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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case3:ゾル=カタン-撃っていいのは撃たれる覚悟のある勇者だけだ
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#16


 その後、僕は大きな音に驚いて戻ってきたフリーダの手を借り、ドラゴンレイジの獣車を街道へと復帰させた。とは言え繋がれているダイアウルフは随分怯えているようだから、この獣車が動けるようになるにはしばらく時間が掛かるかも知れない。


「私達、これからどうすれば……」

「申し訳ないけど僕達は目的のある旅だから、君たちを保護したり故郷へ送り届けたりすることまではできないんだ。幸い獣車はあるし、魔法銃(マナガン)もある。なんとか自分達で宿場町まで戻ってくれないか?」

「ええ……?」

「悪いね。僕は勇者じゃなくて、ただの通りすがりだからさ」


 困惑した様子の彼女達に、お守り代わりだと告げてストレージから取り出した志織のポーションを1本与え、僕はフリーダを促してその場を離れた。


 僕の任務は須藤の転生体を狩ることであって、この世界に平和をもたらす事でも人々を救うことでもない。

 だから……僕の介入は、いつだって中途半端だ。

 いっそ異世界の事情には全く関わらなければ良いのかもしれないけど、目の前で苦しむ人がいるのを見過ごすことも出来ない。それ故に僕はこういう二重の意味で「甘い」対応を取ってしまう。

 何時の日か、その甘さが自分の身を滅ぼすことになるのでは無いかと思いながら。


「……いいのかい?」

「僕は慈善事業をしてる訳じゃないからね。それよりフリーダこそ良かったのかい?故郷から攫われた人達だったんじゃ……」

「……いや、さっきの子達は私の知らない子だったよ」


 彼女の言葉の意味は、故郷から連れ出された女性達は囮にされたか、それとも先ほどの場所でタラスクによって殺されたか……既に死亡しているということと同義だった。

 それが判るが故に、僕はフリーダに何も言うことができなかった。


「アタシ、アンタのことが良くわからなくなったよ」

「僕はただのロクデナシの悪党さ。たぶん、ハインリヒと同じレベルのね」

「本当のロクデナシは人助けしたりしないさ」

「なに、悪党だって気まぐれに人を助けることもある」

「それを悪党と呼んだりはしないよ。そいつは普通の人間っていうのさ」


 僕は色んな意味で既に自分が普通の人間の枠組みから外れていると自覚している。けど、フリーダから見れば僕はまだ「普通」の範疇に留まって見えるのだろうか。



 無言の僕達を乗せたまま獣車は街道を進む。陽が地平線に沈もうとする頃に峡谷を抜け、周囲の風景が見慣れた寒々しい平野へ戻った頃……僕達は街道を封鎖する一団に遭遇した。


「おい、止まれ!お前達、峡谷の方から来たのか?」

「ええ、そうですけど。何か問題が?」

「問題だと?大ありだ!大型の魔物が出て街道は通れないはずだ!」


 魔力銃(マナガン)を構え、少し離れた所からそう呼ばわる男。そして周囲には揃いの衣装を来た男達が複数こちらを胡散臭げに見ている。その様子を見て取った僕は、小声でフリーダに声を掛けた。


「フリーダ、もしかしてこの人達って」

「ああ、帝国軍の銃士さね」

「やっぱり。なら、これから押っ取り刀で魔物退治に向かうところかな?」

「人数的に見て先発隊じゃないかい?」

「……なるほど」


 言われてみればここにいるのは十数名程度。彼等がどの程度の出力で魔力銃(マナガン)を撃てるのかは判らないけど、あの甲羅を正面から撃ち抜くのは難しいと思う。なら、フリーダが言うように、どんな魔物が出たのかを調査しがてら初撃を加える、威力偵察部隊のような立ち位置なのだろう。


「銃士様、任務ご苦労様です。ですが既に魔物は退治されていましたよ」

「……何?どういうことだ!」

「いえ、僕達も急ぎの用事があったので恐る恐る峡谷を進んでたんですが、丁度小山のような亀に襲われかけた時に、助けが来まして」

「亀……?確か、キャラバンの連中がそんな事を言っていたが……。それで、助けとは何だ?辺境軍が動いているとは聞いていないぞ?」

「いえ、名乗られませんでしたが……おそらくあれが噂に名高い勇者様なのではないかと」


 まぁ、口かでまかせのはったりだけど、僕が倒したと勘ぐられるよりは、見知らぬ勇者が倒したことにした方がこの場を切り抜けやすいだろうと考えたんだ。僕の隣でフリーダが胡乱げな目で僕を見ているけど、さすがにこの場は黙っていてくれるらしい。

 けど、僕のでまかせは思いもよらない劇的な反応を引き起こすことになった。


「何!?ゆ、勇者だと!?ゾル=カタンの領内に勇者が入り込んでいるというのか!?」

「いえ、本物の勇者様かどうかは判りませんが……」

「おいお前、その勇者とやらは弓を持った、長い金髪で耳の尖った細身の女じゃなかったか?」


 銃士が言う「勇者」の姿を僕は脳内に極めてリアルなイメージとして思い浮かべる事が出来た。なぜならそのステレオタイプな記号は、あからさまにエルフのものだったからだ。けど、銃士達は「女エルフの勇者」とは口にしない。

 隣国の勇者は召喚された存在であると僕は推測していたけど、もしかしたらその勇者はエルフで、この国ではエルフという種族そのものが認知されていないのだろうか……?


「ええ、そんな感じでしたよ。帝都に向かうと言われて、峡谷の奥へ姿を消されましたが……」

「むぅ……これは魔物どころではないぞ!おい、第1小隊は前進してこの男の話が本当か確認してこい!第3小隊は帝都へ伝令を飛ばし、勇者侵入の報を皇帝陛下にお伝えするのだ!」

「「はっ!」」


 僕に声を掛けてきた銃士が何やら周囲に指示を飛ばしている。どうやら僕の吐いた嘘のせいで大事になるようだけど……まぁ、第1小隊は巨大な甲羅を見つけるだろうから、あながち嘘だと思われることもないだろう。


「銃士様、僕達は通っても良いですか?連れが疲れている様子なので、宿で休みたいのですが」

「……うむ、仕方ないな。行け!」


 情報提供に対する礼も無しかと一瞬思ったけど、僕が彼に告げたのは基本的にでまかせだ。ならこの対応も甘んじて受けるべきだろう。

 慌ただしく動き出した銃士達を後ろに残し、ようやく宿場町が見えてきた頃にフリーダが心底呆れた口調で言った。


「ユート、アタシはようやくアンタの職業が判ったよ」

「……へぇ、何だい?」

「アンタ、詐欺師だろ?」

「……まぁ当たらずといえども遠からず、かな」

「はぁ……」

「ならフリーダ、折角だから僕の本当の職業を教えるよ。僕は大魔法使い(ウォーロック)なんだ」

「はいはい。魔法使いなんて詐欺師の親戚みたいなもんだからね、大詐欺師ってことだろ?」


 投げやりな口調でそういうフリーダに、僕は思わず吹き出してしまった。


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