#13
その後、屋根裏部屋へと戻った僕達は先ほど中断した会話を再開する。
「で、フリーダ?どうして僕に相談してくれなかったんだい?」
「ドラゴンレイジの件はアタシの問題だからね。無関係なユートを巻き込むわけにはいかないだろ?」
「同行しているのに無関係って水くさくないかい?」
「同行してるって程度の関係性で喧嘩を売るにはヤバい相手なんだよ」
まぁ確かに連中は魔法銃を運搬している訳だし、いざとなったらそれを使ってくる可能性は高い。となると仮ににフリーダがこの宿場町で攫われた人達を見つけたとしても、奪還する術がなかったことにならないだろうか?
「まぁ、それはそうなんだけどね……」
「また殴り倒されても、今度は助けられないかもしれないよ?」
「この前の事はもちろん感謝してるさ」
「……しかし連中がここにいないって事は、魔物が出ることを承知で帝都へ向かったのかな」
「横流しの魔法銃を運んでるからね。普通の魔物ならそれで蹴散らせると考えてるんじゃないかい?」
「なら、明日の早朝に僕達も街道を進んでみようか。もし連中が魔物を退治していれば次の宿場町へそのまま向かえるし、迂回した形跡があればその後を追えばいい」
「もし連中が魔物に襲われて全滅してたらどうするんだい?」
「そのときは……運を天に祈るしか無いね」
「アンタが賢いのかバカなのか、時々判らなくなるよ」
酷い言われ様だ。けどこの世界の魔物がどの程度の脅威かは判らないとはいえ、街道封鎖で済む程度の魔物なら十分倒せる自信がある。
これが世界を滅ぼすレベルの邪神や魔王クラスとなるとさすがに手こずるとは思うけど……。そんなモノが現れていれば、獣車が足止めされる程度じゃ済まないだろうからね。
翌日の早朝、僕達は宿場町を後にした。他のキャラバンや駅獣車の乗客達からは自殺行為だと言われたけど、前日にドラゴンレイジの連中が出発していることを話し、状況を確認して通れなさそうなら戻ってくると説明したことで引き留める人々とフリーダを納得させることができた。まぁ実際は魔物が出た場合は引き返すのではなく倒して前進することになるだろうけどね。
フリーダが言うにはここから先はしばらく渓谷の中、川沿いを進む道になっているらしく、大きく迂回して魔物の出現ポイントを避けることが難しい地形なのだそうだ。
「なるほど、それなら確かに魔物が排除されるまで通行止めになる理由はわかるよ」
「理由がわかるって言いながらも、わざわざ魔物の出るところへ向かってるアタシ達は……」
「そう言えば車を引いているダイアウルフだっけ?こいつに戦闘力は無いのかい?」
「戦闘用に飼われてるものじゃなくて運搬用だからね。牙や爪を丸めてあるから魔物と戦わせるのは無理さね」
対向車に喧嘩を売る様子から気性が荒いとは思っていたけど、そんな魔獣に荷車を引かせるためにわざわざ物理的な処置をしているとは思わなかった。けどそういう理由なら魔獣に引かせる車だといっても、必ずしも他の魔物を追い払える訳でもないのか。
寒空の下とは言え、今日は薄日が差していてこれまでよりは若干暖かい。焼け付くような日差しが続いていたアケトアテンと極寒のゾル=カタン、どうして異世界はこうも極端な気候なのだろう……。そんな事を考えている間にも、僕達の獣車は渓谷を進む。
対向車が全く来ないということは、やはりまだ魔物が街道に居座っているのだろうか?ならドラゴンレイジの連中が戻ってこないのはどういう理由だろう。
その疑問は、昼前に想像していなかった形で解消されることになった。
「なんだい、これ……」
「食い荒らされたダイアウルフの死体に見えるね。おそらくこの周辺に例の魔物とやらがいたんじゃないかな?」
「ユート、アンタどうしてそんなに冷静なんだよ!」
そう、乱れた轍が目立つ街道脇に、明らかに食い荒らされたとおぼしきダイアウルフの死体が転がっていたんだ。
僕達が使っている獣車を引くダイアウルフも同族の死体に警戒と若干のおびえを隠せない様子だ。僕はフリーダに獣車を少し離れた所へ停めて貰い、死体の様子を検分することにした。
かつてのパーティメンバーであるレンジャーの「姉御」に教わった痕跡観察の知識を総動員し、僕は死骸と周囲の様子を観察する。
死骸はダイアウルフのもので間違いない。死因はおそらく頭部に受けた爪か何かの一撃だろうか?随分と酷く強打されたらしく、魔獣の頭部は原形を留めていない。そして腹部を中心に喰い荒らされた痕跡が見えるけど、完食という様子ではない、か。
周囲に飛び散ったおびただしい血痕は既にどす黒く変色しているし、小さな虫が集り始めている。ただ周囲の気温が低いこともあって腐敗は進んでいないようだ。……総合的に見て、これは直近のものではないと判断できる。
「……見たところ、死後1日近く経っている感じか……」
「ユ、ユート、近くに魔物はいないのかい?ドラゴンレイジの連中も皆やられちまったんじゃないかい?」
「大丈夫だよ、フリーダ。この魔獣が殺されたのはおそらく昨日のことだ。それに獣車の残骸が見当たらないし、轍が先へ続いている。ドラゴンレイジの連中はこの場から逃げ出してるよ」
「じゃあ、魔物は……?」
フリーダの言葉に、僕は川岸に残された巨大な足跡に目を向けた。おそらくアレが捕食者の足跡だろう。亀のような魔物という噂があったけど、水中に潜んでいたのだろうか?
いや、でも黒々とした血痕混じりの足跡は街道の先へ向かって続いている。この足跡から推測できる状況は一つだ。
「おそらくその魔物はここでドラゴンレイジの連中を襲い、獣車を引いていたダイアウルフを一頭殺した。そして魔物がその死骸を喰っている間にドラゴンレイジの連中は前進したんだと思う。魔物の方はのんびりと完食してた様子じゃないし、ある程度喰い終わった時点でドラゴンレイジを追っているようだね。たぶん、1体じゃ喰い足りないと思ったんだろう」
「平然と怖いこと言わないでおくれよ……。ダイアウルフを殺して喰う魔物なんて聞いたことないよ!」
「足跡のサイズからすればそれなりに大型の魔物だろうね。けど、数が読めない……1体にしては足跡の数が少し多いように思えるし、複数体だとしたら捕食中にドラゴンレイジが逃げられるとも思えないし……」
「だから、なんでそんなに冷静なのさ!」
悲鳴混じりの声でフリーダはそう言うけど、一撃で獣車隊を全滅させる攻撃力を持たない魔物なら、中堅クラスの冒険者でも十分狩れる程度の脅威度でしかない。なら、そう警戒することもないだろう。
「フリーダ、先を急ごう。連中が仲間を見捨てて逃げるタイプなら、1頭立てになった獣車が見捨てられているかもしれない」
「ええ!?引き返すんじゃないのかい!?」
「……特に引き返す理由は無いだろ?百歩譲って戻るにしても、どんな魔物かぐらいは確認しておくべきだ」
「アンタ、本当に何者なんだい……。やっぱりベイステアの『勇者』じゃないのかい?」
「やめてくれ、フリーダ。僕は……勇者なんかじゃない」
そう。僕は元勇者であり、今は勇者を狩る者、勇者狩りなのだから。




