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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case3:ゾル=カタン-撃っていいのは撃たれる覚悟のある勇者だけだ
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#25

 ……どれだけ眠ったのだろうか。騒がしい気配で目が覚めた。状況を把握するために僕は眠ったふりを続け、耳を澄ませる。


「おい、例の『勇者』はいるか!」

「はい。眠っているようですが……」

「ならやはり雌犬の仕業か……。おい、お前も来い!」

「はっ……しかし隊長、一体何が起きたのですか!?」


 何かが起きたことは間違いないだろう。隊長とやらが忌々しげに「雌犬」と口にしていたということは……ベイステアの勇者が関係しているのだろうか?

 そんな僕の疑問は、足早に遠ざかって行く隊長が発した言葉で裏付けられた。


「皇帝陛下が暗殺されたのだ!草の根分けても下手人を探さねばならぬ!」

「なっ……陛下が!?」


 ゾル=カタンの皇帝は隣国からは魔王と呼ばれていたと聞く。なら……勇者が魔王城(皇城)へ乗り込み、単騎で魔王を討伐(皇帝を暗殺)するというのは、良くある話だろう。まさか自分が魔王側の城に囚われている間に、そんなイベントが発生するとは思ってもみなかったけど。


 けど、これは千載一遇のチャンスだ。監視役がいなくなったことで僕は自由に行動することができる。なら……このジメジメとした地下牢からおさらばさせてもらおう。


「……これを持たせてくれた志織と麗奈に感謝しないとな……」


 僕はストレージから親指程の大きさしかない小さなポーションの瓶を取り出した。僕が投獄されてなお平静を保つことができていた理由の一つである緊急手段、マナポーションだ。

 これがあれば……志織の推測によれば僕のマナを15%ほど補充することが出来るはず。15%というマナ量は大魔法を行使するには到底足りないレベルではあるけど、使い方次第では状況を一変させうる量でもある。


 小瓶を開き、赤く輝く液体を一気に飲み干す。咽せそうになる程濃厚な鉄の匂い(・・・・)に思わず表情が歪むのが自分でも判ったけど、飲み干した直後に、僕の体内でマナが循環する感覚が生じた。どうやら志織の言葉通り、マナはちゃんと補充できたようだ。



 この場で僕が使うべき魔法は鍵開けでも、ましてや破壊魔法でもない。僕の望みは「牢屋から出る」ことではなく、「現実世界へ帰還する」ことだ。なら……牢屋からの脱出と、転移ポイントへの移動を同時に行えば一石二鳥と言うものだ。


《此処は其所より遠く、其所は此処よりも近い。遠きと近きを一つに繋ぐ扉を開け――「転移門(ディメンジョンゲート)」》



 僕の詠唱に応え、目的地へと接続された黒い円形のゲートが出現する。……僕の、足下に。

 次の瞬間、僕は重力に引かれて転移ゲートの中へ墜落し……着地した僕が見た光景は、見覚えのある寒々とした倉庫の中だった。


「……どうやら成功したようだけど、ここへ出るとはね……」


 そう、そこは僕がフリーダと出会ったあの倉庫の中だったんだ。


 本来であれば獣車を飛ばして数日の距離を、どうやって僅かなマナで転移したか?

 それこそが、僕が大魔法使い(ウォーロック)であることの証左でもある。


 通常、「転移門(ディメンジョンゲート)」の魔法は術者の前方に直径2~3mのゲートを開き、最短でも数十秒はそのゲートを維持して徒歩でそこを通過する形で運用される。それ故に魔術士(マギ)達はゲートの大きさと持続時間を定数と捉え、移動距離のみを変数とする形で術式を行使する。


 けど、先ほど僕が使った方法は「自分の足下」に「直径60cm程のサイズ」で「1秒間だけゲートを発生させる」という、ゲートサイズと持続時間をも変数とし、さらには極限まで条件を絞ったことで、低コストで遠距離まで転移できるチート的な「転移門(ディメンジョンゲート)」の行使だ。

 足下に転移門を開けば僕は引力によって自然に穴の中へ落下するし、僕の身体が穴を通り抜けるには1秒もあれば十分だ。つまり……僕は魔術士(マギ)達が使う定型の術式よりも数百倍も効率的に転移が可能なんだ。


 もちろん、この結果は偶然の産物じゃない。僕は「転移門(ディメンジョンゲート)」を習得したあとに、この便利な魔法を活用するためコストパフォーマンスの改善を行うための試行錯誤を繰り返した。その過程で思いついた方法が、これだ。

 ゲートサイズと持続時間は実際に全身鎧(フルプレート)を使って転移実験を繰り返し、最適な変数を導き出した。その過程で……通過途中にゲートが消滅した場合、空間の連続性が断たれ、強固な鎧が切断されるという事象――つまり、僕がドラゴンを瞬殺したあれ――を偶然発見したりもしたんだっけ。


 そんな事をぼんやりと考えながら、僕は周囲の様子に目をやった。倉庫の中は相変わらず無人で、冷え冷えとした空気で満たされている。僕がフリーダに飲ませたポーションの瓶が転がったままのところを見れば、おそらくあの後誰もここへ足を踏み入れてないのだろう。

 数日前と全く変わらない倉庫内の様子に、僕はまるで時間が止まっているかのような感覚を覚えた。


 けど……この数日で、ゾル=カタンは大きく変化した。


 レイジ……ハインリヒが死亡し、メンバーの大半が討伐されたドラゴンレイジは間違い無く活動を停止するだろう。そして真偽は定かではないけど、本当に皇帝が討たれたのだとしたら……この国の覇権主義が改められ、20年続いたという戦争も終わる可能性がある。

 けど、僕が思う一番大きな変化は……犯罪組織の頭目の情婦であった、独りの女性がすでにこの世にはいないという、帝国全体から見れば取るに足りないちっぽけな事実だった。


 変化したゾル=カタンは彼女が望んでいた世界の筈なのに、そこに彼女(フリーダ)はいない。


 ……そんな事を想いながら、僕は倉庫を後にする。

 ここはあくまでも任務で一時訪れただけの異世界で、この世界の事は全て自分には関わりのないことだと、自分に言い聞かせながら。


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