#2
「じゃあ僕達もそろそろ行こうか」
「うん。おみやげ楽しみ」
「えらく物騒なお土産ですよねぇ……」
麗奈の言うお土産とは、僕が前回ゾル=カタン帝国から持ち帰った魔力銃と精霊銃の事だ。
もともと魔法を使える僕と、魔力が皆無な志織にとって魔力をエネルギー源とする魔法銃は無用の長物だけど、莫大な魔力を持ちながらも魔法を使う能力を喪失している麗奈にとって魔法銃は護身のために最適なものになりうる。
ちなみに精霊銃の方は魔法の才能とは関係無しに使用できるけど、こちらは僕のサブウエポンとして使う予定なので、「お土産」は残念ながら麗奈限定になるのだけど。
で、今日はその試射会を行う予定になっている、という訳だ。本来ならもっと早めに試射する予定だったんだけど、立ち会い予定の榊会長が多忙でずるずるとスケジュールが延びてしまったんだ。で、今日はなんとかスケジュールを確保できるというので、急遽試射会を行うことになったのだけど。
「ユートさん、なんですか、ここ!なんで大学の地下にこんな広大な空間が……」
「シオリ、ここは試験場」
「いや、それは見たら判りますけども!」
まぁ志織が騒ぐのも無理はない。僕達が今いるところ……総合学部の本部が置かれた本部棟地下3階から横方向に移動した場所、地上で言えば大講堂の地下に位置する部分には、体育館ほどの地下空間が広がっていたからだ。
僕も狩人としての適性を示す際に一度ここへ来た事があるけど、まさか大学の地下にこんな空間があるなんて、当時は思ってもみなかったからね。
「ここは『自在石工』のチートスキルを持つ帰還者が作ってくれた試験場だって聞いてるよ」
「へぇ……そんな便利なスキルもあるんですね。でも石造りで大丈夫なんですか?」
「そこはチートだからね。石材の高度がオリハルコン級になってるって言う話だけど」
「じゃあ何かあったらここへ逃げ込めば安全ですね」
……志織の言う事は間違ってはいないけど、オリハルコン級の防壁が必要になる事態なんて想像もしたくない。僕達がそんな事を言っている間に、榊会長がやってきた。
「ごめんなさい、会議が長引いてしまって」
「いえ、僕達もさっき来たところです」
「うわぁ、それってデートの時に言ってみたい待ち合わせセリフの定番ですよね!?」
「志織……」
相変わらず頓狂なことを言う志織の事はとりあえず脇においておいて、僕はストレージから精霊銃と3丁の魔力銃を取り出した。
「なるほど、報告にあったとおり拳銃型と小銃型なのね」
「けど何回見ても精霊銃の方は玩具みたいですね。ユートさん、これ私にくださいよ」
「いやいや、これは僕の切り札になるものだから……」
「あ……そうですね。ごめんなさい」
それまでテンションが高かった志織だけど、僕が切り札と言った瞬間、麗奈の方をチラリと見てから黙り込んでしまった。それには訳がある。そう、あれば僕がゾル=カタンから帰還した日の朝、朝食を取っていた時のことだ――。
「――というような事があってね。結局須藤を処理した後に、僕も捕まってしまったんだ」
「ええ!?大丈夫なんですか!?……って今無事にここにいるから無事なんでしょうけど」
「別世界の勇者が皇帝……というか魔王を暗殺してくれたせいで見張りに隙が出来たからね。ああ、そうだ……そのことで志織と麗奈にはお礼を言わないといけないと思ってたんだ」
「お礼?」
「そう。出立前にくれたマナポーション、役に立ったよ」
「……!」
「……そう。良かった」
「あれは便利だから、もし可能ならもう何本かストレージに――」
「ユートさん!」
僕がゾル=カタン皇城での出来事を語り、マナポーションについての礼を述べた後、追加のマナポーションが欲しいという話を切り出した途端、志織が血相を変えて立ち上がった。僕は何か不味いことを言ったのだろうか……?
けど、そんな志織を麗奈が静かに諫める。
「シオリ」
「……でも、レーナさん!」
「悠斗。判った、用意する」
「……駄目です!許可できません!」
「私がそうしたい」
「それが依存だって言ってるんです!」
……依存?麗奈が?志織は直前に僕と麗奈が共依存になっていると言っていた。けどマナポーションと麗奈の依存にいったいどんな関係が……?
「……ごめんなさい、レーナさん。約束を破ります」
「シオリ!」
「私、ユートさんに約束したんです。耳の痛いこともちゃんと言うって。だからこれは私が言うべきことです」
「志織、それは……どういうこと?」
僕がそう言うと、志織は僕をきっと睨み付けて言った。
「おかしいと思わないんですか?どうしてマナが液体に封入できるのか。元々異世界にすら存在しないものをどうやって作ったのか」
「それは不思議だったけど……魔神のレシピなんだろ?」
「ええ、そうです。あれは確かにトートに教わったレシピですけど……あれは『悪魔のレシピ』なんです」
魔神ではなく、あえて悪魔と呼称することは……もしかして……?
僕はマナポーションを飲んだときに感じた鉄の香りを思い出す。そう、あれは僕が知っているものだった。なぜなら、あれは――。
「あれは、レーナさんの血液が原料になっているんです。マナが宿るのは命の源である血液ですから、それを濃縮することであの容量と効果に圧縮できました」
「……どれぐらい血液が使われてるか、聞いてもいいかい?」
「あの小瓶一本で、400mlです」
400ml……?一度に献血可能な量ではあるけど、それはあくまでも成人男性の場合だ。同年代の少女よりも小柄で華奢な麗奈が400mlもの血を抜いたら……。
そこまで考えた僕は、ある事に気付いて愕然とした。
そう言えば僕がゾル=カタンへ出立する際、麗奈は具合が悪そうだった。僕は寝不足だと思っていたのだけど……あれは貧血の症状だった?
「……そうです。レーナさんは前日に血を抜いたあと、倒れました。そうなる事が予想できていたから、あの日はお泊まりで、次の日に動けるようになってからユートさんを見送りたいって」
……僕は、馬鹿だった。麗奈にそこまで負担を掛けていたなんて。しかもそんな貴重なモノを、後先考えずにただの「手札」だと考えて消費しまったなんて。
それもマナを使いすぎた理由は、フリーダの死に激昂して、八つ当たりのようにドラゴンレイジの構成員を殲滅していたことが原因だ。僕はどこまで未熟なんだろう……。
そして志織が麗奈のことを依存していると言った理由もわかった気がした。
志織は言っていた。環境的に、麗奈は僕のことを全肯定して尽くすしか選択肢がないのだと。だから麗奈は僕がマナポーションを必要とする限り、自らの命を削ってでもそれを僕に与えようとするのだ。それは献身というの名の依存なのだろう。
「悠斗、もう大丈夫だから。必要なら、また血を抜く」
「駄目です!そもそもレーナさんの献血可能量を超えてるんですよ!?最低でも数ヶ月は禁止です!」
僕が「燃血の邪法」を使ったことで麗奈に余計な心配を掛け、さらに麗奈に肉体的な負担まで掛けてしまっていたということか……。なら、僕はマナポーションに頼る事はできない。
「麗奈、ありがとう。でも君の命を削るぐらいなら僕は自分の寿命を燃やす方を選ぶよ」
「悠斗!駄目、それは駄目!」
「わかってる。だから……僕はもう『燃血の邪法』にもマナポーションにも頼らない。それならいいだろ?」
「そんなこと、出来るの?」
「ああ。完璧にではないけど……幾分かマナ管理が楽になりそうな切り札を手に入れたからね――」
まぁ、そういうことがあったので、僕がマナ管理を行うための切り札になりうる精霊銃を志織に譲るわけにはいかないということだ。しかし僕がまた異世界へ勇者狩りに赴くことがあれば、何か志織にもお土産を……そう、物騒でないものを調達してくるのはやぶさかではない。
「志織?今回は無理だけど、次は君のために何か手に入れてくるよ」
「はい、ありがとうございます!できれば、左手の薬指にのみ装備できるリング状のマジックアイテムを希望します!」
「ずいぶんと装備箇所が限定的だね……」
そう切り返したけど、もちろん志織が本当に言いたいことは僕にだって判る。僕と麗奈、そして志織は全員で幸せになるための三角関係を選択した。なら……いずれはそういう証になるものを用意することも必要になるんだろう。




