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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case3:ゾル=カタン-撃っていいのは撃たれる覚悟のある勇者だけだ
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#10

 フリーダに聞いた物価レートから考えれば数日分の宿代や食費は十分に確保できているようなので、これぐらいあれば当座の資金としては問題ないだろう。

 最悪の場合、ストレージの中に志織と旅する時に買った食料がまだ数日分は残っていることだし、道中で食糧不足に悩むことは無いはずだ。


 ……そう、道中だ。僕はフリーダに帝都へ向かうと言ったけど、本当はドラゴンレイジがアジトを構えているという帝都郊外へ赴こうと考えていた。フリーダには嘘をついたことになるから少々心苦しいけど……。そう思っていたのだけど。


「ユートは帝都へ行くんだね?なら、アタシも一緒に行くよ」

「え?どうしてそうなるんだい?」

「アタシももう、この街じゃいられないからね。そろそろ潮時だと考えてたのさ」

「いられない ってどういうことか説明して貰えるかい?」

「言ったろ?アタシはハインリヒの幼なじみだって。これまではそれが抑止力になるからって、ここへ残る事を許されてたんだ。けど、今のアタシじゃドラゴンレイジを止めることもできやしない。そうなったらこの街にとってアタシは用済みさ」

「そんな事はないだろ?ここはフリーダの故郷なんだし」

「だから、余計にいられないのさ。ガキの頃からアタシがハインリヒとつるんでた事も、火事の時にアイツを助けたのはアタシだってことも、皆知ってるからね」


 ……つるんでいた、とフリーダは言うけど、哀愁を帯びた表情から察するに、どうやらハインリヒとフリーダは恋愛関係にあったのではないかと僕は思った。そして何よりも……放火された自宅からハインリヒを救ったのがフリーダだったなら。

 もし彼女がハインリヒを助けなければ、ドラゴンレイジが暴虐を働くような羽目にはならなかったのに、と考える住民が現れてもおかしくはない。


「それにアンタ、獣車は扱えるのかい?さっきも交易所でビビってたじゃないか」

「馬車なら扱えるけど……似たようなもの、じゃないのかな?」

「何いってるんだい、全然違うよ。アタシは獣車が扱えるから、乗せていって貰う駄賃代わりに御者をしてやるよ」


 ……どうやらフリーダは本気でこの街を離れるつもりのようだ。彼女が獣車を扱えるなら帝都の近くまで彼女に運んで貰い、適当なところで姿をくらましてドラゴンレイジのアジトへ向かうのがベストだろうか。

 獣車があればフリーダは帝都で生活の立て直しが出来るかもしれないし、銀貨の数枚でも残しておけば謝礼としては十分だろう。


「判ったよ、フリーダ。じゃあ帝都までの御者をお願いするよ」

「まかせな、ユート」


 笑顔でそう言うフリーダの顔を見る僕の心は、少しだけ痛んだ。



 すぐにでも帝都へ出発しようと考えていたのだけど、フリーダが言うにはもうすぐ陽が暮れるらしい。どんよりと曇ったゾル=カタンの空は時間がわかりにくいと僕がこぼすと、フリーダは呆れた様子で言った。


「日光の具合で時間を見るって、どんな後進国から来たんだい、アンタ。時計ってもんだあるだろ?」

「……あるんだ、時計」

「ほら、あそこ。もうすぐ夜さね」


 そう言ってフリーダが指さしたのは、リビングに置かれていた……光を放つ物体。そう言えば照明にしては出力が低いとは思っていたんだけど、改めて見るとその光が文字を描いている?

 ローカライズによる翻訳効果で僕はゾル=カタンの文字を読むこともできるけど、それには少し意識を集中する必要がある。視野の端にチラリと入る程度では意味不明な記号にしか思えなかったんだけど……。問題はそれが僕の知っているレトロ技術によく似ていたことだ。


「あれ、もしかしてニキシー管かい?」

「ニキシ……なんだいそれ。魔力導管だよ」

「魔力を使って光らせてるってこと?」

「ああ、そうさ。どうだい、ゾル=カタンが誇る発明品の一つさ」


 僕の認識ではニキシー管のように見えるけど、電気由来ではなく魔力で稼働するもののようだ。レトロフューチャー的でどこか郷愁をそそるその時計は、ゾル=カタンと言う帝国が軍事拡張のために持てる国力の全てを注ぎ込む以前の時代に作られた遺物らしい。


「そう言えば交易所には魔力を使う品は置いてなかったけど……」

「今は魔力を使う品っていえば魔法銃(マナガン)ばかりだからね。時計を作る資材があるなら魔法銃(マナガン)を作れってのが皇帝の方針なのさ」


 僕はゾル=カタンと言う国が先頃訪れたアケトアテンと同じような魔導技術の発達した国だと理解していた。

 けど魔導技術を使った兵器の類いを一切開発せず、民の生活を便利にすることを至上命題としていた王立工房、ひいてはアケトアテンの人達と比べると、この帝国の技師達が作る代物はなんと殺伐としていることだろう。


 もちろんアケトアテンだって僕達の世界から奪ったリソースを動力源「エーテル」として使っていた訳だから、その行い全てを肯定できる訳じゃない。けど、それでも……同じ奪った力を人々の為に使う方が、まだマシだと思わざるを得なかった。



 結局、街を出発するのは翌日ということになり、僕はフリーダの好意に甘えて彼女の家に泊めて貰うことになった。ただ、彼女の家に泊まることに問題が無かったわけでもない。


「どうしたんだい?別に遠慮なんてしなくていいんだよ?」

「いや、遠慮じゃないよ」

「ウブだねぇ?」

「いや、別にウブって訳でもないんだけど……。でも共寝は遠慮しておくよ」

「そうかい?可愛い顔してるから、イイコトしてあげようと思ったのにさ」


 長年独り暮らしをしていたらしいフリーダの家にはベッドが一つしか無く、彼女から同じベッドで寝るようにお誘いを受けてしまったんだ。

 もちろん、ただ寝るわけじゃないのはフリーダの表情を見ればすぐに判った。据え膳食わぬは……とは言うけど、僕は現実世界でもすでに志織の猛攻に屈しかけている状況だ。ここで迂闊にフリーダに手を出してしまったら、たぶん日本に戻ったときに歯止めが利かなくなる。

 そう自分に言い聞かせて……僕はフリーダの誘いを断り、リビングに置かれた古ぼけたソファーで眠ることにした。



 そして翌日。家財道具の大半を小さな家に残し、身の回りのものだけを大きなトランクに詰めたフリーダと共に、僕は帝都へ旅立った。彼女が言うには獣車で移動すれば4日の行程らしい。


「ここって辺境だと思ったんだけど、随分と帝都は近いんだね?」

「アンタがどういう距離感かは知らないけど、徒歩じゃ行けないって言っただろ?」


 そう言うとフリーダはオオカミに似たダイアウルフなる魔獣に鞭を入れ、獣車を発車させた。街中を移動する速度は馬車よりも少し速い程度で、やはり僕とフリーダの距離感はずれがあるのかと思ったのだけど。その考えは街の外に出てすぐに解消された。


「じゃあ、飛ばすよ!」

「……え?」

「はいよー!」


 そう言ってフリーダが再度鞭を入れると魔獣は猛烈な勢いで走り出した。……なんだ、これ!?馬車の2倍……いや3倍近い速度が出ている気がする。

 僕の知っている長距離馬車の速度はは時速10Kmが限界だけど、この魔獣が引く獣車は時速30Kmは出てるんじゃないだろうか。もちろん単純な速度で言えば日本で走っている自動車とは比べものにならないけど、それでも遮るもののない御者台に座って風を受けていると、体感的には自動車よりも随分と速いように感じられる。


「どうだい、獣車は」

「うん、これは凄いね。僕じゃ御せないし、これで4日なら歩きじゃ無理だ」

「あははっ、アタシを連れてきて正解だったろ?」

「そうだね。感謝するよ、フリーダ」

「何、お互い様さ」


 どうやらゾル=カタンの獣車もアケトアテンの馬車同様、乗り心地を改善するための工夫が施されているようだ。もし普通の馬車でこんな速度を出したら舌を噛むどころじゃないのに、普通に会話が出来るからね。

 本来であれば優れた技術はこういうことに使うべきだろうに、と一瞬思ったけど……。よく考えれば現実世界で使われている多くの技術も元を辿ればその多くが軍事技術として開発されたモノがルーツになっていると聞いたことがある。

 なら、いつかゾル=カタン帝国が覇権主義を放棄して内政に力を入れれる日が来れば……。僕とは関わり合いの無い異世界のことだけど、フリーダの横顔を見ながらそんな事を思った。


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