ならここから脱出する方法は一つだ。


《我が身、明滅する光のごとく瞬きの間を渡らん》


「いーる!こからんしーぬ!ばるかぬそ!」


 僕の詠唱が終わるのと、扉が開かれるのはほぼ同時だった。ちらりと視線を向けると、そこにいたのは予想通り鎧を身に纏った中年男性。たぶん衛兵か何かなのだろう。

 幸い、僕の顔は逆光になっているだろうから衛兵には見えていないはず。そこまで確認した僕は窓の外に視線を向け、一旦ホールドしていた力ある言葉を解き放つ。


《「瞬きの転移(ブリンク)」!》


 おそらくあの衛兵には僕の姿がかき消えたように見えたことだろう。いや、実際に僕は短距離テレポートの魔法である「瞬きの転移(ブリンク)」でその場から姿を消したんだけどね。


 僕は室内から躍り出た空中で連続転移を数回刻み、ネオンサイン輝く夜の街へとその身を転移させる。適当な建物の屋上に着地し、振り返ると……どうやら僕がこの世界へ到着した場所は城だったことが理解出来た。

 唯一、窓が開け放たれているのは最上階の一室で、僕が現実世界へ帰還するためにはあそこを目指す必要がある、ということだ。



 それはさておき。いきなり街中へ出てしまったけど、僕はまだこの世界の言葉がわからない。誰か適当な人と接触して「言語習得(ローカライズ)」を掛ける必要があるのだけど……。


 幸い、僕の現在位置は建物の屋根の上で、密かに街中を観察するにはうってつけだ。中世風の城と、ネオン煌めく街のギャップに戸惑いながら周囲の様子を観察する。

 ネオンサインに記されている文字は読むことが出来ないけど、剣や斧、瓶のようなものがデザインされたネオンや、ベッドやジョッキが描かれたものなど、それが何の店であるかおおよそ判る店も多い。

 けど夜間にも営業する酒場や宿屋がネオンサインを出すのは理解出来るとしても、武器屋や道具屋が夜にネオンサインを出す必要性がどこにあるんだろうか……。


 視線を通りに落とすと、夜の街を多くの人々が行き交っているのが目に入った。けど、僕はそんな人々を見ていてある違和感を感じた。

 ネオンサインからここが冒険者達の集まっている交易都市か何かであることは明白だ。行き交う人々の半数程度が武装している所を見ると、近くにダンジョンや狩り場がある、冒険者の街である可能性も高いだろう。

 けど……その割には「普通の人」が少ない気がするんだ。


 通常、冒険者の街だからといって住民の殆どが冒険者……なんてことはあり得ない。なぜならこう言った都市における冒険者は基本的に消費者であるからだ。

 もちろん冒険者は魔物の素材や財宝を持ち帰って都市の経済を回す。けど、彼等が装備する武器や防具、そして消費する食料やアイテムの類いは職人や薬師、農民達が製造しているものだ。

 それ以外にまだ冒険者の活動を支える人達は多い。例えば武器を研ぐ職人、服を洗う洗濯屋、食材を運ぶ運搬人、下水処理をする労働者など、そこが冒険者の街であったとしても都市機能を維持するためには無数の「非戦闘員」が不可欠だ。


 つまり1人の冒険者が活動するためにその背後に数倍から十数倍の「一般の人達」が必要になる。けど、この街で闊歩しているのは冒険者と……何故かこぎれいな服装を身に纏った「裕福な人達」だけ見えるんだ。

 もちろん冒険者の街にも裕福な人達は存在している。繁盛している宿や酒場、あるいは武器や防具、消費アイテムを販売する店の主は基本的に荒くれ相手の商売で大儲けしているものだ。けど、そんな富裕層は本来であれば一握りのはずなのに……。


 ネオンサインが輝く街を見やりながら僕は思う。ここは何かがずれている。僕が知っている「冒険者の街」と同列に考えない方が良いのかもしれない、と。



 いずれにせよこの都市の状況を把握し、ターゲットである町田サキの居場所を知るためには――。


 そこまで考えた僕は、ある事を失念していたことに気が付いた。苦笑しながら僕はストレージから「探知の水晶(ディテクトクリスタル)」を取り出す。町田サキを探すもなにも、まず彼女がこの街にいるのかどうかを確認するのが最優先だ。


 つまり「探知の水晶(ディテクトクリスタル)」に僅かでも反応があれば彼女はここにいるだろうし、水晶の輝きが灯らなければここではない別の場所へ移動したことになる。

 街の情報を探るかどうかはサキの居場所次第だ――。

 そう思ったのだけど。


「……え?」


 僕は思わず手の中の水晶を二度見してしまった。「探知の水晶(ディテクトクリスタル)」は異世界転移者がチート能力を使った際に生じる、リソースの流れを検知して輝きを発する。

 だから僕がストレージから水晶を取りだした直後は「ストレージというチート能力」に反応して誤作動的に微量の反応を示すのだけど……今、僕の手の中で「探知の水晶(ディテクトクリスタル)」は煌煌とした光を放っている。


 前回のゾル=カタンで追い詰められ、悪あがきをしたレイジが僕に向かって支配(ドミネーション)のチート能力を行使していた時と同じか、それ以上の輝きが僕の手の中にはあった。


 慌てて周囲を見渡したけど、そこには町田サキどころか人の気配すらない。なら……これはなんだ?水晶は何に反応している?

 ……わからない事だらけだけど、一つだけ確実なことがある。


 それは町田サキはこの街で、強大なチート能力を今この瞬間も振るい続けている、という事実だ。


 もしかしたら僕がこの街に感じる違和感は彼女がもたらしたものなのだろうか?

 町田サキという人物のバックボーンを思い返した僕は、ある事に気が付いた。そう言えば彼女が長らく身を置いていたのは夜の街……繁華街だ。たしか資料には大阪のミナミというエリアが彼女のホームだったと記されていた。


 僕は大阪を訪れたことがないけど、ネットなどで目にするミナミの光景といえば華やかなネオンサインと派手な服装を身に纏った人々というイメージで、この名も知れぬ都市の光景は……どことなく町田サキの「居場所」と似ている。不思議とそう思えたんだ。


「もしかすると、彼女がこの街を創り出した?……いや、まさか1年でそこまではさすがに……」


 僕の呟きは夜の街の喧騒にかき消され、誰の耳にも届かない。けど、僕は何故かこの異様な街を生み出したのは、町田サキというこの世界にとっての異物であるように思えて仕方がなかった。


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